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再び、海の底へ

 そろそろ日も落ちるということで昨日と同様、実幸みゆきさんと春松はるまつくんは家に帰ってしまった。僕たちは明日の待ち合わせ時間を決め、別れを告げる。やはり千馬ちばさんとジンは僕に付いて来るらしい。


 なんだけど、千馬さんになんだか元気がない。眠いのかな、と思ったのだがどうやらそうではないらしく。ただただ暗い顔をしている。いつの間に何かがあったのか。でもなんか、聞ける雰囲気ではなかった。幸いと言うべきか、ジンが全く気にせず相変わらず楽しそうに話しかけていて千馬さんはちゃんとそれに言葉を返しているので、ひとまずジンに任せることにした。

 一応「付いて来ますか」と聞いたら、頷いていたし。付いて来る元気があるなら大丈夫だろう。


 というわけで僕がやって来たのは──とある廃墟ビル。もう見慣れた建物だ。


「ぼろい!!」

「そうだね、ボロボロだね……」


 そしてジンが意気揚々と正直な感想を叫ぶ。そうだね、以上に言えることなどなかった。だって本当にボロボロだから。

 まあだからこそ、あまり人が寄り付かず利用する人にとっては都合の良い建物なのだが。


 しっかり電気の通ったエレベーターに乗り込み、僕はボタンを指先で叩く。最初は記憶するのに苦労したこれも、もう慣れた。……いや、パスワードはすっかり変わっているし、さっき電話口で口頭で教えてもらって暗記したわけだけど……。

 地下へ向かうためのボタンはないにも関わらず、エレベーターは下に進んでいく。そして一度止まると扉が開き、箱から箱へ乗り換えた。全員乗ったことを確認し、僕はまた先程暗記したパスワードを入力する。ちゃんと間違えず入力出来たようで、それは今度は横へと進んでいった。


 進んでいくのは、海の中。何これー! とジンが叫び、跳ねて動き回り、千馬さんは声こそあげなかったものの驚いたように目を見開いていた。


 なんか本当、慣れてしまったけれど頭のおかしい場所だな……と思う。なんだよ、職場が海中って。冷静に考えると海中が職場って何、本当に。


 そんな僕の思考を他所に、箱──もとい移動装置は動きを止め、扉が開く。その先には見知った顔が立っていた。


伊勢美いせみ、よく来たな」

いずみさん、こんばんは。……突然だったのにありがとうございました」

「別にいいよ。今夜も徹夜するつもりだったし……よく分からないけど、小鳥遊たかなしを見つけるためなんだろ?」


 泉さんはそう言って微笑む。僕は頷いた。


 青柳あおやなぎいずみさん。対異能力者特別警察のなかの組織の1つ、特別部隊──通称「湖畔隊」の隊長。そして……明け星学園の元生徒会長で、言葉ことはの直接の先輩。

 この人が卒業するのとほぼ入れ替わるような形で、僕は明け星学園に転入した。この人は、僕が知らない言葉を知っている。





 僕たちは会議室に通され、千馬さん・僕・ジンの3人、泉さん・忍野おしのさんの2人が向き合う形で座る。なんかシレっと忍野さん来たな。いつの間に来たんだ。お陰で隣にいる千馬さんが怯え始めているのが肌で分かる。


「で、ところでそいつは誰?」


 そして話し始める前に、泉さんがジンを見つめながらそう尋ねてくる。ああ、と僕は呟いて……毎度思うが、この子をどう説明すればいいんだろう。


「この子は、ジンです。えっと……なんかよく分からない存在です」

「よく分かんねぇのかよ……」


 僕の紹介に、忍野さんが呆れたようにそう呟く。言い返したいところだが、言い返せることなど何もないのが悔しい。


「えーっと……なんか実幸さん、春松くんと同じ魔法が使える方によると、人間じゃないみたいで……こっちの常識は通用しない的な……確かになんというか、異質っていうか……なんか突然背も伸びるし……」

「本当によく分かってねぇんだな」

「よく分かってないんです……」

「俺は青柳泉。こっちは忍野おしの密香ひそか。よろしくな、ジン」

「……」


 泉さんは面白がっているようで、笑いながらジンにそんな風に挨拶をする。しかしジンは黙っているだけで、また言うことちゃんと聞いてるのか、と僕は思い至った。


「ジン、喋って良いよ」

「分かった!! わらわはジンだよ!! わらわは母さんの子供だよ」

「うわ、急に喋るじゃん」

「わらわってなんだよ……」


 案の定、ジンは相変わらず礼儀のれの字もない調子で喋ってしまう。まあいいだろう。どうせこの人たちだ。

 というかもっとツッコむべきところがあると思うのだが。そう思っていると、ん? と泉さんが首を傾げて。


「母さんって誰?」

「母さんは母さんだよ」

「一応僕みたいです」

「「…………………………」」


 僕が小さく挙手をすると、泉さんと忍野さんはその場で固まる。そして2人が何かを言う前に。


「言葉とは何もないです、お父さん」

「俺小鳥遊のお父さんじゃないから!!!!!!!!!!」

「ナイスツッコミ」


 少しだけボケると、泉さんがすぐに叫び返してくれる。泉さんって本当、良い人だな。


 そう思う僕の正面で、何漫才してんだよ、と忍野さんが呆れたように呟くのだった。

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