焼き払って
「……では早い話、ミーくんを使わなければいい、ということですか?」
「え? あ、はい、まあ……」
「じゃあ」
僕は「Z→A」でマネキンを生成する。服屋に置いてあるようなあれだ。はい、と言うと、はいって、と千馬さんは眉をひそめた。
「一応生物を模しているので、異能力の使用範囲には入ると思うのですが」
「え、えっと、あの、まあ入ると思いますけど、これは……」
「ミーくん、燃やされないように気を付けてくださいね」
「……茜がいなくても会長さんはすごい人だし、その人もなんかすごいし、別に大丈夫だと思いますけど」
マネキンを押し付けられた千馬さんは、どこか不満げにそう呟く。そんな千馬さんを見つめ、僕は告げた。
「──貴方の力が、必要です」
「……え」
「だから、貴方の力を貸してほしいです」
こうして話している間にも、黒い人影はどうやら自分が幻覚と戦わされていることに気付いたらしい。キョロキョロと辺りを見回し、やがてこちらに視線を向けたまま、止まったのが横目に写る。
僕は千馬さんから目を逸らさない。
千馬さんは戸惑ったように、え、ぁあ、えっと、と呟き、視線を彷徨わせていたが。
「~~~~っ、分かりましたよ!!!! やればいいんでしょ!!!!」
「理解が早くて助かります、行きましょう!」
「上手く丸め込まれた気がする~~~~っ」
ご名答、上手く丸め込む気満々だった。
でも、言ったことは嘘じゃない。自分ではあまりそう思っていないみたいだけれど……千馬さんの異能力は、それなりに強い。
異能を使い操るだけで、直立不動のまま相手を倒せてしまう。どうやら異能の代償で自身にも疲労やダメージが来るようだが、それでも半減以下になっているらしい。長く連れ添っているミーくんを使えば、まるで筋骨隆々な男性のようなパワーを発揮する。純粋な体術のみで戦うなら、僕はきっと負けるだろう。
まあ今回はミーくんを使いたくない、ということだから仕方がない。だがそれでも、千馬さんが生物を模した物体を介することで彼女の元のポテンシャルより倍以上の力を発揮することには変わりないだろう。
「春松くん!」
『任せろ、指揮は執る』
僕が呼ぶと、彼が冷静な声で応える。突然頭の中に声が響いたからだろう。千馬さんはワァッと声をあげたが、僕は答えずに大きく上に飛び上がった。
そして構えるは日本刀。同じようにその腕を斬ったがやはり手ごたえがないし、すぐに回復してしまった。こちらに伸ばされる腕を、千馬さんが操っている巨大化したマネキンが受け止めてくれる。僕は空中で1回転をし、着地した。
「どう思います?」
『あれは俺の異能力に近いものだと思うんだよな』
「幻覚?」
『ああ、だから見た目の割に感触がないだろ。だがあれは触ることができるものだし、実際に被害も出ている』
僕はちら、と横を見る。黒い人影がよろめき、尻もちをついた部分。その下にあった遊具はぺしゃんこになっていた。
そして頭上を見上げる。そこでは相変わらず、千馬さんの操作する巨大マネキンと黒い人影が互いの手を弾き合っていた。なんか柔道でどう技を掛けるか駆け引きする、あの時間みたいだな……なんて余計なことを考えて。
『俺の異能力は、理屈を突き詰めると光の放出量を調整して、眼の水晶に写す像を偽りのものと結びつけるというものなんだが』
「急に少し考えないと理解できないこと言うのやめてもらってもいいですか?」
『あれはそういうものじゃないな。俺は存在するが触れられないものを扱っているが、あれはちゃんと触れられる。だが一方で、自由自在に変容が出来るもの』
「……つまり?」
たぶんこれ思考を全部口に出してるだけだな、と思う。結論を急かすと、春松くんはつまり、と呟いた。
『小さな粒子の塊』
「小さな粒子の塊?」
『千馬、なんとか人影を押さえ込めろ。伊勢美はまとまったそれを焼いてやれ』
「難しいことを言う~~~~」
春松くんの指示に、千馬さんは文句を言いつつも手を動かしてマネキンを操作する。するとマネキンは黒い人影を蹴り飛ばし、その上に覆い被さった。おお、大胆……。
「焼くって、さっきみたいに?」
『そこに温度があるなら。……お膳立てはしてやるよ』
すると春松くんは何かを呟く。すると黒い人影は何か見えない力に押されたように、その体がへこんでいく。千馬さんが操るマネキンもそれを良いことに体を更に強く抑え込んで。
やがてそれは、1つの立方体に変容した。
マネキンはこちらにそれを差し出す。僕は日本刀を構え、真っ直ぐにそれを見据えた。そして。
『──消して、全て』
「……え」
何か声が聞こえた気がしたのと、僕が光線を出すのは同時だった。
高熱の光線に焼かれた立方体は、あっという間に塵になり……空気中に溶け込むように、消えてしまった。まるで、初めから何もなかったみたいに。
あれは、一体。いや、それよりも。
「……言葉……?」
先程の声、あれは、僕が何よりも追い求めている人のものではなかったか?
──────────
思考と行動は同時に。僕は合流した本間先生から改めて卒業アルバムを受け取り、横目に壊れてしまった遊具を魔法で直していく春松くんと実幸さんを見ていた。
さっきの黒い人影は、なんだったのだろう。言葉の声は? なんか若干違うような気もするが、ほぼ同じだった気がする。なんだか、何て言うんだろう、なんか別のものが、異物が混ざっているような……。
千馬さんに返却されたマネキンを「A→Z」で消していると、僕のスマホが大きく音を立てた。うっかりそのままスマホも消しそうになってしまい、なんとか堪える。
ディスプレイに表示された名前は、よく知っている人だった。
「泉さん、丁度良かった、ちょっと変なものが現れて──」
『小鳥遊に会えたのか!?』
せっかく向こうから連絡してくれたわけだし、ついでに小学校にこんなものが現れたから異能力のせいか? ということを報告兼意見を仰いでみようと思ったのも束の間。向こうから叫ぶように聞かれ、僕は思わず閉口してしまった。
だがすぐにその言葉の意味を理解すると、近くにあった花壇の縁に座りながら返す。
「依然として見当たりませんよ。一体どうしたんですか」
『そう、なのか。……おかしいな……』
そして次に放たれた言葉に、僕は息を止めてしまった。
『ついさっきまで、小鳥遊の異能反応があった場所とお前の現在位置が、ぴったり一致してたんだけど……』




