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空を覆う黒い人影

「きゃぁっ!? な、何……!?」

「春松くん、実幸さん、本間先生をお願いします。僕が行く」

「はーい♡ 任せちゃってくださいよ~」

「俺はお前と行く。実幸1人いれば事足りるだろうし。サポートするよ」

「助かります、ありがとう」


 僕たちはすぐに立ち上がり、役割分担を済ませる。目を白黒させる本間先生に構わず、僕は窓を開いた。ここからだと、校庭の様子がよく見える。


 校庭に、何かいる。あれはなんだ、黒い、人影? ……とても大きくて、太陽の光を妨げている。生徒たちはそれから逃げまどっており、黒い人影はその場で暴れているようだった。


 僕と春松くんは窓枠を飛び越えると、そのまま校庭まで走る。その中心には見知った人の姿があった。


「千馬さん!!」

「ッ、か、会長さん……!! ななな、なんですかあれ!?」

「分かりません。分かりませんけど……ヤバそうなのは確かです」

「や、やだーーーーっ」


 僕の言葉に千馬さんが涙目になる。僕はその背中に手を添えた。


「行きますよ」

「ぃっ、いいい、行くって」

「僕と貴方で、あれを対処します」

「えぇぇぇっ!? 正気ですか!?」

「正気です。行きますよ。……春松くんは児童たちに被害が出ないようお願いします」

「了解。任せとけ」


 春松くんは魔法の杖を取り出すと──そういえばなんか燃えてたけど気づいたら復活してるな……──何か呪文を唱える。とりあえずそちらは任せておいて、僕は前に向き直った。


「ところで千馬さん、あれってどう出現したんですか」

「わっ、分かりませんよ! なんか気づいたらそこにいて、なんか暴れ出して……!!」

「そうですか、非常に迷惑ですね」

「全くです!!!!」


 僕たちがそんな会話をしていると、黒い人影がゆらりと動き始める。それは校舎の方を見ると、大きく腕を振り上げた。


「ッ、『Z→A』ッ!!!!」


 反射的に何をしようとしているのか悟った僕は右手の人差し指を前に突き出し、異能力名を叫ぶ。すると僕の人差し指から光線が迸り、それは黒い人影の腕を吹き飛ばした。


「か、会長さん、すご……」

「いや……あれじゃ駄目です」


 全くと言っていいほど手応えがない。


 すると僕の予想通り、黒い人影の腕は瞬く間に再生した。それは再び腕を振り上げ、ひっ、と千馬さんが隣で小さく悲鳴を上げる。


「千馬さん!!」

「っ、わ、分かりましたよぉ……」


 千馬さんは腕に抱えるクマのぬいぐるみを、えいっと上に投げた。そして。


「──『Play doll』!!」


 叫ぶ。……するとクマのぬいぐるみは、みるみる大きなサイズになっていった。それは目の前にそびえ立つ黒い人影と同じくらいに。


「……怪獣と怪獣の対決みたいですね」

「ミーくんは怪獣じゃありませんッ!! ……あぁっ、ちゃんと動かさないと……!!」


 僕が正直な感想を告げると、物凄い剣幕で怒鳴られる。謝る暇もなく、千馬さんは手を前に向けた。


「行って!! ミーくん!!」


 千馬さんの掛け声で、クマのぬいぐるみ──ミーくんはのっそりと動き始める。そして黒い人影が勢い良く振り下ろした腕を……白刃取りのように受け止めた。


「おお、すごいですね」

「見てないでッ……手を貸してくださいッ!!!!」


 千馬さんはまるで自分があの黒い人影を食い止めているかのように顔を歪めると、僕に向かってそう叫ぶ。そしてミーくんが腕を掴んだそのまま、黒い人影を押し倒した。黒い人影は無抵抗に倒れたものの、何か壁のようなものに寄りかかるような形になる。恐らく春松くんの魔法で、近隣住民に迷惑が掛からないようバリアを張ってくれているのだろう。


 思わず感心をしてから、僕は言われた通りその場から駆け出す。そして走りながら日本刀を生成。起き上がろうとする黒い人影の腕を、再び斬り落とした。

 だけどやはり、手応えがない。当然のように黒い人影は再び腕を創り出し、僕に手を伸ばしてくる。このままじゃキリがない。どうにか弱点を探さないと。

 ……というかこの黒い人影は、どうして小学校を壊そうとしているんだ……?


 そんなことを考えていると、黒い人影の手から勢い良く何かが放たれてきた。僕は日本刀でそれを防ぐ、が。



 日本刀が、ボッと音を立てて燃え始めた。



「えっ」

「伊勢美!!」


 すると春松くんの声が聞こえ、視界が大きく回る。抱きかかえられてそのまま地面に倒れたのだと、遅れて気づいた。体を起こすと彼が下敷きになってくれていたため、僕にそんなダメージはなかった。庇ってくれたのだな、と思う。


「春松く、」

「悪い、変な助け方で」

「いえ……助かりました」


 謝るのはこちらの方だ。あのまま春松くんが庇ってくれていなかったら、どうなっていたことか。


 黒い人影の方を見る。それは何もない地面にひたすら攻撃を放っている。まるで見えない敵がいるみたいに。千馬さんも戸惑ったように眉をひそめていて、僕の視線に気づくとミーくんを一度元のサイズに戻し、こちらに駆け寄ってきた。


「会長さん、何がどうなって……」

「……俺の異能力で、伊勢美の幻覚を見せている。一応あれに、『目』っていう概念はあるみたいだな」

「……春松くんは幻覚を見せる異能力を持っているんです。それで架空の敵と戦わせている感じですね」

「な、なるほど」


 春松くんが余計な分析を挟むものだから、僕が千馬さんにそう補足する。彼女は納得したように頷いた。


「でもどうせ長くは持たないんでしょう。どうしますか、あれ」

「どうせって言い方しなくてもいいだろ……そっちの異能力は何だ。なんか、ぬいぐるみがデカくなってたけど」

「ぇ、えと、ぬいぐるみを操れる能力、です……」

「生物を模した物体を思い通りに動かすことができる異能力です。特にこのぬいぐるみ」

「ミーくんです」

「ミーくんが一番操りやすいみたいです」


 千馬さんの説明を更に詳しく僕が言う。なるほど、と春松くんが相槌を打った。


「……会長さん」

「はい?」

「あれ、なんか燃やしてましたよね」

「なんか燃やしてましたね」


 武器を燃やされようと僕にはあまり関係ないが。再び「Z→A」で日本刀を生成すると同時、千馬さんが告げた。


「じゃあ茜、戦いたくないです」

「え」

「ミーくん燃やされちゃったら、困るので」


 そう言って千馬さんはミーくんをぎゅっと力強く、抱きしめる。僕と春松くんは思わず顔を見合わせた。

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