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貴方が話してくれたこと

「というわけで、辿り着きましたよ~!!」

「……また家じゃないですか」


 実幸みゆきさんと春松はるまつくんの家に訪れ、言葉ことはの話を聞き、実幸さんの妹である海歌うみかさんから「千馬ちばあかねには気を付けた方が良いかもしれない」という警告をいただいた後。実幸さんの先導で住宅街を歩いていた僕たち一行だったが、辿り着いたのはとある一軒家。また家だ……。


 誰の家なのだろう、と表札を見て、目を見開いた。そこには「小鳥遊たかなし」と書いてあったから。


「そう、言葉ちゃんのお家です」

「い、いや、お家です、って」

「あれ、緊張してます? そんな、結婚の挨拶に行くわけでもあるまいし、固くならなくて大丈夫ですよ~っ!! ぴんぽーーーーん!!!!」

「いや、緊張だってしますよ!!!!」


 意気揚々とチャイムを押す実幸さんに、思わず叫び返してしまう。


 だって、言葉から色々話は聞いている。本当に大事に、愛されて育てられたと。明け星学園に通う時、一人暮らしを始めた自分に沢山融資をしてくれたし、1カ月ごとに仕送りをしてくれた。お陰で寒さに震えたことも、空腹で困ったこともない。本当に感謝していると。……だからこそ今、合わせる顔がないと。何にせよ、異能犯罪者になってしまった彼女は今会うことは出来ないけれど、もし会えるとなっても合わせる顔がないと、そう言っていた。


 ──彼女からそんな優しい両親を奪ったのは、僕だ。

 僕の存在がなければ、彼女はあのような行動を取ることはなかっただろう。……でも、実幸さんの「昔話」によると、何にせよ彼女はああいう行動を取るのか……? いや、運命がどうであれ、原因が僕にあるという事実には変わりない。


 とにかく、そんな僕が言葉のご両親と会うだなんて……それこそ、合わせる顔がない!


 思わず後退ったが、春松くんが僕の肩に手を置く。それだけで逃げられないことは確定し、僕は覚悟を決めるしかなかった。


「……あら、実幸ちゃんに夢くん! 久しぶりじゃない!」

「言葉ちゃんママ! お久しぶりですっ♡」

「お久しぶりです。お世話になってます」


 扉が開き、女の人が顔を覗かせる。そして春松くんと実幸さんの姿に気付くと、明るい声でそう2人の名前を呼んだ。2人はそれぞれのテンションで頭を下げ、微笑み合う。


 そして女の人──言葉のお母様なのだろう──と目が合い、僕は肩を震わせた。


「貴方は……『灯子とうこちゃん』?」

「……え」


 僕の名前を、呼ばれる。まさか知られているとは思わず、素っ頓狂な声が出てしまう。その反応で、名前があっていると分かったのだろう。彼女は少し複雑そうな顔で微笑んだ。


「初めまして、言葉の母です」

「あ……っ、初めまして。伊勢美いせみ灯子とうこと申します……」


 僕は慌てて頭を下げる。顔は、上げられなかった。


「……ここで立ち話もあれだし、良ければ入って」

「ですって、灯子ちゃん」


 するとそんな僕を見かねてか、言葉のお母様がそう言い、実幸さんが僕の背中を軽く叩く。僕はようやく顔を上げると、小さく頷くのだった。





「貴方のことは、言葉からよく聞いていたわ。面白い後輩がいる、って」


 お茶やお菓子を出しながら、言葉のお母様がそう言ってくれる。ありがとうございます、とお茶やお菓子に対してお礼を言ってから、僕は言葉を紡いだ。


「……言葉にはいつも、すごくお世話になっています」

「そっか、あの子は先輩としてよくやっているのね」


 お母様は微笑む。やはりそこにはどこかぎこちなさがあり、僕はいたたまれない気持ちになった。


 なんで実幸さんはここに僕を連れてきたのだろう、と思わず視線を送ると……実幸さんはじっと、こちらを見つめていた。その瞳から感情が読み取れず、僕は思わず固まってしまう。


「言葉ちゃんママ、もし良ければ言葉ちゃんが灯子ちゃんをどう言ってたか、もう少し詳しく教えてもらってもいいですか?」

「えっ」

「え? まあ……いいけれど」


 実幸さんの言ったことに、僕もお母様も驚いたように声をあげる。しかしお母様はすぐに頷いてくれた。

 彼女は僕と向き合うように正面に座り、柔らかい顔で話し始める。


「言葉は一人暮らしを始めて、私たちを安心させるためなのか、週に1回は電話をくれてたの。そこで近況報告をしてくれてね。……さっきも言った通り、言葉は貴方のことを、『面白い後輩なんだ』って言ってたわ」

「……どうも……」

「その前まではとっても忙しそうで、心配していたんだけど……貴方が来てからの言葉はとても楽しそうで、安心していたの」

「……」


 僕は、僕と会う前の言葉を知らない。当たり前の話だけど。


 いずみさんにも実幸さんにも、言葉に出会ってくれて良かったと言われた。どちらも、僕と出会う前の言葉を知っている人だ。だからそういう人から見て、言葉はきっと変わった……のだと思う。恐らく、良いように。……僕にはそうは思えないけど……。


「あんまり人と関わろうとしない子で、でもすごく優しい子で、一緒に居るとなんとなく落ち着く、って言ってたわ。体育祭で二人三脚をした話とか、一緒に出掛けた話とか、貴方が文化祭でモデルとして出たこととか……本当に、色々聞いたわ」

「……そうですか」

「あの子は……とても明るい子だけど、同時に、人に深いところまで踏み込ませない子だったの。だから……あの子から貴方に関わりに行ってる話を聞くたび、嬉しかった。あの子にとって貴方は、踏み込みたい存在なんだなって思って」

「……はい」


 思い出す。灯子ちゃんのことを教えてほしい、と詰め寄られた日を。あの時の僕は、それを跳ね除けた。……踏み込まれたくなくて。


 踏み込みたかった言葉。踏み込まれたくなかった僕。上手く、噛み合わなかった。

 言葉はそうやって僕に心を開いてくれていたのに、僕は……。


「……灯子ちゃん、言葉が、昔……色々あって、男性恐怖症であることは、知ってる?」

「え? ……ああ、はい……」


 言葉のお母様に問われ、僕は頷く。割と最初期から知っていた。というか、気づいたから。


「……あの時は本当に大変でね。自立し始めていたのに、私にべったりになっちゃって。私が近くにいないとすごく取り乱して泣いて、登下校を1人で出来なくなって、夜も1人で眠れなくなって、泣き叫んで起きる日も少なくなかった」

「……はい」

「身近な男性……お父さんのことも、夢くんのこともすごく怖がるようになって、関係を修復するのも大変だったわ」


 ね、とそこでお母様が春松くんの方を見る。そんなこともありましたね、と春松くんはさらっと答えた。


「まああれは、実幸が常に間に入ってくれたし、時間が解決してくれたことだと思います」

「そうねぇ、あの時の実幸ちゃん、大活躍だったわね」

「えへへっ! 実幸ちゃんは貴方の頼れる魔法少女ですからっ♡」

「その時はまだ魔法少女じゃなかっただろ」

「そうだけど~っ」


 春松くんの冷静なツッコミに、実幸さんは頬を膨らませる。そんな様子を見て、お母様は楽しそうに笑った。

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