母を探す子
明け星学園に取り残された墓前糸凌は1人、深々とため息を吐いた。
灯子と茜が出て行ってしまって、生徒会の仕事を出来るのは自分だけになってしまった。原則として、生徒会の仕事は他の生徒にやらせることが出来ない。一応、個人情報に触れるような仕事も含まれているからだ。
別に、すごく急がなければいけない……というような仕事は今のところない。ただ、少しでも仕事を溜めると後々に響くだろう、というのが現状だ。だから1人でもなんでも、手は止められない。マジで早く帰って来てくれ、と糸凌はため息を吐いた。
そう思うものの、継続してやり続けるのも非効率だということは事実。一度休憩を入れるか、閃のところにでも行って話相手になってもらうかな……と糸凌が腰を上げようとしたところで。
──何か、来る。
突如、そんな気配がした。立ち上がろうとしたはずなのに、椅子に体が縫い付けられたように動かない。呼吸が、上手く出来ない。
何か、来る。
扉が開く。ノックなどなかった。そんなものは不要だとばかりに、とある人影が生徒会室に入ってくる。堂々と、真ん中を歩いて。
「──ねぇ、母さんはどこ?」
それは、子供だった。
奇妙な存在だ、と糸凌は思う。見た目は子供だが、その中に存在する精神は子供のそれと似ていて、しかし同一ではない。底知れない〝何か〟があり、自分にそれは理解しきれない。否、理解なんてしない方が良い。本能がそう告げている。
存在の理解に、言葉の理解に大きな時間を要した。そしてようやく呼吸の仕方を思い出し、喉を酸素が通る。かひゅ、と喉から音が鳴り、糸凌はようやく言葉を紡いだ。
「……母さんって、誰ですか」
「母さんは、母さんだよ。君もよく知ってるんじゃないかなぁ」
くふくふと、子供は笑う。糸凌を小馬鹿にするかの如く。
だけどふと、子供は糸凌から目を逸らす。一気に興味を失くされたと分かり、糸凌の呼吸は少しだけ楽になった。
「まあ……いいや。ここにはいないみたいだし。探しに行こうかな。母さんがいないとつまらないもんね」
独り言のようにそう言うと、子供は踵を返す。そうして生徒会室から出ていくと、糸凌の全身から一気に力が抜けるのが分かった。冷や汗も止まらなくて、嫌に喉が渇く。よく正気を保っていられたな、とそんな自分に感心した。
異様な存在だった。天真爛漫で、移り気で自由奔放な、子供のようで。もう一方、底知れぬ異質さを有している。一言でも気に食わないようなことを言えば、どうされるか分からない。そう思う。
──まるで、神だ。
「は~~~~……」
糸凌は深々とため息を吐く。また1つ、心労が増えた。
直感が言っていた。「母さん」とあの子供が呼んだ人の、正体を。
「絶対当分帰ってこないじゃん、あいつら……」
そんな確信があり、糸凌はこれからのことを考え、頭を痛ませるのだった。




