第5話:自主練
タイムリープした今回は、日曜日に水泳の自主練をすると決めてから、ほとんどすべての日曜日には学校にきて練習していた。
ある日曜日、自主練を終えて更衣室を出て校庭を見てみると、校庭の隅の方にある走り高跳びの練習スペースで誰かが練習しているのが見えた。誰かな?と思って少し近づいてみるとどうやら隣の席の近藤さんのようだ。前回なら知り合いを見かけてもそのまま帰っていたと思ったが、ちょっとした一言が大切と思った俺は声をかけることにした。
「近藤さんも自主練?」
「あっ、向井君。ということは向井君も?」
「あぁ。俺はちょうど終わったところ。近藤さんの種目は走り高跳びだったんだね」
「そう。背面跳びにチャレンジしているんだけど、なかなかうまくいかなくて。そうだ、横から見て気づいたところがあったら教えてくれない?」
「いいよ。といっても水泳部の俺が何か気づくかはわからないけど」
「とりあえず思ったことをおしえてくれればいいよ」
なにしろ地方にある市のさらに北の田舎にある中学校である。当然コーチなんてものはいないし、部活担当の先生はその競技の未経験者であることがほとんどだった。水泳部だって担当の先生はたまに顔を見せるぐらいで指導は一切していない。
近藤さんが跳んでいるところを見せてくれた。確かに背面跳びになってはいるが、バーが体に当たって落ちてしまった。
「近藤さん、踏切のときにバーの反対側に体を傾けてみるのがいいんじゃないかな?」
「えっ?向井君、何を言っているの?バーを飛び越えるんだから、バーの方に体を向けるんじゃないの?」
「それは実際に見てもらったほうがわかりやすいかな?ちょっと待っててね」
校庭にある器具置き場に行って1mぐらいの棒を持ってきて、それを助走をつけながら高跳びのバーに向かって斜めに刺さるように投げる。すると棒は地面で跳ねたあと、そのままバーの上を越えて反対側に落ちた。
「うそ、なんで?」
「イメージとしては、こんな感じでバーを越えるんだよ」
近藤さんは納得がいかないという表情で棒を同じように投げたが、やはり同じようにバーを越えた。
「なんか理解しきれないけど、そういうものだということはわかったわ」
「ポイントはこの棒のように体を一直線に傾けることらしいよ。曲がってしまうと力が逃げるから」
「ありがとう。意識して練習してみる」
「ただし体を一直線にしようとすると関節とかに負担はすごくかかるから、いきなり全力ではやらないで、最初はゆっくり始めてね」
「うん。わかった。それにしても向井君、なんで水泳部なのに背面跳びのコツなんて知っているの?実は昔やっていたとか?」
当たり前だが自分は背面跳びなんてやったことはない。タイムリープ前に動画投稿サイトで見た背面跳びの解説動画で言っていたポイントをそのまま伝えただけである。俺は大人になってからはあまりテレビは見なくなり、かわりに動画投稿サイトの解説動画を良くみていた。ぞんだもんとかいう謎のキャラクターが、いろいろなことを教えてくれるのが意外と面白かったのだ。たぶん令和の独身男性は、いろいろなことに妙に詳しかったりするんじゃないかな。
「たまたま読んだ本に書いてあったんだよ」
「そっか、ありがとね」
まだこの時代にはそんな動画投稿サイトなんてものはないので、別の理由で誤魔化しておいた。近藤さんも理由についてそこまで興味があるわけではなかったようで、やりとりはここまでで終わってくれた。
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