第19話:ついにその時がやってきた
こうして川岡さんと仲良く過ごしていると、当然ながらクラスメイトからの冷やかしが始まるわけだ。そしてついにその時がきた。それは英語の授業で、教科書の会話の部分を二人で英語で読むようにと生徒にあてる場面だった。川岡さんと俺が先生から選ばれたときに、クラスメイトからヒューヒューという冷やかしの声があがる。二人で教科書の会話の部分を読み終わったあとに、川岡さんが話しかけてきた。
「ねぇねぇ向井」
前回の俺はここで無視をしてその後距離をとるようにしてしまった。だが今回の俺は違う。クラスメイトの冷やかしには負けないのだ。
「どうした川岡」
「うまくできてたかな?」
「おー、バッチリだったぜ。俺はどうだった」
「向井もできていたよ」
やったぜ、ついに俺はやった。クラスメイトの冷やかしを乗り越えたのだ!
「何、ガッツポーズを取っているのよ」
「いやーやり遂げたと思って」
「教科書読んだだけで大げさだなー向井は」
違うんだよ。俺にとってはこれが一番の大仕事だったんだ!
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ある日の昼休み、お弁当を食べていると吉沢さんが部屋にやってきた。
「ちょっといいかな?」
「もうすぐ食べ終わるし、いいよ。水泳部の連絡とか?」
「うん、ちょっとね」
水泳部の連絡なら、その場でもいいような気もするし、その場で話をしたほうが川岡さんにも伝えられていいような気もしたが、特に川岡さんは吉沢さんには反応しなかった。そのまま吉沢さんの後をついて歩いていくと体育館の裏まで来ると吉沢さんが振り返って言った。
「向井君、水泳すごいがんばっていて、去年よりも凄い速くなっているし、それでいて成績もいいほうだし、本当に努力しているんだなーと思っていたら、好きになっていました。私と付き合ってくれませんか?」
信じられなかった。前回ではほとんど話をすることもなかった吉沢さんが、今回は俺に好意を持つなんて。吉沢さんは水泳部で一番人気のある憧れ的な存在で、とても恋愛対象に見るなんて考えられなかったのに。タイムリープして自分の行動を変えて、少し積極的に話すようにして、練習も頑張ったことによってここまで変わるものなのか。
憧れの存在だった吉沢の告白に対して、今すぐにでもこちらこそよろしくと答えたかったが、しかしOKという言葉はでてこなかった。俺は川岡さんとの恋を成就させることを願ってタイムリープしたはず。今、せっかく川岡さんと仲良くなりつつあるところで、憧れだったというだけで吉沢さんにするのか?
「ありがとう。吉沢さんにそう言ってもらえてすごく嬉しいけど、他に好きな人がいるんだ。ごめん。」
「そっか。それって水泳部の?」
黙って頷いておいた。それを見て、吉沢さんは納得したような顔をして去っていった。この答えで正しいはずと思っても、本当に正しかったのか確証は持てなかった。タイムリープして二回目の中学生ならきっとうまくいくと思っていたが、この答えについても正しいのかどうかがわからない。将来になってまた後悔することになるのだろうか?どの答えを選択しても後悔が残るように思えるなら、やはり自分の心に正直になるしかないのだろう。今、好きなのは誰なのか?それはやっぱり川岡さんなのだ。
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その後も川岡さんとの仲の良い関係は続いていた。あの冷やかしを乗り越えられて本当によかった。と改めて思っていると、授業中に川岡さんが呼んできた。
「ねぇねぇ向井」
「どうした?」
と思って川岡さんの方を見ると、スカートをたくし上げている。
ガッシャーン
「どうした向井。椅子から転げ落ちるなんて居眠りでもしていたのか?」
「すいません、消しゴムを落としちゃって、拾おうとして転びました」
「気をつけろよ」
全く予想していなかったイタズラだったため、おもわず反対側に振り向いた勢いで、そのまま盛大に椅子から転げ落ちた俺は、先生から怒られる羽目になってしまった。それでもなんとか誤魔化すことができてホッとしていると
「なにやってんの向井」
と笑いながら川岡さんが声をかけてきた。
「おまっ、こうなったのもおまえのせいだろが、なにやってんだよ」
「太ももなんて、いつも部活で見慣れているんじゃないの?」
「それとこれが一緒なわけがあるか」
さすがに今回のはびっくりした。なにしろ前回のときにはその前の冷やかしで距離を取るようになってしまっていたので、この展開にはならなかったのだ。さすがにここまで川岡さんがいたずら好きとは知らなかった。それにしてもいたずらが成功したときの川岡さんの笑顔はずるい。あの笑顔を見てしまうと、どうしてもそれ以上に文句を言えなくなってしまうのだった。
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