第12話:過去の恋
寒い冬に自主練をするのはかなりしんどかった。公共の温水プールまでは自転車で往復していたが、この時期はからっ風という冷たい風が吹くのだ。それに日が沈むのも早くなり、プールから帰る頃には真っ暗になってしまう。それでも二年生になってからのことを考えて、なんとか続けた。
「向井、ずいぶんと速くなったな。ちゃんとついてこれているじゃないか?」
「お前は自主練ということでそこまで追い込んでないけど、こっちは全力でやっとだぜ」
「それでも水泳部が陸上部についてこれるって凄いよ」
「これも大川が練習に付き合ってくれたからだよ。ありがとな」
日曜日に大川と続けていた1500m走の自主練もなんとかついていけるようになってきていた。上達を感じられるというのは、やはり嬉しいものだ。ふと高跳びの練習スペースを見てみると、この日も近藤さんが高跳びの練習をしていた。以前に見たときよりもずっと高いバーを越えている。
「近藤さん、かなり高いバーを越えているな」
「そうだな。最近、かなり調子がいいみたいだからな。向こうも休憩をするみたいだし、少し話しに行こうぜ」
大川と休憩を取り始めた近藤さんのところに向かった。
「なかなか調子がいいみたいじゃないか」
「ありがとう。かなり高くまで跳べるようになってきたんだよ。あのときはアドバイスありがとう」
「アドバイスしておいて何だけど、よくこんな高いバーを越えられるな。見ていて本当に凄いなと思うよ。跳んでいる姿もとてもかっこいいし」
前回だったらこんなセリフが口から出てくることなんてなかったが、社会人になって言葉にしないと人には伝わらないということを痛感した経験がある俺は、正直に気持ちを伝えることにした。
「あ、ありがと」
「お前、よくそんな恥ずかしいセリフを言えるな」
「いやいや、感動は言葉にしないと伝わらないだろ」
「それが恥ずかしいセリフだって言っているんだよ」
最近調子がいいからなのか、近藤さんはとても嬉しそうにしていた。
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三学期になって、これまでと大きく変わったことがある。それは勉強会に参加するメンバーがかなり増えたのだ。いつも勉強会をしていた4人が、全員50位以内に入ったというのが他のクラスメイトにとっては衝撃だったらしい。それで参加させてほしいという人がたくさん出てきたというわけだ。その中にはクラスで1位の成績を取り続けている小谷さんも含まれていた。
「小谷さん、ずっとクラスで1位なんだし、勉強会に参加するメリットなんてないんじゃないの?」
「他人に教えるのも自分のためになるっていうでしょ。」
「まぁそうだけど」
かつて小谷さん相手に失恋した大川は大丈夫なのだろうか?と思って小声で大川に聞いてみることにした。
「なぁ、失恋相手が勉強会に参加して大丈夫か?」
「もうだいぶ前の話だろ。大丈夫だよ。いつまでも過去の恋を考えていても仕方ないし、次だよ次」
グサッ!
いつまでも過去の恋をという言葉が頭の中をエコーする。40歳にもなって中学二年の恋を後悔して、タイムリープまでした俺は救いようがないアホなのかもしれない。
「えっ、向井どうしたんだ、顔色が悪いぞ。しっかりしろ」
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