四十二日目-5 商人ラティ
八島連合オクトルフ最北にして最大の街、イトーヨーガルド。
その街並みは雑多であり、先鋭的でもある。
まず目立つのが行き交う人々の種族だ。
大通りを歩いているだけでも、人寄りの獣人と獣寄りの獣人が数多く見える。
さらには小人や妖精、エルフにドワーフと人間の方が少ないくらいだ。
ラミアやハーピィ、サハギンと言ったモンスター寄りの種族すらいる。
そんな彼らは皆が客かあるいは店員だ。
商業都市というだけあって、ここの住人の9割はなにがしかの商いに携わっているのだとか。
そしてずらりと立ち並ぶのは無数の出店。
聖皇神国側からの門をくぐった先に、そこから入ってくる旅人をあからさまなほどに狙い撃ちする食べ物の露店が連なっていた。
たこ焼きいかやき牛串に焼きそば、お好み焼き焼きもろこし焼き鳥。
音と匂いでえげつないほど胃袋を刺激してくる構え。
いや、えげつなさではさらに先がある。
濃い塩味ゾーンを超えた先には、甘いものゾーンが控えている。
のみならず、さらにその先に甘い渋い苦い取りそろえた飲み物ゾーンまで完備。
一つくらいなら、なんて入り口でうっかり買ってしまおうものなら、そのままデザートにお茶まで買ってしまうことだろう。
実際俺たちだって、責任者送りってことで寄り道禁止にされていなければ立ち寄っていた可能性が高い。
しかし……どうみても縁日の出店だ。
やっぱり勇者が元異世界人で、このあたりのアイディアに関わっているんだろうなぁ。
だいたいこの街は異常だ。
どうみても普通じゃない建物が、街の中央にそそり立っているのだ。
それすなわち──ビルである。
うん、ビルだ。
見上げるようなビル。
さすがに高層ビルとはいかなかったようだけど、聖皇神国で見てきたファンタジー世界然とした建物とは一線を画す建物が建っていた。
屋根付きの駐車場──と言っても当然自動車用ではなく馬車用だ──も完備されており、虎系らしい毛並みの獣人が警備している。
俺たちはそこにそれぞれの馬車とヴァーハナを置いて、ビルの中へと入った。
偉い人は上にいる。
そんな先入観のある俺としては、この高さのビルを上るのかと辟易としていたのだが、ここでも驚き。
まさかのエレベーターがあった。
案内をしてくれている主任さんの後を追ってその中に乗り込み、俺は隣に立ったフェスティスに小声で囁く。
「俺よりこの街にいた方が科学についてわかるんじゃないか?」
「我輩が求めるのは本物だ。このような混ざりものではない」
「混ざりもの?」
「原理と着想は科学だが、これの動力はマナだ。天乱戦争前の錬金術の応用だな」
なるほど、厳密には科学ではないってことか。
逆側でヒミナが「それはそれで失われた技術なのですけれど」と困ったように言っているが、それはそれとして。
最上階に到着してエレベーターホールを抜けて廊下を進むこと十数秒。
両開きの豪華な扉を開くと、いかにも社長室といった風の部屋に。
「お待ちしとりましたよ、師匠」
小学生くらいの少女が待ち構えていた。
小さな体。
ぶかぶかの服。
大きな眼鏡。
もっさもさの赤毛。
見るからにふわふわして抱き心地が良さそうな彼女は、ラティ・プティーラ。
経済面や武器防具道具関係で勇者をサポートする戦う商人であり、この街の代表代行をしているらしい。
子供のように見えるのはハーフリングという種族だからで、すでに成人しているそうだ。
コルネドさんの弟子だったそうで、商人として独り立ちする直前に勇者にスカウトされていったのだとか。
っていうか勇者パーティーの商人の師匠とか、コルネドさん凄くない?
なんて思っていると、視線を感じたのかコルネドさんは苦笑を一つ浮かべてからラティと握手をする。
「ああ、久しぶりだな。北の事情を知りつつも傍観していた薄情な弟子よ」
「いやですわぁ。『弱ってる者には死なないように援助せよ。しかして肥え太らぬよう搾り取る準備もせよ』っちゅうんは師匠の教えですよ? 見て見ぬ振りして搾り取る準備せんかったこの師匠想いな弟子の気遣い、受け取ってほしいですわぁ」
「まったく。ああ、自慢の弟子だよお前は」
「へへへ」
言葉の応酬だけを見るとトゲがあるのだが、嘆息混じりにラティの頭を撫でるコルネドさんも、撫でられて笑うラティも、どこか満足げで分かり合えているように見える。
しかしそれも束の間、すぐにラティは値踏みする目で俺たちに視線を向ける。
「んで、今回の師匠のゲストはずいぶんイロモノさんみたいですなぁ。ええと、商人ゴブリンそれから──聖皇女様に魔女様に竜まではええとして、なんやようわからん人までお連れのようで」
そりゃそうなるよなぁ。
俺は振り向いてマキナを見る。
彼女は正真正銘の神だし、その体もおそらく現在最高峰の技術が詰まったアーティファクツだ。
鑑定スキルがあったとして、まともな結果が出るとは思えない。
「いや、他人事ちゃいますよ。兄さん、あんたもや」
「え?」
俺が向き直るとラティはポケットから算盤を取り出し、パチリパチリと弾く。
「勇者様と似た雰囲気は感じるものの、ちょっと違う。人間のようでもあるし、けど人間ではありえん能力も見える。おまけにそこの子ら血族化させとりますな? オクトルフの奥海側ならともかく、聖皇神国側の人間がやることちゃいますわ。いやまあそもそも人間がやることちゃいますな。笑けてくるレベルですわほんま」
「……?」
いわれていることがわからず回りを見てみる。
ヒミナが苦笑いを浮かべており、フェスティスがなぜかドヤ顔だった。
OK、だいたいあいつのせいだな?
「ま、ま、ええですわ。他ならぬ師匠のお客さんやし、ウチの名の下に入国及び滞在を許可しましょ。ようこそ、サンテラの奇跡の人。ラマーナの救世主。我がイトーヨーガルドは皆さまを歓迎します」
シャカシャカと算盤を振ってから最後にポンと手に置いて。
「なにせ、お客様は神様やさかい。どうぞこの年に一度の祭典、バザー・デ・ゴザーを楽しんでってくださいな」
ラティはそれはもう見事な営業スマイルを浮かべるのだった。




