四十二日目-6 ロイヤルスゥィートの意味
「すっっっっっっっっっげー!」
「ちょっとアギ!」
ぽいんぽいん、とベッドで跳ねるアギを追いかけるマリ。
しかしはしゃぐのも分かる。
ラティに紹介されたホテルは、とんでもなく豪華だった。
まず見た目からしてちょっとしたお城のようだ。
最上階にあるスイートルームは広々としており内装も豪華。
バルコニーに出れば遠く離れた海岸と海がうっすらと見える。
「あはははははは! こんなの兄ちゃんのヴァーハナ以外にみたことないぜ!」
うん、アギくん、比較対象が間違ってるからね!
俺からするとこっちの方がずっと豪華だ。
いくらヴァーハナが高級キャンピングトレーラーにもなるとは言っても、快適さには限界がある。
勇者が手掛けた街の、さらにその最高級ホテルのスイートともなれば、相当なものだ。
「お、俺たちもここに泊まって良いんでしょうか……!」
入口で躊躇っているのはキンドとゴブゴ達。
「外の宿はだいたい埋まってるって話だったし、この広さなら全員で寝られるし良いんじゃないか?」
このホテル自体はまだ空き部屋が少しあるみたいだが、キンド達が個別で泊まるにはお値段が予算オーバーしそうだ。
「うむ。それに、下手に相手の意図から外れない方が身のためだろう」
どっか、と我が物顔でソファーでくつろぐフェスティス。
「……相手の意図?」
「ああ。なにか言いたいことがあるのだろう? コルネドくん」
そう言われてコルネドさんは穏やかに笑いつつ、肩を竦めた。
「魔女様に隠し立ては無駄なようですな。とは言え、私もサンテラの街で手一杯だった身。この部屋があの弟子からのメッセージであることしか分かりませんよ」
「メッセージ?」
コルネドさんは頷いて両手を広げる。
「このグランドガルドホテルの最上階スイートルームは、事実上勇者様専用の部屋なのですよ。私が頼んだとしても──いえ、よしんば聖皇女様や魔女様が希望を出したとしても、宿泊の許可は出ないでしょう」
ホテルの体裁は取っているものの、実際には別荘ってことかな?
この街は勇者が一から築いたようなものだそうだし、そんな部屋があってもおかしくはない。
「でもじゃあなんで俺たちは泊まれてるんだ?」
「確証はありませんが、先払い、でしょうか」
「なんの?」
「ラティが私たちにやらせたいこと、あるいは協力してほしいことに対しての報酬ではないかと。それとあまり気を悪くしないで欲しいのですが……」
コルネドさんはそう言葉を濁してから、ポツリと呟いた。
「既成事実を作り上げるためでもあるか、と」
「え?」
言葉の意味を俺は理解できなかった。
が、フェスティスはしたり顔で頷いて。
「ふむ、なるほど。ラティの指示によって、通常は勇者しか宿泊できない部屋に泊まった客。傍から見ればこれは、勇者に比肩するほどのラティにとっての重要人物……すなわち、仲間だと思われるわけだ。つまりラティには現在敵対勢力が存在し、我々を間違ってもそちら側に回したくなかったというわけだな」
「ええ。加えて、ある意味当然ではあるのですが──我々にこの部屋を使わせるということは、勇者様は今回ここを訪れないということであり、本当は勇者様に助けを求めたい事態に陥っている──というメッセージではないかと」
「直接言えば良いのにな。君たち商人は物事を難しくしようとする悪癖があるぞ」
「ははは、我々はどこに商売敵が潜んでいるか分かりませんからな。とはいえ、あくまでまだ憶測の域を出ませんが、この部屋に泊まれるということが一種の異常事態であることは間違いないです」
いやいやいや、そこで俺をチラッチラッされても困るから。
俺にできることはヴァーハナと運転LV5によるゴリ押しくらいなもんだ。
いつぞや商人が主人公のラノベを読んだことはあるけど、俺にはとても無理だなって感想しか出ない。
それ以前の話として。
「もしそうだとして、コルネドさんは助けたいのか? さっきの話の内容からだと、サンテラの食糧事情を知っていて支援してくれなかったんだろ?」
「オクトルフは真正聖王国ほどではないにしろ、聖皇神国に協力的ではないですからね。援助するなら色々と条件を付けてきて、最終的には搾り取られていたでしょうな。あれはそうならないように、そういった戦略的援助を拒否し続けたのでしょう。それが奥海側の不興を買ってトラブルになった、というのが推測です」
「奥海側って?」
八島連合オクトルフはその名前の通り、大きな八つの島の連合だ。
その中でも主島と呼ばれる島がある。
最南端に位置するその島こそ、連合名にもなっているオクトルフ島。
この島には神の眷属が住まい、そのさらに南の海底に神がいると言う。
天乱戦争時代に混乱に乗じてやってきた、異界の神が。
しかしその神は異界を渡る際に様々なものを消耗し、現在では不滅であることだけが残った神性なのだとか。
とはいえ神は神である。
眷属と信仰する人々はオクトルフ島に住み、神の言う楽園への旅立ちのために日々を過ごすのだとか。
そして眷属と信仰する人々は、ほとんどが人外か亜人である。
そのせいなのかは分からないが、オクトルフ島側、奥海側の者は大陸の人間を好ましく思わないことが多いらしい。
特に勇者が制圧し街にまで発展させたイトーヨーガルドについては、便利であることは認めつつも腹に据えかねる場所なのだそうだ。
可能なら勇者陣営を街の運営から排除したい。
そんな思いがあっても不思議ではない、むしろ自然である、と。
と、いうことは、つまり。
「俺はその異界の神とやらに敵として認定されちゃうってこと?」
「……まだそうと決まったわけでは」
嘘だね!
コルネドさんのその苦笑いはどうみても取り繕っている顔だ。
ならば。
「キンドさん」
「へっ!? あ、はい、なんでしょう……?」
俺はとびきりのスマイルで、彼に託す。
「今日からこの街の中ではキンドさんがリーダーってことで!」




