四十二日目-4 主任商人の災難
「では、招待状をチェックさせていただきます。コルネド様ですね、お連れの方は10名でよろしいですか?」
にこやかに応対する商人の人はちょっと階級が上なのか、周囲で忙しなく動き続ける兵士たちと少しだけ装いが違った。
装飾や帽子なんかがちょっと豪華。
「ええ。護衛の冒険者5名と、私の部下が5名、間違いありません」
コルネドさんが答えるとバインダーのようなものを差し出される。
「ではこちらにサインを。それから今回は紹介枠をお使いで?」
「ええ。代表者はそれぞれトウヤ、ゴブゴ、キンドの3名です。ただその、一つご忠告が」
「はい、なんでしょう」
そんな会話を横目に、俺はやってきた検問をコルネドさんたちの後ろから観察していた。
兵士が見守る中、兵士とは思えない商人風の人間が馬車に乗り込み荷物をチェックしている。
同乗者もチェックされるようで一度馬車から降りており、コルネドさんは代表者らしき腕章をつけた商人とやりとりしていた。
しかし、立派なものである。
街の門は三重の構造となっており、聖皇神国側の門はそれはそれは分厚く重そうなものだった。
門の中にはさらにもう一つ、木材を網目状に組み込んで作られた上下式の門があり、ここから検問を強行突破ということもできない。
その先にある最後の門は非常用なのか開きっぱなしになっていた。
俺たちは門の中まで入らされ、そこでチェックを受ける。
聖皇神国側の門は馬車一台分ほどしか開いていないため、外に逃げることも難しい。
徹底して違反者を逃さないようにしている造り、ということは。
「罰金、かな」
「そうか、なるほど」
「え、なにがですか?」
俺のつぶやきに納得するフェスティス。
ヒミナはなんのことかわからず首を傾げる。
「わざわざ門の内側で検問する理由だよ。これだけの手間が掛かっているのだから、労力が少なからず発生しているんじゃないかな」
「であれば、一大商業都市であるイトーヨーガルドならば、その労力に見合う報酬を用意するだろう。すると、通常の門前払い等ではもったいない。罰金を設定し、違反者から取り立て、それを報酬に回す……ということをしているのだろう。だから門の中で検問は行うが、違反者を逃がす気がないのだ。中にも、外にも」
「お金中心の考え方、なのですね」
「ふふ、改心してくれればそれで、などという聖皇教会の理念とはそぐわんか。しかし逆を言えば金で許されるのだから、優しいものだろう」
フェスティスが言うがヒミナは不服そうだ。
「まあ違反していなければいい話だしな。ところでフェスティスくん」
「心得ている。積荷は問題ないはずだ」
素晴らしい。
とりあえずそのバザー・デ・ゴザーとやらに参加するからには売るものが必要だろう。
いざとなればヴァーハナのオプションで呼び出せるが、荷物ナシでは検問で逆に疑われてしまう。
だからフェスティスの手持ちの薬品をいくつか商品として馬車の中においておいた。
俺のヴァーハナとフェスティスの空間収納という魔術によって、商品を馬車においておく必要がない、なんて説明をしてもすぐには納得してもらえないだろうからな。
と、俺はのんびり構えていたのだが。
「──あちらの馬車、トウヤ殿のチェックをする時は、みなさん気を確かにもっていただきたい。常識の埒外にある大商人ですので」
をい。
なにを口走ってるんですかコルネドさん。
「常識の埒外……? 分かりました。コルネド様と同格であると思って──」
「足りませんよ。十倍です。その十倍はとんでもない方々だと思ってください」
「は、はぁ……」
ほら、担当者の人も困惑している。
まあたしかに、どことも知らない有象無象の商人、と思って馬車をチェックしたら驚くかも知れないが。
「主任、ゴブリンの方は終わりました。ゴブゴ他5名、全員ゴブリン、前科はなく、コミュニケーションも良好です。積荷の出自が微妙ですが、セーフです」
「こちらも終わりました。キンドはここにも数回訪れている行商ですね。前科もなく積荷もいつもどおり、問題なしです」
「ご苦労様。ではみんな最大限の注意を払って最後の馬車に取り掛かりましょう」
主任と、他の10名が一斉にこちらを見る。
コルネドさんの言葉をどう受け取ったのか、過剰に警戒しているように見えた。
そして──
「主任!」
「なんだ」
「積荷が……積荷が見たこともない薬剤ばかりです! 効能を見ると新薬でしょうか。低級鑑定では判別できないものばかりです……薬剤師か上級鑑定士を!」
「中級鑑定使いはいただろう! コルネド様の紹介だ、多少の不明点には……ああくそ今回はダメなのか……伝令を走らせろ!」
「主任!」
「なんだ」
「あ、あの、その、ど、どどど、どうみても同乗者の一人が聖皇女ヒミナ様なのですが!」
「……構わん、ありのままを報告書に書いておけ。上には私から説明する」
「主任!」
「まだなにかあるのか」
「え、エルランディアの魔女様もいらっしゃるのですが、これもありのままでよろしいでしょうか」
「はぁ!? あの方は今聖皇神国で国賓として招かれて遺跡調査しているはずだろう!? なぜここにいる!?」
「主任!」
「なんだ急ぎか!? 私は今からヒミナ様とフェスティス様に事情を聞きにいかねばならんのだが!」
「こ、この女の子が会話出来るし意思もあるのに反応が商品として検知されてしまいます! この場合、人と物どちらとして扱うべきですか!?」
「分からん! 上級鑑定士の到着を待て!」
「しゅにぃぃぃぃぃぃぃん!」
「今度はなんだ情けない声を出して!?」
「そ、空から竜が!」
「竜だと!?」
「あ、すみませんそれうちのです」
「は!?」
ルルクは今日もコンテナの移動にラマーナ山に行って、それから合流だった。
結構遠目から着陸してそこから徒歩でって言ったのだが、ここは見晴らしが良いので見つかってしまったらしい。
「り、竜? 竜の街中での扱いに関しの規定など──」
「主任! 街の外での待機組がいくつか竜に気づいて騒動が起きてます!?」
「──あ、うん」
その瞬間。
主任と呼ばれる商人の何かが限界を超えたことが、俺にも分かった。
「……コルネド様」
「はい」
主任はどこか投げやりになった目でコルネドさんを見つめながら、告げる。
「ラティ様に直接審査を受けてください。ここでは無理です。竜とか……無理です」
「そうなりますか」
これにはコルネドさんも苦笑い。
俺たちはあえなく最高責任者送りとなった。




