閑話 聖王都にて
「……はいクソ」
ポツリとつぶやかれた言葉に、大勢の人間がその身を強張らせる。
円卓に揃った人間十二人の内、十一人に緊張が走る。
「ど、どうされたのでしょうか」
聞かねばならない。
意を決して大臣職にある男、セイガンは尋ねる。
不機嫌そうに顔をしかめる、王冠を戴いた少年へ。
「ん? ああ、今回はあんたらのミスじゃない。ノイズが確定したってだけ」
少年は虚空に向けて指を踊らせる。
不思議な光景だが、円卓の人間たちにとってそれは見慣れた光景でもあった。
彼が思案を巡らせる時、いつもこうした動作を必要とする。
きっとそれは凡人には見えない必要ななにかなのだろう。
なぜなら彼は、誰もが認める聖王なのだから。
──形式上認められていただけの先代までと違う、本当の聖王その人なのだから。
「まー情報共有に言っておくと、俺にとっての障害が勇者以外の別のヤツが現れたのが確定した」
「勇者以外に?」
「そ。確認したが勇者はオクトルフから出ていない。だったらこの短期間であの騎馬隊と竜騎士隊を撃破出来るユニットはいない。しかも……なんだこれ、クソふざけんじゃねぇぞどっから出したこの量の食糧!? はぁぁぁぁぁぁああああ!? 未発見の大農園でもあったってのか!? はー! クソ! クソイベント! これじゃやり直しじゃねぇか!」
バァン!
聖王が円卓を叩くと、上に乗っていたカップが僅かに浮いて、直後倒れた。
合わせて十一人が一様にビックゥ!と背筋を伸ばす。
「あ、悪い。台パンしちまった。お前ら今回悪くないのにな」
「あ、あの……やり直し、というのは?」
「うん。聖皇神国への統一戦争の予定ね。あれ、白紙撤回」
「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」
十一人全員が目を見開いて聖王を見る。
しかし聖王はひるむでもなく、むしろ睨み返し。
「あん?」
不快感を顕にする。
それだけで半数があっさりと目を逸らす中。
「恐れながら、理由をお聞かせ願えますか?」
円卓の中で唯一鎧を装着している男、真正聖王国軍団長ウェイルが不満そうに聞いた。
「やっても美味しくないからです」
それに即答する聖王。
「美味しくない、とは?」
「伝わってほしいんだけどなぁこのニュアンス。一から説明しないと駄目? あ、駄目な顔してるね。はー、面倒だなぁ……結論から言うと、戦争をするとこちらの戦力がざっくり三分の一は失われる」
「馬鹿な! 我々は──」
「はーい、敵が聖皇神国だけだと思ってる馬鹿は黙ってくださーい。あのなぁ、ラマーナ山って天然の城塞なの分かる? 正面からだと凄い硬いの。反面交通の便が悪いから、短期決戦するなら不意打ちを利用した兵糧攻めだったわけ。そのために農村に教唆してたわけ分かる? 慎重に年月をかけて調整してきて、ようやく刈り取れそうだから、あわよくばを兼ねて強行偵察部隊を出兵させたんだろうが」
「トラブルはありましたが、おっしゃる通りあれは偵察部隊の戦力に過ぎず──」
「状況が違うんですぅ。分かってない馬鹿はちょっと口を黙ってくださぁい」
「……っ!」
苛ついた口調と共に睨みつけられて、さしものウェイルも口をつぐむ。
「まあ、アホみたいな話だからそう思うのもしょうがないけど。聖皇神国の食糧難な、完全に解消されているから。ってか飯だけの話なら真正聖王国よりも良くなってるから」
「ばっ──……」
「……お? 良くこらえたな、偉いぞー。そうそのとおり、『馬鹿な』ってやつだ。ありえん。あれだけの飢饉、数ヶ月程度で回復出来るもんじゃない。が、回復しちゃっている事実があるんだから否定してもしょうがない」
聖王以外の全員があまりのことに声もあげられない。
これが他の誰かが言っていたなら一笑に伏すレベルの与太話だ。
しかしそれが聖王による言葉であるならば。
紛れもない事実に他ならない。
そのことを円卓に座る十一人は痛いくらいに知っている。
「結果、士気も回復。今さら開戦しても間違いなくラマーナ山で止まる。止まっている間、どうなると思う?」
「……魔王軍の侵攻が始まるでしょう。加えてエルランディアとオクトルフ両国から聖皇神国に援軍が出され、我軍は戦線の拡大に疲弊。勇者の動向次第では甚大な被害を受けます」
「分かってんじゃん。それじゃ意味ねぇだろ。俺たちはなんのために聖皇神国を落としたかったんだ?」
「それは……」
言いよどむウェイルに聖王は大きくため息を吐き出す。
「そこは即答しろよ。魔王だろ。魔王を討伐するために吸収、統一して戦力増強したかったんだろうが。なのにその戦争で戦力を消費してどうする? ほら、白紙撤回しかないだろ。分かったらさっさと切り替えろ」
「は……切り替え、ですか」
「当たり前だろ」
聖王は再び両手を指を虚空で踊らせながら。
「現刻を以てプランAを廃棄。プランBに移行する。ああこれ、聖王命令ね」
有無を言わせぬ様子でそう告げた。




