三十八日目-3 デア・エクス・マキナ
「協力ありがとう」
昼食も一段落して、俺はドワーフたちに感謝と別れの言葉を述べる。
「いんやなになに。美味い酒に美味い肉となりゃ報酬としちゃまんずまんずよ。オラぁ達も楽しかったしな」
「ああ、こっちもドワーフの酒、美味かったよ。また飲みたいもんだ」
がしっと握手を交わす。
「んなら数人ほどあの村ぁお邪魔してよ、ちょいと鍛冶でも手伝ったらぁな。んでよ」
「酒と酒で交換だな」
「おうよ」
ニィ、と笑うワルドと握手していた手でコツンと拳を突き合わせる。
実際村に来て鍛冶仕事をしてくれるのは助かる。
プラウの刃なんか定期的に研がないといけないだろうし。
その報酬が酒となるわけだが、当然それだけだと量が足りない。
いや人間基準なら十分な量だろうが、彼らドワーフにとっては少量なものだろう。
そこで酒と酒のトレードだ。
ドワーフの酒、美味かったし俺としても交換は望むところ。
カッとくるインパクトに甘みと渋みがありスッキリとした味わい。
元の世界じゃ経験したことない酒だった。
「んじゃ、またな」
「ああ、近い内に」
俺は帰り道で忘れずにフィエル村に寄ろうと決意しつつ、ドワーフ達と別れてヴァーハナを発進させる。
もうクラウンでは窮屈な人数となったためキャンピングトレーラーで道を走らせる。
しばらくこちらに手を振っていたドワーフ達の姿がサイドミラーにも映らなくなった頃。
「──んで、さ」
「なによ」
バックミラー越しの視線を感じたのか、マキナがこちらに振り向いた。
俺はちょっとだけ覚悟を決めて、気になっていたことを尋ねてみる。
「マキナの名前って、役割とかの意味があったりする?」
「もちろん」
そっかぁ、そうですかぁー。
違ったらいいなって思ったんですが、そうですかぁ。
やっぱりなと俺は完全な答えを聞く前に諦めモードになりかけて。
いや、まだだ。
まだその意味までは確定していない。まだワンチャンある。
諦めるにはまだ早い、頑張れ俺、確認するんだ俺──
「名前になにか意味があるんですか?」
不思議そうに聞くのはヒミナだ。
神様の名前に意味があるなど考えもしなかった、といった風情だ。
それにマキナは首肯する。
「そうよ。あたしは一種の舞台装置とでも言うのかしら。世界が破綻なく運営されるように調整する役割と機能を持っている……持っていたの。それがまんまあたしの名前の意味でもあるわ」
はいアウトー。
俺はひょっとしたらとんでもなく面倒なことに首を突っ込んだのかもしれない。
そう思ったのは、その名前をウィキった時のことだ。
──機械仕掛けの女神。
機械仕掛けの神の方で語られることが多いこの言葉は、超噛み砕くと「物語終結装置」だ。
俺のイメージというか解釈だが、物語に配置される「難題」を「解決」に導く「マスターキー」である存在。
魔王を倒すための聖剣、悪魔を封じる呪文、邪神を異界に戻す帰還の儀式、あるいは難病を癒やす万能薬。
それらをもたらす存在、あるいは存在そのもの。
マキナという神は、そういった役割を持った存在だ。
「……封印されてたよな」
「されてたわよ。それどころかあたしのほとんどの存在が機能停止している。あんたたちが天乱戦争って呼んでるあの争乱の火種となった解放同盟によってね」
「解放同盟……そういえばフェスティスも前になんか言ってたよな」
「ああ、あのダンジョンのことだな。で、それはどのような組織だったのだ?」
マキナは肩をすくめて首を横に振る。
「さあね。あたしの担当じゃなかったから詳しくはないわ。知っていることは、あたしを『世界の支配者』だと思っていたってことくらい」
「マキナ神を?」
「そ。だから解放同盟なんて名乗ってるわけよ。あたしの支配からの解放を謳ってるの。まあやろうと思えば出来なくないし、人の視点だとそう見えるかもしれないから、あたしは否定しなかったけど」
遠い昔に対峙した時のことを思い出しているのか、マキナは遠い目をする。
しかしその表情に恨みとか憎しみと言った負の感情は見られない。
「……天乱戦争は当時の勇者が魔王を討伐した影響で勃発した、と書かれた書物を読んだことがあるが、違ったのか」
身を乗り出して聞くのはフェスティス。
やはりそういうことには興味が湧くらしい。
「あたしが介入してたからね、その魔王討伐。多分、それで解放同盟の発起人たちはあたしの存在に気づいたんじゃないかな」
「ドワーフたちが信仰していたのはそれが理由で?」
「違う違う、あたしが歯車を象徴としていたからよ。それをアーティファクツ的な意味で解釈されたことが始まりだったかな。当たらずとも遠からずって解釈なんだけどね」
「なるほど……」
興味津々と言った様子でフェスティスは頷く。
が!
俺はそれどころではありません!
「──ってことは、聖皇神国がボロボロだったり、真正聖王国が独立したり、魔王を勇者が討伐しないのとかって」
「あたしが機能停止しているからでしょうね」
やっぱりだよ!
んで俺なんて言った?
マキナになんて言ったっけ!?
俺がどうにかするみたいなこと言わなかったっけ!?
それがまさかこんな世界全体レベルのことになろうとは!
いやちょっとは覚悟してたけどさ!
などと心の中で頭を抱えて煩悶する俺を見て、マキナは優しく微笑む。
「……別にためらうこともないわよ。手に負えないって思うのは、まあ当然だし。あんたが手を貸してくれるなら、あんたの手で『私』をギオデムに戻してくれるだけで、あとはあたしが──」
「それはナシだ」
即答する。
そりゃそうだろう。
もしそんなことになれば、大勢の人が死ぬ。
そしてこいつはこいつで、そのことをやっぱり自分のせいだったと思いこむんだろう。
そうなったらそれは、俺のせいだ。
とっても寝覚めが悪い記憶となってくれることだろう、ふぁっきん。
「せっかくチートなヴァーハナにぶっ壊れスキルの運転LV5があるんだ、ダメだと思うまではどうにかしてみせるさ」
自信なんかありゃしない。
どうしてこうなったんだと思うことばっかりだ。
けど俺は今までこうして生きていた。
やりたいことをやって生きてきたんだ。
異世界に来たからってほいほい変えられる性格でもない。
「我輩もいるしな」
「私も、微力ながら協力を惜しみません」
フェスティスとヒミナも俺の方針に乗っかってくれる。
「私も、トウヤさんの決定に従います」
「オレも出来る範囲で手伝うぜ。きっとルルクの姉ちゃんもな」
マリとアギが、ラマーナ山のコンテナ移動のために留守にしているルルクの分まで含めて意思を表明する。
俺はみんなにうんと頷いて。
「ほらみろ、ここにはお前のせいだなんて言うヤツはいない。お前がやれなんて言うヤツもいないんだ」
「……まあ、期待しないで見守っているわ」
ぷいっ、と顔をそむけるマキナ。
ナイスツンデレ。
心の中のイイネ!ボタンを連打しつつ、俺はふと。
「そういえば、その解放同盟とやらは結局どうなったんだ?」
その集団の結末が気になった。
ああしてギオデムが封印されていたのだから、解放同盟とやらは勝利したのだろう。
しかし神を相手に勝つなんて偉業を成し遂げた割には、あの人工ダンジョンに入るまでフェスティスすらその名前を知らなかった。
ならギオデムを封印した後、どうなったのだろう。
「さあ? あたしは彼らに封印されちゃったから、当然その後なんて知らないし」
「ラマーナ山の書物にも記載はありませんでした……というより、そのような組織自体初耳でしたし」
「我輩も知らなかったくらいだからな。おそらく秘密組織の類だろう」
勇者の魔王討伐に介入するマキナを封印した組織だが、まさかマキナに支配されていなければ世界が滅んでも良いなんて考えていたわけでもないだろう。
普通に考えれば、マキナがいたポジションにその解放同盟が収まる流れだ。
だとするならマキナが世界の滅亡を憂う現状は解放同盟の力不足によるものか、あるいは──
「まっ、もしまだ存在するなら動き出すでしょうし尻尾もつかめるでしょ」
気にすることでもないと言った様子でマキナはそう言って、砂糖をざぱざぱ入れた甘々ミルクティーを口に運ぶ。
「動き出す?」
「ええ。だってもし解放同盟が存続しているならギオデムの封印状態は監視しているでしょ。それが動いた……封印が解かれたのよ?」
「ああなるほど、調査にしろ封印の確認にしろ、活動を活発化させる可能性が高いのか」
そうなるとギオデム事件の現場に近いフィエル村が少し心配だが、幸いギオデム関係の情報を知っているのはケリュインとギリー、それにエルくらいだ。
ギリーに関してはちょっと不安が残るけど、他の二人は俺の運転LV5の補正で強化されている。
もし解放同盟の人間が村にやってきても、滅多なことにはならないだろう。
だけどもしまだ存続していて、活動を活発化させるなら。
彼らはきっと俺のことを敵とみなすのだろう。
それを考えると今から気が滅入るが。
「せいぜい頑張りなさい、トウヤ」
「ああ、せいぜい適当に頑張るさ」
なぜか腕を組んで偉そうにするマキナに、俺は肩を竦めながら答えた。




