閑話 そのドワーフ、古より
フィエル村より徒歩で半日ほどにある丘の上。
焚き火を囲むドワーフが四人。
一人は火を見つめ、後の三人はその一人を固唾を飲んで見ていた。
やがて見つめられていた一人、神官長と呼ばれていたドワーフは大きくため息を吐くと、苦笑しながら肩をすくめる。
「お前らほんっと演技下手くそだなぁ」
すると三人は顔を見合わせ、同じように肩を竦めた。
「そりゃ、門外漢だもんでなぁ」
「だいたいことがことだしよ」
「だなァ。んで、どうすんのよエルダー様」
「あの話なら、乗るよ」
おお、という感嘆の声があがる。
「んじゃあ、エルダー様が──」
「いんや。オイラは表にゃ出ねぇよ。あのクソ忌々しい解放同盟の関係者がどこにいるかも分かんねぇしナ。だからほれ、図面はもう用意したから後はお前らでやってくれよな」
そう言い終えるとエルダー、あるいは神官長呼ばれていたドワーフの動きがピタリと静止した。
まるで一瞬で凍りついたかのようだが、周囲のドワーフたちに動揺はない。
それから少し間があって。
ガチャガチャカシャカシャカシャ、と。
金属音をたてながらエルダーと呼ばれていたドワーフの顔が、割れた。
その断面からは血が吹き出る、などと言ったことは一切ない。
あるのは無数の歯車と、リクライニングを最大まで倒したような椅子。
そしてその椅子から身を起こす小さな小さな人の姿。
「ははぁ、さすがエルダー様。仕事が早ぇ」
手のひらサイズのエルダーからワルドは一枚の紙を受け取る。
そこには人型の図と、その周囲にびっしりと注釈が書かれていた。
「ん……こりゃあいったい……? オラぁ達でもこりゃちと理解が追いつかんけども」
「安心しな。あのエルフの小娘なら十分に理解出来るだろうサ。もっとも、言われなきゃ気づけなかったと地団駄くらいは踏むかも知んねぇけどナ」
「はぁ、そうなんで?」
「おう。ありゃあエルフにしちゃあ天才よ。あの麒麟モドキもアレが修理したんだろう。エルフらしい術寄りアレンジがあったが、あながち的外れとは言えねぇくらいにゃ構造を理解していた。スゲーな、最近のにしちゃバケモンだぞアレ」
いや、あんたも十分バケモンですよ。
という表情を三人が三人共浮かべて見つめると、エルダーは首を左右に振る。
「まっ、オイラたちの領域に足突っ込んでるエルフってだけで末恐ろしいモンよ。恐ろしくはあるが──マキナ様の偶像にマキナ神の魂を宿してくれるってんだ。ひとまずは信用して良いだろ」
「そんなもんですかい」
「そんなもんよ。なんだ、嫌なのか?」
「まさか。オラぁ達ぁあの酒やらくいもんやらと関係が出来るだけで大歓迎ですわ」
「ああ、アレな。たしかにクソ美味かったなぁ……あれだけでもあの人間、タダ者じゃあねぇよナ」
四人はうんうんと頷き合う。
自分たちの秘蔵の酒が外に出ることは、可能なら避けたい。
だがトウヤから振る舞われた酒を諦めるのは惜しい。
少なくともある程度真似が出来るようになるまでは、関係を保っていたい。
「だから、ま、現状は利害の一致関係よ。必要なもんは提供するが、それ以上は一切ナシだ。そのへんおめぇら、気をつけろよ?」
エルダーはドワーフ達の顔を一人ひとり見やってから、釘を刺す。
「余計なことは一切言うな。中でも絶対に言っちゃいけねぇのは……分かるな?」
ドワーフ達は同時に頷き、答える。
「「「エルダー様の正体」」」
それにエルダーは満足そうに頷いてから、呆れたような半眼になってフィエル村の方に視線を向けた。
「わかってんなら良い。もし万が一オイラが戦争時代から生きてるエンシェントだ、なーんて知れたら、あの小娘は解剖だってしかねん雰囲気を感じたからな。と言っても、まっ──コイツに気づけないようじゃまだしばらく大丈夫だろうがね」
エルダーが叩くと「神官長」がコンコンと金属音をたてた。




