三十八日目-1 起動式
37日目
今日はみんなに新しいお友達が出来ました。
みんな仲良くしてね!
とまあそんなわけで、ついにマキナ神の可愛らしい偶像が完成した。
イメージ通りの完璧な仕事で、ドワーフ達とフェスティスには感謝しかない。
これでようやく本業に戻れる。
そう。
海へヒミナを乗せていくという、本業の方の作業に戻れるのだ。
……ほんと、どうしてこうなったんだろうな。
謎だ。
村の外れ。
人工ダンジョンからさらに南に進んだところで、いよいよ起動式が行われることとなった。
起動式である。
俺の目の前にあるのは、人形だ。
人形のような美少女なのか、美少女のような人形なのか。
目を凝らして見つめても判断に困る。
そんな人形だ。
アギやマリと同じくらいの、小学生くらいの女の子の姿で、釣り眼気味の顔立ちに長いツインテール。
俺と似たような趣味の人間が見れば、「あ、ツンデレキャラだ」と感じる見た目となっている。
これがまさか天乱戦争時代のアーティファクツに匹敵するアーティファクツだと誰が思うだろうか。
みんな聞いたら驚くだろう。
俺も驚く。
っていうか目の前にしてもなお、この子の中に歯車とかが入ってるとか信じらんないんだけど。
なんなの、ドワーフの技術なんなの、怖い。
「では、始めてくれトウヤ」
フェスティスの声が少し遠くから聞こえる。
というのも、俺は結界によって隔離されているからだ。
一応ドワーフ達の協力のおかげで、ギオデムのように制御可能な設計となっているはずではある。
だが万が一ということもあるので、こうしてフェスティスとヒミナの二人がかりで構築された結界の中に隔離されている。
「それじゃ、よっこらせっと」
横たえられた人形に着せられているのは、胸元をボタンで閉じるワンピースだ。
しかしそのボタンは全て開けられて、大きく露出している。
そういう性癖の人なら呼吸を荒くしそうだ。
もちろん安心してくれ、俺はその趣味の人間ではない。
俺は胸の中央に右手の人差し指を突き立て、押し込む。
ずぶりと飲み込まれる指。
スイッチのようなものだ、とフェスティスは言っていた。
が!
なにこれめっちゃ人肌の手触りなんですけど!
指が飲み込まれた違和感でゾワッってなったぞ!
たしか人工ダンジョンで手に入れた素材「プニ」を使ってコーティングしているとか言う話だったな。
スライムがドロップする素材らしく、柔軟性や耐久性に優れるらしい。
それをフェスティスが加工して肌っぽく仕上げたものらしいが……謎技術だな、これ。
「トウヤさん」
「大丈夫だ、ちょっと感触に驚いただけ」
不安げに呼びかけるヒミナにひらひらと手を振って、俺は傍らに置いた封印の箱からマキナ神の像を左手に持つ。
そして。
「下りませ、降りませ。これなるは御身の写し身、世渡る現身、纏い御声を地に届かせ聞かせくださいませ──」
ヒミナに聞いた祝詞らしき言葉を紡ぐ。
すると左手から右手へ。
なにか熱いものが流れていったかと思うと、ドクンと人差し指の先にあるなにかが鼓動を開始した。
「ん……」
まるで眠り姫が呪いから解き放たれるように。
あるいは昼寝から目覚めるように。
彼女はそんなうめき声と共に瞼をゆっくりと開いた。
「……結界内の神気濃度は急速に減少中……成功、か?」
「どうだ? 動けるか?」
「……」
人形──マキナはゆっくりと周囲を見回してから、俺から離れて一人で立ち上がる。
手を見つめてグーパーグーパーと繰り返し、こくりと小さく頷く。
「悪くないわね」
と言ってから、露骨に眉を顰めた。
「……なに、これ」
「うん? なにかおかしいところがあるのか?」
初期不良だろうか。
まあ神を宿すアーティファクツなんてあのギオデムくらいしか確認されていない。
それを現在の技術で初めて作ったのだから、不具合があっても不思議ではない……あれ?
なんか俺、睨まれてる。
「いや、完璧じゃないのは謝るけど、作ったのは俺じゃないぞ」
しかしマキナは首とツインテールを横に振る。
「違う。この口調、この感情。この反応! あた──『私』らしくないじゃない! なにをしたの!?」
「え? いや俺は特になにもしてない! そりゃあ──」
──あんなやりとりがあったし──
「──ちょっとくらいワガママな性格になれば良いのに、とは思ったけど」
「それよ!」
「それですね」
問題なしと判断したらしいヒミナとフェスティスが結界を解除して、歩み寄りながら説明する。
「その体にトウヤさんの肉体を通り道としてマキナ神の魂を宿らせたので……」
「今のあたしは少なからずあんたの影響下にある、ということよ。『私』の色にお前の色が混じった状態、とも言えるわ。これではあたしは完全に不完全な神なの! やりなおしを要求するわ!」
「なるほど……」
完全に不完全とか言っちゃうくらいには不完全なわけか。
「いい? これはあんたのためでもあるの。本来この体でも使えるはずの神の機能がほとんど使えなくなってる。それが使えるようになれば、あんたのことを少しは援護してあげられるはずよ」
「それは大変だな」
「でしょ? じゃあさっさと──」
その時、俺は閃いた。
これはあのセリフを言うチャンスだと──!
逸る気持ちを抑え、俺はポーズをとって。
「だが断る。この──」
「断るですって!? アホ!? アホだったのあんた! 最っ低! ああもう少しでもあんたに期待したあたしが馬鹿だった! もうこの状態でもギオデムに乗って再起動してやる!」
「──っておい待て待て待て待て」
肩をいからせて歩きだすマキナを止める。
言いたかったセリフはまだ半分も言えていないのだが、最後まで言い切ってたら本気でギオデムのところまで行ってしまいそうだ。
「なによ放してよ! あたしの能力がいらないってことならあたし自体いらないってことでしょ!?」
「違うって。そういう考え方の方向性とかはそのまんまなんだな……マキナが不完全で良いと思っているのには理由がある」
「……なによ」
話を聞く体勢に戻ったマキナに、俺はこっそりため息を漏らしつつ説明する。
「お前はもっと人に頼るべきだ。なんでもかんでも自分がやらなきゃって追い詰めすぎなんだよ」
「それがなにか悪い?」
「俺の気分が悪い」
「は?」
あー、もう。
あんまり思い出したくもないし、こんなことは言いたくないんだけどな、誤解を受けそうで。
「そうやって失敗をすべて自分のせいにして、なにかのために自己犠牲を厭わずどうにかしようとする、その姿が嫌だ。見ていて気分が悪い。ほっとけない」
「……なに、それ。そんなのあんたのワガママじゃない!」
「そうだよ。ワガママだ。だからこそ嘘は言わないし、言ったとしてもマキナが相手じゃ意味がない。だろ?」
「……」
上目遣いで俺を睨みつけるマキナ。
だが言わんとするところは理解してくれているようだ。
マキナは神だ。
寿命がない。
だからもし俺が嘘を言っていたら、俺が死んだあとに当初の予定を実行するだろう。
彼女のいうことが本当なら、たくさんの人が死んで、そして世界は救われるのだろう。
──それはとても、気分が悪い。
俺は気分良く生きていたい。
そのためなら本気でヤバイと思うまでは、今回に限っては頑張る。
頑張るしかない。
……本気でヤバイと思った時は、どうなるか分からないけどな!
だって俺一般ピーポーですし。
異世界来たからって唐突に勇敢になれたりするわけでもなし。
出来るところまでしか頑張れない。
ああ、そういう意味で言えば。
「もし無理だと思ったら、その時は俺もマキナに頼らせてもらうよ」
「……ホント、そういうところ人間は不可解よね。なんで最初っから最善手を取らないのかしら。まあいいわ、じゃあしばらくコレで我慢してあげる」
「ああ。宜しく」
俺が改めて手を差し出すと、マキナはフンッと顔を逸しながらも握手してくれた。
うむ。良きツンデレである。
……と、気づくとドワーフたちがガタガタと震えながら俺たちを見ていた。
「どうした?」
「──ッハ!? ああ、いや……そだな。アンタァ人ァそうだったな。おっかねぇおっかねぇ」
ははは、と苦笑いされる。
「あの……トウヤさんは実感が薄いのでしょうけれど、その方は本物の神様ですから」
「うむ。まさに神をも恐れぬ所業というやつよ。我輩もそんな口の利き方はできんぞ」
……そうか。
俺に取ってマキナは「神様キャラ」というフィルターがかかって見える。
変な話他人事感が強いのだ。
しかしみんなにとっては、特にドワーフ達には信仰する神様そのものなわけで。
本来会話すら恐れ多いというやつなんだろう。
「……マキナ、神様扱いされないと気分悪いか?」
「別に? ドワーフは変わらず信仰してくれてるし、神様扱いしないのがアンタの方針なんでしょ。我慢すると言ったからには我慢するわよ」
我慢してくれるらしい。
ならこの際だ。
「よしじゃあみんなもマキナを神様扱いするの、禁止な」
いいよなっ、と爽やか(当社比)な笑顔で宣言すると、ドワーフたちはもげて落ちるんじゃないかって勢いで首を横に振っていた。




