三十日目-3 疑惑の整理
俺の依頼に対してドワーフ達の返答は「保留」だった。
なにせ信仰するマキナ神に関わることだ。
仲間たちと相談の上決めたいらしい。
もっとも、出来る限り前向きに検討すると言ってくれた。
そのお礼に少しばかりの酒とつまみをお土産に渡したので、きっと上手くいくだろう。
万が一ダメでも、その場合はフェスティス一人に頑張ってもらうだけだ。
急な来客の対応が終わって、俺は指折り確認していく。
村の被害確認。これは幸い軽微だった。
近くでギオデムとスーパーロボットと化したヴァーハナが戦ったので、建物や室内が散らかったりした被害は出たものの、昨日一日でどうにか復旧できる範囲だった。
それからエルの分離体の件。
これも俺が使役するスライムの一族ということで村長と話が通っている。
名前も分離体では村長達にとって意味不明なので、見た目のまま虹スライムと呼ぶことにした。
虹スライム達は村長から村人たちへ紹介されると、すぐに村の各所に散っていった。
ダンジョンである程度鍛えてあるので、そこらの野獣やモンスターなら撃退できるし、水撒きなんかの簡単な作業なら手伝える。
子供なんかはすぐになれて可愛がっているので、溶け込むのも時間の問題だろう。
ちなみに一匹だけ、例の妙になついている虹スライムは俺から離れようとしないままだ。
一応俺の恩人……恩スライム?でもあるので邪険にも出来ない。
なので仕方なく連れて行くことにした。
名前があった方が良いと思ったのでエリスと名付けた。
特殊なエルの分離体→エルEX→縮めてエリス、というなんとも単純なネーミングだ。
俺のネーミングセンスは変だとよく言われていたので、まあ無難なところだろう。
ケンタウロスの皆さんも、早くも村に馴染み始めているようだ。
親しげに話ながら農作業しているところをよく見かける。
畑の拡張も順調のようで、特にケリュインがリーダーに指名した四人がとんでもないスピードで耕していた。
ケリュインからの依頼で俺がちょっと彼女たちに乗って、軽く走ってもらったからだろう。
運転LV5の効果でステータスがベースアップしているのだ。
なぜそんなことになったかと言えば、ギオデムとの戦いのせいだ。
あの時、実は村の避難はほとんど間に合わなかった。
避難が間に合ったのはケリュインと、彼に乗っていたギリー、それから彼が避難させた村長ら一部村人たちだ。
俺の運転LV5の効果を受けたケリュインだけが、十分に離れた場所まで避難させることが出来た。
だから現状でもし万が一ギオデムが再起動したら、今度こそ村は一部を除いて壊滅する。
それを避けるためにも俺に乗られたケンタウロスを増やしておきたい、ということで各グループリーダーの四人に乗ることになったのだ。
ちなみにケンタウロス全員に乗らなかったのはケリュインの判断だ。
エルの時もなのだが、俺に乗られるととんでもない多幸感に包まれるらしい。
それに耐えて自制できる精神力がある者が、四人のリーダーくらいだろうと。
もし他のケンタウロスにも乗ろうものなら、俺との同行を希望するものが後を絶たないだろうとのことだった。
……なんだろう、俺という存在が危険薬物のようで、なんかアレだ。
今後は生物にあまりむやみに乗らないようにしようと決めた。
そんなあれやこれやを思い出しつつ、運転席で指折り確認する。
当初の村の問題だったケンタウロスの襲来とフェスティスへの納品は解決。
近くのダンジョンによる耕作範囲圧迫問題も解決済み。
エルとミッシェルの問題も、丸くとはいかないもののまとまった。
虹スライムの紹介も終わった。
ドワーフとの話も回答待ち。
マキナ神との約束はドワーフの回答を待ってから。
……これで終わりだよな?
他にやっておくこと、残ってないよな?
よし、それじゃあいよいよ。
「あ、あの、ね? ご主人様。お、怒らないで? ね?」
何故か俺の手を握りしめて嘆願するルルク。
「何をだ? ルルクは今回特にミスしてないだろ」
「う、うん……」
「変な奴だな。俺はちょっと用事があるから、手を離してくれるか?」
「うん……」
俺の手を離すルルク。
よし。
俺はくるりと向き直ると、カーナビを操作──
「ご、ご主人様!」
「ぬ」
後ろからルルクに引っ張られて止まる。
指はカーナビのディスプレイに絶妙に届かず。
「……なんだ?」
「あ、あの、え、えっとっ! ご、ご飯!」
「昼飯か?」
「う、うん! 食べたいな~って……」
ふむふむなるほどなぁ。
言われてみれば時間はもう十一時になろうとしている。
「そうだな。今から昼食作り始めないと間に合わないな」
「で、でしょ?」
えへー、と笑うルルク。
俺は向き直ってその頭をにこやかに撫でてやり。
「ってんなわけあるかーい!」
クイックターンしてカーナビに指を!
「あ、あああああごごごごご主人様っ!? ぼぼぼボクあれが食べたいなー!?」
「……!」
やはりルルクが後ろからそれを止める。
ええいこいつ、何か隠しているな!?
ならば!
「ええいやっぱりダメだ! 怒る! 俺は怒るぞ!」
がおー!と両手を上げてみせる。
ついでにキシャーとか奇声を発してみる。
「え、ええええー!? お、怒らないで! お願い、怒らないで!? せ、先輩に悪気はないのっ!」
「ほう」
ピタリ、と動きを止める。
先輩ね、ふむ、ここで先輩か。
「え……あ、あれ……? ご主人、様……?」
俺はくるりと再びクイックターン。
ルルクと向き合うと、がしっとその両肩を掴んで。
「ルルク」
「は、はひっ?」
「俺は今、ちょっと確かめたいことがあってカーナビを操作しようとしていた。そうだな?」
「う、うん……」
「なのになんで、お前の『先輩』を俺が怒ると思ったんだ?」
「……あ、え、あ、ちが……えと、それは……」
しどろもどろになって視線を逸らすルルク。
ふーん。
「お前、何か知ってるな?」
「な、何を?」
俺はちょっと考える。
ルルクの言動から、もっとも高い可能性。
そこから逆算して。
「……俺に隠れてヴァーハナが何をしているかを」
「ち、ちちちち違うよ!? 先輩はいつもご主人様のためを思って、ご主人様のために頑張ってるんだよ!」
両手を握りしめて力説するルルク。
「なるほど、そうか」
「そ、そうだよ!」
うんうん。
俺は頷いて。
「お前が以前からちょいちょい言ってた『先輩』って、ヴァーハナのことだったんだな」
「そうだよ! だからお願──? えっ? あれ?」
遅ればせながら自分の失言に気づくルルク。
「そしてお前は、ヴァーハナが自動でなにかしていたことを知っていたわけだな」
「あ……あ……! ご、ご主人様ずるいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
ぶんぶんと腕を振って頬をふくらませるが、残念大人はずるいのだ!
そして俺は心は子供だが体は大人!
ずるくて当然なのである!
ふははははははは──あ? いや待て待て泣くな、そこまでじゃないだろ? あと俺の胸をぽかぽか叩くのも止めなさい、罪悪感がアレな感じになるから、ね?
ほら、本気で怒ってるわけじゃないぞー? ヒミナとかフェスティスが集まってきたからそろそろ泣き止もう、な? な?
あ、はい、すみませんヒミナさん、いやいじめてたわけじゃなくてですね。
なぜだろうか。
いつの間にか俺は正座させられる側となっていたのだった。




