三十日目-2 ドワーフ
と、言うわけで。
俺が竜の姿のルルクと一緒に村の広場で待ってもらっているドワーフ達の元へ行くと、いきなり平伏された。
竜の威を借る俺である。
酒の効果もばっちりあった。
わけではなく。
「おお……その神気……貴方様こそはマキナ神を宿した身なのですな?」
四人いるうちのリーダーらしき一番立派な髭をしたドワーフが顔だけを上げて言う。
なんのこっちゃ。
と俺が視線で助けを求めると。
「今のトウヤさんからはマキナ神の神気が漂っているのです。恐らく、ギオデムの中でトウヤさんが触れたのがマキナ神の魂を宿した像だったためだと思います」
「ああ、なるほど。いや、触っただけで宿ってはいないですよ」
「触っただけ……?」
唖然とする表情を見て、俺は昨日散々怒られたのを思い出した。
神気というのはその名の通り、神が発する気の一種で、少量ならば運気向上無病息災と有り難いものらしい。
だがあまりに高濃度な神気に触れると、様々な害が発生するのだという。
日光やお湯に近いのかも知れない。
適温適量であれば問題ないが、過ぎれば熱射病やら火傷やら害となる。
ちなみに俺には耐性があって平気らしい。
厳密にはヒミナも同様の耐性があるらしいのだが、彼女の場合は逆に気を抜くと体内にその神を降ろしてしまいそうになるのでやはり危険だという。
そんなわけで持ち出したマキナ神の像は、宣言どおりフェスティスが作り出した封印の箱に入れて保管している。
「ところでマキナ神を気にされているあたり、皆さんはマキナ神の信徒なのでしょうか?」
「然り。我らは敬虔なマキナ神の信徒であり、故にこの地に残った一族。古より伝わるマキナ神復活の時に、その怒りをお諌めする役目を負うもの」
「怒りを諌める?」
「然様。我らが伝え聞く伝承によると──」
「ああ──まだるっこしい! 旦那、旦那は口の利き方で耳ん穴ぁ閉じちまうタチですかい?」
「こ、これワルド!」
「いいや神官長、オラぁもぅ我慢ならねぇ。っていうかよ、オラぁ達がドワーフと聞いてあんな酒を用意する御仁だ、理解があるだろってのが見立てよ。んで、どうよ旦那?」
「まあちょっとは気にしなくもないけど、悪意的でないなら?」
「ほぅれ!」
「む……」
神官長と呼ばれたドワーフは難色を示したが、すぐに諦めたようなため息を吐くとワルドというドワーフを促した。
「んじゃまてっとりばやくばっさり言うとだよ? オラぁ達ぁいつかマキナ神が、天乱戦争時代のご先祖様達のせいで臨戦態勢の怒り狂った状態で復活するって聞いてたんでさぁ。んでもマキナ神はもう死んだっつーてこの地から去っていったやつも大勢いんのさ。んで、なっさけねぇ話、その『怒りを鎮める方法』を記したモンやら人やらもどっかいっちまったのさ。ただまあ神様だかんよ、祈り訴えればどうにかなんだろて思ってた……ってのにあんなデカブツだったらどうしろっつーんだってなったわけよ」
なるほど、戦争時代に作られたものだから戦向きに調整されていたわけか。
怒りを収める方法っていうのは、操縦方法とか設定の調整みたいなことだろうか。
しかし開放同盟とやらによってギオデムは制圧、封印されてしまったため、ドワーフたちは核であるマキナ神が生きているかどうか半信半疑になって、離散する形になったと。
ということは、どうやらギオデムを取り返そうっていうことではないようだ。
「じゃあ今日ここに来た目的は?」
「それよ。オラぁ達ぁな、あのマキナ神を鎮めた方法を教わりに来たんだ。なにせ天乱戦争で死ななかったマキナ神だ、あれで死んじまったわけでもねんだろ?」
「ああ、それで──」
「んだけどもそんなんどうだってええんだわ!」
は?
俺がきょとんとするのも構わず、神官長が驚いて止めようとするのも間に合わず、ワルドは俺に迫り。
両手をがっしりと掴んで。
「旦那ァ良い人間だ。あんなウメェ酒を素性も知れねぇオラぁ達に振る舞うなんざ、悪人に出来るこっちゃねぇ。ってこたァよ? 旦那ァ話つけてくれたってんなら、マキナ神様ァ安泰に違ぇねぇ。だから旦那が方法を教えてくれるっちゅうなら教わるが、んなもん二の次で良い。オラぁ、オラぁ……あんな酒作ってみてぇ!」
「お、おいワルド! おめぇなんてこと言い出すんだ!」
口調が戻ってますよ神官長。
「そうだそうだ! ワルドてめぇ抜け駆けたぁふてぇぞ! 見ただろこの村ん農具にとんでもねぇのがごろごろあんの! オラぁあの金属が気になっぞ!」
「お、お、おー? おめぇらなぁ!? あんうめぇ酒の肴ぁ忘れたんか!? あんなもん喰ったことあっか? 酒は酒だけで飲むもんじゃねと言わんばかりのアレを差し置いてなにを言い出してんだぁ!?」
「おうおうおうまさか同胞たる信徒のおめぇらにんな価値が分からん不届きもんがいたとはなぁ!」
「あ? やるのかおめ」
「お? 買うぞおう」
「かーっ! 髭隠すなら今のうちだぞおめぇら」
一触即発と言った様相を呈し始める。
俺はそれを止めるべく彼らの眼の前へ。
「そこでマキナ神の魂をドーン!」
「「「「!?」」」」
ヴァーハナの中に置いておいた箱をルルクに持ってきてもらってドワーフ達の前に置く。
その瞬間、喧嘩腰だったドワーフ達が背筋をシャキッと伸ばして箱の方へ向き直った。
ちなみに封印の箱越しでも神気は強いらしく、ヒミナは少し距離を取っている。
「お……おあ……!?」
神官長においては全身が震え跪いた。
ちょっと危ないかも知れないので箱を持って距離を取る。
「良かった、流石に落ち着いてくれたようで。今いろんな意見が出たけどまとめるとこうなると思うんだ──俺に色々教えて欲しい、と」
俺の言葉にドワーフの四人は顔を見合わせ、それから頷いた。
「あ、ああ。んだな。オラぁ達ぁ旦那に色々と教えて欲しい。マキナ神様ァんことも、オラぁ達に振る舞ってくれたもんや、この村ん農具のことも」
だったら、と俺は手を叩く。
「なら話は簡単だ。これでも俺は商人なんでね、取引といこう」
「取引……?」
「そう。まずはこちらの支払う報酬から。この村の出入りと農具を調べる自由を、迷惑をかけない限りという範囲で認める。酒に関しては製造法とサンプルを提供しよう。肴の方は……特別価格での販売ってところかな。もちろんマキナ神についても分かっている情報を提供しよう」
「そ、そりゃあ願ってもねぇ。んじゃ、オラぁ達ぁ何をすりゃあ良い?」
「一つは酒の販売契約。金銭でも良いけど、酒の肴との物々交換でも良いかな。窓口はこの村のケンタウロス達で、ドワーフが作った酒が欲しい」
「酒か……んだが旦那ぁ納得すんようなもんがあるたぁ──」
しれっとすっとぼけようとしてみせるが、そうはいかない。
「さっきこちらの酒を褒めた時に『飲んだことがない』とは言わなかったのは、質が違うものの匹敵する酒を知っているからでは?」
「んな……!」
目を見開くドワーフ四人。
ふふふ、予想通りだった。
この世界に来て料理や飲み物を提供した時、まず聞くのが「こんなものいままでになかった」だ。
しかし彼らはそれ系の褒め言葉を誰も言わなかった。それどころか酒よりも別のものに目を向けるくらいだ。
酒には一家言あるのがドワーフだとすれば、そんな賞賛をしないのはすなわち同レベルのものを知っているに違いない。
自分達に自信があればこそ、適切な評価を下すはずだ。
それにこの世界のドワーフは500年もの間地下に引きこもっていた。
その間に酒を研究しないなんてことがあるだろうか?
否である。俺が知るドワーフならば、それは否だ。
ならばそれはどんな味なのか。
私、気になります!
「く、くぅ……だが悪い条件じゃねんな。んで、1つ目ってことは2つ目があるんだろ?」
「うん。実はこれを参考に、作って欲しいものがある」
これまたルルクに持ってきてもらっていたものを、ドワーフ達の前に置く。
以前壊してしまった麒麟型のアーティファクツだ。
「こいつは……」
「天乱戦争時のもんだぁな。しかしこいつを参考に……?」
「材質も良い。こいつを修理ってんなら分かんけど、参考にしてわざわざ作るんか……?」
口々にドワーフが言うのに俺は頷く。
「そう。こちらからもフェスティスが協力するから、現在の技術の粋を作って欲しいんだ」
フェスティス一人だと少し不安だったが、彼らならば。
ギオデムを作ったエンシェントドワーフの流れを組む彼らならば、きっと出来るだろう。
彼女との約束。
「このマキナ神の像の中身を移しても問題ないくらいのアーティファクツを、言うなればそう──マキナ神の可愛らしい偶像を、ね」
本日何度目になるのか、ドワーフ達が目を見開いた。




