↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/83

二十九日目-10 邂逅

 気づくと、真っ黒な空間に俺は立っていた。

 どこかで見た異世界転生の主人公が神様に会うシーンがアニメ化された時の空間に良く似ていた。

 あれ、ってことは俺死んだの?

 うわー、マジかー、せっかく死にそうだったところを助けられたのに、結局死んじゃったのか。

 なんて緊張感もなく考えていると。

 ぐすっ、ぐすっ、と。

 子供が泣いているような音が聞こえた。

 音がする方向に視線を向けると、膝を抱えた女の子がいた。

 ふむ?


「えーと、なんで泣いているのかな?」


 歩いて近寄りつつ、出来るだけ明るく聞いてみる。

 すると不思議なことに、俺は女の子に近づけなかった。

 歩いているのに、女の子と俺の間に見えない棒があってスライドしているかのように同じ距離のまま。

 足を止めてみる。

 女の子との距離は変わらない。


「なんで、みんな邪魔するの」


 女の子が膝に顔を押し付けたままで言った。


「邪魔……っていうのは?」


 出来るだけ刺激しないように聞いてみる。

 ここがどこなのか分からないが、元の場所に戻れるかどうかは彼女次第だと思ったからだ。

 直前までの記憶から考えるに、ここに俺を呼び込んだのは彼女だろうし。

 女の子は少し顔を上げて俺を見ると、口元は膝で隠したまま答えた。


「世界崩壊の予防」

「世界崩壊の」


 いきなりスケールの大きなことを言われてオウム返ししてしまう。

 しかし女の子はそれを相槌と受け取ったのか、話を続けた。


「私は精一杯やってるんだよ? 一人で、頑張って、頑張って、四肢をこうして千切られてもめげないで、出来ることをやってきた。なのにみんなが邪魔をする。私はそれでも良いって言った。私はそれを受け入れるべきだって言った。だけど私は納得できない。なんでみんな喧嘩するの? なんで私をここに閉じ込めるの? なんで──」


 可愛らしい顔の中央に皺を寄せて。

 俺を睨みつけるようにして女の子は。


「貴方は私の邪魔をするの?」


 ふむふむなるほど。


 全然分からん!


 え、情緒不安定ってやつなの?

 言ってることが一部理解不能なんですが!

 とはいえここは建設的に行こう。

 理解不能な部分は、脇に、置いといて。

 理解出来る部分の話を続けよう。


「俺、君の邪魔したっけ?」

「した」


 Oh……即答である。

 えぇー? 俺最近女の子の邪魔になるようなこと、したっけ?


「えーと、ごめん、具体的には?」

「人間を守った」


 んんんんー?

 ちょっと待って怖いこと言い始めた。

 逃げたい。

 しかし逃げられない。逃げ道がない。

 オーケー、落ち着け俺、余裕だ余裕。

 会話は理解できるまで理解できないものだから、これは普通のことだ。

 彼女の言うことをまとめればつまりだ。


「人間を守ると、世界崩壊の予防の邪魔になるのかな?」

「なる」


 また即答だ。

 これはやっぱり相手の頭がおかしいというより、俺と彼女で持っている情報が違うから齟齬が生まれるのだろう。


「どうして?」

「……」


 女の子はムッとした顔で俺を見ている。

 あれ、聞いちゃいけないこと聞いたかな。

 ちょっと不安になって、質問自体を取り消そうかと思った時。


「勇者は、世界が危機であるほど強くなる。私が機能停止している今、世界を危機にすることが魔王討伐の近道」

「……なるほど」


 もちろん俺はよく分かってない。

 けどきっとそれがこの世界の法則みたいなものなのだろう。

 そして少女は魔王討伐のために勇者を強化する、そのために世界を危機に陥らせようとした、と。

 いくつかやっぱり理解不能な言い回しはあるものの、そういうことのようだ。


「貴方、神のくせに知識が足りてない」

「ん? いや、俺神じゃないよ?」

「……え?」


 女の子はキョトンと目を瞬かせると、またポロポロと涙を流し始めた。


「うぅぅぅぅ……失敗した。また失敗した。私は完璧じゃないといけないのに。私がやらなきゃいけないのに。また失敗した。まだ失敗した。失敗。失敗したぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ……」

「お、おいおいおいおい」


 胸が締め付けられるような痛ましい泣き声に近寄ろうとするが、やっぱり距離は縮まらない。

 それどころか開いていくような気がして。


「──失敗したっていいじゃないか!」


 力の限り叫んだ。


「ダメ。私は失敗しちゃいけないの。失敗したらたくさんの人が困るの」


 しかし少女はにべもなく言い放つ。

 迷いのない口調に気圧されるけど、それは認めてはいけない。

 否定しなかった時に最悪どんな思いをすることになるか、知っている。


「そんなことはない、なんの神様か知らないが、神様だって失敗したって良いんだ!」

「ダメなの。ダメに決まってるの! なに、なんでそんなこと神でもない貴方が言えるの!?」


 言葉に詰まりそうになるが、そうなったら女の子はきっともっと遠い距離に言ってしまうだろう。

 だから俺は閃きに任せて即答する。


「神様の失敗で俺はここにいるからだよ!」

「……どういうこと?」


 よし、興味を持った。

 少しずつ、しかし加速度的に離れていた女の子との距離が止まった。

 俺はようやく掴んだ手応えを離さないように言葉を慎重に選ぶ。


「俺はな、母親の俺が幸せであるようにという願いを神様が叶えた結果、この世界に来ることになった。なぜなら俺はもう少しで死ぬところで、それを回避するにはその神様には異世界に転送するしかなかったからだ。もちろん補填としてヴァーハナと運転LV5ってとんでもないもの贈られたけどな。んで今の俺が幸せかっていうと、難しいところだ。以前の生活には戻れなくなったし、家族や友達とも会えない。どう考えても神様は願いを叶えることを失敗している」

「なら、やっぱり失敗したら──」

「まあ待て。とは言えその神様がいなかったら俺は死んでたわけだ。加えて今の生活が不幸かって言ったら、そうでもない。そりゃ怖いことや不安なことはあるが、極論それは元の世界でも同じだし、どっちが楽しいかって言われたら今はこっちの世界が楽しい。神様が失敗したっていっても、悪いことばっかりでもないし、そもそもそのことを神様のせいにしようなんて思ったりしない」


 ということにしておく。

 ちょっとはあの女神様めーとか思わなくもないのだが、それはそれこれはこれ。

 それに、だ。


「結局最後にどうにかするのは自分だしな。俺にも成功があって失敗がある。それによって神様も失敗したり成功したりするわけで、それが編み物みたいに折り重なって世界が出来ていく……んじゃないかなと、人の身としては思うわけだ。だから、神様が失敗したって良い。少なくとも、誰かに責められることじゃない」

「……貴方、私と同じことを言う……」


 うーん、多重人格なのかな?

 ともあれ理解不能な部分は今は切り捨てていく。


「まあなにはともあれ、泣くことはないしもっと気楽にして良いと思うぞ。世界の崩壊だって、まあどうにかなるさ」

「どうにか……なるの? 私が頑張らなくても?」

「なるさ。この世界の人たちだって当然世界が崩壊したら困るだろ? どうにかしようってなるさ」

「でも……私は」


 まだ迷っている様子の女の子。

 うぅん、こういうことはあんまり俺言いたくないんだけど、仕方がない。

 腹を括って俺は口を開く。


「いざとなったら、俺がどうにかする。世界が崩壊したら困るのは、俺だって同じなんだからな」

「……本当? 本当に、世界崩壊を予防してくれるの?」

「ああ。神様じゃないからちょっと頼りないかも知れないけどな」


 言ってしまった。

 出来もしないことは言いたくないし、言ったからには嘘にしたくない。

 物凄く面倒なことを言ってしまった自覚はある。

 あるのだが、放置するのは無理だ。

 世界が崩壊すると俺も困るのは本当だし。

 それになんでもかんでも自分のせいにして追い込んでしまう人間を、俺は何人か知っている。


 そのうちの一人は、帰らぬ人となった。


 その人に俺がなにかできたはず、などとは思わない。

 でも目の前で似たようなことを言われたら、見てみぬ振りすることは出来なかった。

 ……もちろん、彼女をどうにか宥めないとこの空間から出られなさそうだなっていうのもある。


 果たして、俺の言葉に納得がいったのか女の子はゆっくりと頷く。


「分かった。じゃあ貴方が失敗するまで、世界を危機に追い込むのはやめにする」

「ああ、そうしてくれると助かる」

「その代わり」


 座り込んでいた少女が立ち上がり、俺を見上げる。


「私も連れて行って。あと新しい体も作って」


 新しい体か。

 彼女が何者なのか。

 それは直前の記憶で察しはついていたが、その体を作るなんて出来るだろうか。


「……あまり出来がよくなくても良いのなら」

「うん。約束」


 女の子がこちらに手を伸ばす。

 気づけば俺との距離は一歩分ほどにまで縮まっていた。


「ああ、約束する」


 だから俺も手を伸ばして彼女の手を握った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。