二十九日目-9 心臓部にて
「……違う」
「トウヤ?」
俺の呟きを聞いて、周囲警戒をしていたエルが視線を向ける。
それに俺は、八つ当たりのように吠えた。
「ここは、操縦席じゃない。そもそもこの部屋で操縦しない! ここは──」
ここに来てそれは致命的だった。
「──動力の制御室だ!」
この部屋からではギオデムは操れない。
しかしこれはフェスティスが悪いわけではない。
確かにここには重要なシステムが集中しており、心臓部とも言えるような場所だ。
操縦室だと勘違いしても無理はない。
実際俺とエルも蝙蝠を抜きにしたってここが操縦席だと思ったんだ。
誰が悪いわけでもない。
しかし、今から操縦席を探すわけにも──
「なら、動力を止める……ダメ?」
「そんなこと、出来るわけ──」
ない、と言い切る前に気づいた。
俺はここが動力制御室だと分かった。
なぜ分かった?
答えは一つしかない。
運転LV5の効果で、直感的に分かったんだ。
ということは。
「動力制御も、運転の一部か……!」
改めて装置に触れてみる。
……うん、大丈夫だ、分かる!
けど安全な停止にはかなり工程が必要だ。
本来なら複数人で行うものなのだろう、俺一人ではかなり時間が掛かる。
感覚的な予想だが、それだとマリのMPが先に尽きる。
「エル、俺の指示通りに動けるな? 手分けしないと間に合わない!」
「任せて」
頼もしい返事だ。
俺はエルに指示を出しながら中央の装置を操作する。
エルは周囲の装置を動かしてもらう。
移動速度も速くリーチも長いエルとならなんとか間に合うはずだ。
俺は中央の端末を主に操作する。
まずは動力炉を段階的に出力を落とす。
そのために活性化したマナを排出し、貯蓄されたマナを凍結させ、ドワーフからの信仰の流入をカットする。
さらにそのためのセーフティロックをそれぞれ解除して、主動力となっている炉を停止させる。
最後に補助動力にもなっているマキナ神の像を床下にある保管庫から取りだせば──
──ドンッ!
「っ!?」
「トウヤ!?」
衝撃と同時に俺の体が空中に放り出される。
続けて重力の方向が変わった。
外で何かあったのかそれとも主動力を落としたからか、ギオデムが倒れ込んだのだ。
すると当然、俺が落ちる先は床ではなく。
「あ──?」
壁の方。
その先にあるどこまで落ちるか分からない、この部屋に入ってきた通路の底へ。
まずい。
ヒミナの法術で守られていると言っても、この落下も緩和してくれるか分からない。
それに死ななかったとしても、この部屋に戻ってくるのにどれだけ時間がかかるか。
けど、俺にはなにも出来ない。
運転LV5だけが取り柄の俺は、エルと離れてしまっているこの状況ではただの一般人に等しい。
「くっ!?」
エルが体を伸ばしてくれるが、俺が乗っていないからなのかギオデムに乗り込む時と比べると遅くリーチも短い。
俺も精一杯手を伸ばし。
……届かない。
ほんの僅か、数十センチほどが、絶望的に届かない。
──あ、これ死んだかも──
「──ッ!」
ビシィッ!
右肩から全身へ響く衝撃。
今まさに自由落下を加速させようとしていた俺が、急ブレーキをかけたように止まった。
なんだろうと見てみると、伸ばした俺の手から伸びた糸のようなものが、エルが伸ばした触手状の体を掴み俺の落下を阻止していた。
「──よくやった、分離体」
エルの言葉でそれがなんなのか気づく。
あのやたらに俺になついていたエルの分離体だった。
ダンジョンで俺の肩に乗っかってから、こっそりどこかにくっついたままだったらしい。
エルは分離体を伝うように体を伸ばし俺を掴むと、勢いよく引っ張り上げた。
「トウヤ。悪いけど」
「分かってる。ホッとしてる場合じゃないな」
俺は腰に命綱ならぬ命エルを巻きながら保管庫の中に手を伸ばす。
他の作業はほぼ終わっている。
後はこの中にあるものを取り出せば、ギオデムは活動に必要なエネルギーの大半を失うはずだ。
中には金具で固定され、回路に繋がれた女性の像がある。
これを取り出せば、作戦成功だ。
さっきのようなトラブルが起きないよう心を落ち着けて、しかし出来るだけすばやくてを伸ばしその像に触れた瞬間。
『やめて!』
頭蓋骨の内側で巨大な銅鑼を連打されたような衝撃が俺の意識を吹き飛ばした。




