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二十九日目-8 潜入開始

「仕方ない、俺とエルだけで行こう。頼むぞ、エル」

「任された」

「べ、別の出入り口見つけられたら、ぼ、ボクも行くからね!」

 

 蝙蝠を追って出入り口に急行し、高さを合わせてからルルクはホバリングするように慎重に位置をあわせる。

 十分に詰まってから入り口の壁へとエルが飛び乗ろうとして。


 ドォン!


「!」


 衝撃。

 あろうことかギオデムがヴァーハナの手を振り払ったのだ。

 俺のイメージ通り、あるいはそれに近い性能のロボットになったのなら、ヴァーハナはこの世界ではありえないほどの力を秘めているはず。

 だというのに力づくで振り払えるあたり、やはりこのギオデムもフェスティスの見立て通り神の一種なのだろう。

 しかし今の一番の問題は。


「ご主人様──!」


 飛び乗ろうとしたタイミングだったため、俺とエルが空中に放り出されてしまったことだ。

 今までの経験上落ちたとしてもエルに乗っている限りダメージはないだろう。

 しかしルルクが地上の俺たちをもう一度運ぶには、かなりのタイムロスが生じてしまう。


「ミッシェルは、エルが守る……!」


 ヒュン、と投げ縄のようにエルの一部が紐状になってギオデムの入り口へと伸びる。


「いけるのか!?」

「トウヤの影響。以前なら千切れた、今は行ける」


 そのまま強力なゴムのように縮んで俺とエルは入り口の中に飛び込んだ。

 なんとか侵入は出来たわけだが。


「まずいな。アギのMPの減りが早い」


 おそらく移動以外の行動は動き始めにMPを消費するのだろう。

 以前のガスコンロの例で言えば動かし続ければ追加の消費はないはずだが、振り払われるなど動きを一度遮られると次の行動にMPが必要になるみたいだ。

 さらにギオデムは早くもヴァーハナの腕の動きに対処し始めているらしい、一度目の振り払いから今に至る数秒でアギのMPがごっそりと減った。


「分かった、急ぐ」


 先に入り口に入っていたフェスティスの蝙蝠を確認すると、エルはそれを追いかけ始める。

 時速で言えば80kmくらいだろうか、サラブレッドの馬を上回る速度で音もなく進み続ける。

 この速度ならばアギのMPがなくなる前に到着できそうだ。

 なんて思ったのが、フラグだったのかも知れない。


「っ! 邪魔!」


 通路の奥から麒麟が三体現れた。

 おそらくここの防衛要員なのだろう、躊躇なくなんらかの術をこちらに向けて放って来た。

 エルはピョンピョンと縦横無尽にジャンプしてそれを避けて、体の一部を触手のように伸ばして麒麟達を薙ぎ払う。

 壁に叩きつけられた麒麟達はバチバチの火花を散らし、中の金属の骨格を露出する。

 なるほど、フェスティスはここのアーティファクツを回収して修理していたのか。


「まずい。トウヤ、蝙蝠の飛ぶ方、障害多数」


 見ると通路の壁から銃座のようなものが、さらに奥から麒麟と、他にも見たことがない虫やら犬の形をしたアーティファクツが現れる。

 しかもそれらが一斉に術やら弾やらを打ち出し攻撃してきた。


「俺もお前もダメージは問題ないんだろ? 構わず突っ込め!」

「ダメ。いくつか拘束系の妨害が混じってる。避けないと」


 跳弾する弾丸のように通路内を飛び跳ね攻撃を回避するエル。

 すべて避けきって見せるが、ひたすら前に進むのと比べると速度がガクンと落ちてしまう。

 このペースだと先にアギがダウンしてしまうかも知れない。


「くそ、なにか良い手は……!」


 スマホのアプリを起動して魔法を確認する。

 通路の敵を俺が魔法で吹き飛ばすにしても、最低でMP25消費する。

 朝飯やら追加のプラウの用意やらでMP55使っており、そこにさっきのギオデムへのミサイルでMP5使っている。

 だから攻撃魔法は使えて二回まで。

 その一回をここで切ってしまって良いものか……!


「……ん?」


 と、そこで俺はアプリの変化に気づく。

 なんか新しくタブが増えていた。

 そこをタップしてみると、魔法と同じようにいくつかの名前が並んでいた。

 中でも俺の目を引いたのは聞き覚えのある名前。


 ──《一本の槍となりて(ライク・ザ・スピアー)》


 確かケンタウロスが持つ集団スキルで、拘束系の術に高い耐性を持つっていうスキルだ。

 俺とエルの二人で集団スキルが使えるのか、一瞬疑問に思ったがとりあえずタップしてみる。


 ──消費MP5で、使える!


「良し、今からは攻撃を気にせず突っ込めエル!」


 スマホからスキルを起動しつつ言う。


「……理解、ナイストウヤ!」


 スキルの効果が実感できたのだろう、エルはスピードを上げ敵の攻撃を完全に無視。

 衝突だけしないように壁や天井を使って螺旋を描くように走り抜ける。

 このアプリはルルクが俺に付与する加護の一つとして生み出されたものだ。

 ということはこのスキルがアプリに登録されているのは、ケリュインが俺への加護としてスキルの一部を使えるようにしておいてくれたのだろう。

 ルルクとは違って俺の乗り物になったわけではないのに、律儀なことだ。

 けどその律儀さのおかげで助かった!


 俺とエルは一つの弾丸となったようにギオデムの中を駆け抜ける。

 途中に妨害や罠、防衛部隊によるバリケードなどに遭遇したが。


「村でミッシェルが怖がってるかもしれない……だから、邪魔をするな……!」


 スキルの効果を受けたエルは止まらない。

 自動迎撃システムを避け、罠を飛び越え、アーティファクツたちの壁をこじ開けるようにして押し通る。

 かなりの速度なのだが、そうこうしている間にも確実にアギのMPは減っていく。

 ドン!

 衝撃と振動が生まれる回数と同じだけ、MPが減っていくのが分かる。

 しかもその度に振り落とされないようにエルは速度を落とさざるを得ない。

 思った以上に厳しい状況だ。

 果たしてアギとマリのMPが切れる前に到着できるだろうか。

 そんな不安がよぎった時。


「着いた!」


 エルが声を上げる。

 確かにナビの蝙蝠はその部屋だと示すように移動をやめてホバリングしていた。

 俺を乗せたエルは部屋に飛び込み、蝙蝠の近くの足場で停止する。


 失われた技術、天乱戦争時のエンシェントドワーフによる秘密兵器。

 その結晶とも言えるだろう部屋は、円柱状の作りをしていて壁には無数のモニターのような物や、計器のような物が取り付けられていた。

 他にも血管のように様々な太さの管のようなものや、怪しげに明滅する回路、モーターのような音や歯車が動くような音などでその部屋は覆われていた。


「トウヤ、早く」


 部屋の中央には座席があり、その前にはキーボードのような物が並んでいる。

 そこが操縦席だと判断したのだろう、エルが大きく跳躍して俺を促す。


「ああ、分かってる」


 少し前からアギのMPが減らなくなっている。

 別に優勢になったとかではなく、アギに限界が来ているのだろう。

 代わりにマリのMPが減り始めている。

 MP自体はアギより多いみたいだけど、減る回数が多い。

 もしマリのMPがなくなったとしても、フェスティスとヒミナの拘束が残ってはいる。

 けどそれは三十秒しか持たない、本当に最後の手段だ。

 一刻も早くギオデムを止めなければいけない。

 俺はキーボードに触れて、ギオデムを運転しようとして。


 愕然とした。

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