二十九日目-6 新しい力
ヤバイ。
あれはヤバイ、というか反則だろう。
聖王神国にある巨大な地下遺跡。
それが埋まっていた状態から、起動して地上に起き上がってきた。
ただそれだけのことで大地震を起こすほどの巨体。あるいは巨大遺跡だと思われていた程の巨体だ。
ざっくり見積もって200mより小さいってことはないだろう。
比較対象が東京タワーになるレベルの大きさだ。
あれは歩き回るだけで国が滅びる、そんな存在。
なのにその近く、数歩で届く距離にはフィエル村がある。
ケンタウロス達による村人の避難が間に合うとは思えない。
と思ったのだが。
「……動き出さない?」
「天乱戦争時に作られたと考えれば、なにか目標が設定されているのかもしれない。今は入力した情報との齟齬を調整中……なのかも知れないな」
「じゃあそれが終わればいつ動き出すとも分からないわけか」
その間に出来るだけ距離を詰めないと。
とは言え。
「近づいたところで、どうにか出来るのか、あれ」
とにかく巨大すぎる。
ヘリや戦闘機のオプションで攻撃したとして、有効打となるかどうか。
しかもそれらは一発あたり俺のMPを5消費する。
フェスティスのようにヒミナから補給を受けたとしても破壊できるかどうか。
「……そうだな。仮にも神だ、破壊できないかも知れないな」
そうそう、破壊できないかも──ん?
「仮にも神って?」
「あれはマキナ神を模造したらしいものらしいのだ。正式にはマキナ神の偉大なる偶像だそうだ。計画ではマキナ神の魂を降臨させ、ドワーフ達の信仰をエネルギーで動く予定だったことまでは分かっている。だからもし既にマキナ神の魂が降臨されたあとならば、あれは神の一部となっているはずだ」
「なんて厄介な!」
もしそうなら詰みに近い。
破壊できない巨体をどうやって止められるというのか。
「だが手段がないわけではない、とにかく近寄って──」
「う、動き出すよ!」
ルルクの言葉に俺とフェスティスは改めてギオデムに、その足を視線を向ける。
ゆっくり、ゆっくりとだが持ち上がり。
──ッドォン!
と、凄まじい音と衝撃と一緒に一歩を踏み出した。
しかもフィエル村の方に!
「くっ! こうなればこちらに意識を向けさせるしかあるまい! ルルク、我輩を乗せて外に出てくれ!」
「待てって! それでどうにかなるのか!? 解決策がなけりゃどうにもならないだろあんなの!」
「ああ! 動きを止め時間を稼げるなら方法はある! だからまずはターゲットを取って誘導しなくては」
「本当だな? 信じるからな!」
言いながら俺はミサイルを一発発射する。
ギオデムは回避も防御もせずにそれを受け止め、無傷のままこちらの方へと向き直った。
ギュオンなんて効果音でもなりそうな感じで、目のあたりが赤く光る。
敵認定されたようだ。
「ほら、これでこっちに向かってくるだろ! それで、あいつをどうするんだ!?」
「あ、ああ。あれにはマキナ神の魂を降臨させられなかった場合のサブプランが存在する。神としてではなく、神に近い乗り物として操縦するプランだ」
乗り物、ってことは。
「……俺に乗り込めってことか!?」
「そうだ、それしかない」
なんてわかりやすく単純な話だろうか。
あれにはサブプランの時に操縦するための場所がある。
つまりは運転席だ。
そこに俺が到達することができれば、運転LV5で制御できる。
出来ます、が!
「どうやって!?」
「まずギオデムの動きを止める。それからルルクに乗って入り口へと行き、エルに乗って侵入する。起動したことで上下がめちゃくちゃだろうが、スライムのエルならば移動可能だろう。運転席と思われる場所はすでに調査済みだ、道は我輩が魔術でナビゲートする」
なるほど、確かにそれなら運転席まで行けそうだ。
行けそうだけども。
「……どうやってアレを止める?」
俺が潜入している間、ヴァーハナを動かせない。
つまりミサイルなどでタゲを取りながら陽動することが出来ない。
誰かが動きを止めなければ、周囲で、特に近場のフィエル村で甚大な被害が出るだろう。
「我輩の術と、ヒミナの術で」
「止められるのか?」
「……三十秒ならば」
「三十秒……!?」
三十秒で、あのサイズの遺跡状の道を踏破しろって?
「トウヤさん!」
「!」
ヒミナの声にハッとして俺は操縦桿を操る。
直後、ヘリが直前まであった場所をギオデムの腕が通過していった。
いつの間にか手が届く距離までギオデムが近づいてきていた。
俺は後方に下がろうとするが。
「トウヤさん……後ろに下がり続けると、また別の村が……!」
ナビを見ながら悲鳴のような声を上げるマリ。
なんでこんな近くに村があるんだ、と思うものの、違う。
別の村にすぐに到達するほど、ギオデムの移動力が、その歩幅を大きすぎるのだ。
いや、待て待て待て。
なにこれ、考える時間もないのか!?
一時的にフェスティスやヒミナの術で止めることは可能だろうが、そうすれば俺が中に侵入する時間がなくなる。
かと言ってヘリで足止め出来るわけもない。
……だったら。
俺はヴァーハナの高度を上げて、ギオデムの頭上に陣取る。
掴み取ろうと手を伸ばしてきたのを確認して。
「これでどうだ……戦艦大和ぉ!」
秘密兵器には秘密兵器を!
全長263m、重量およそ6万5000トン!
名実共に大艦巨砲主義の終着点である一隻にヴァーハナを変えて、ギオデムに擬似ボディープレスを仕掛ける。
しかし。
──ッドォン!
と、凄まじい音と衝撃で地震を起こしながら、ギオデムは大和を受け止めた。
しかもそのままポイッと山の方へ投げつけてくる。
「っと、ヘリに戻れ!」
そのまま山に激突したらさらに大惨事だ。
ヘリに変えつつ運転LV5を活用して勢いを制御、どうにか山への激突は回避する。
だがどうしよう?
勢いをつけて大和で体当たり?
いや、周囲への被害が尋常じゃなくなる。
大和の主砲?
それもダメだ。
大和よりも小さいサイズの主砲ですら、海を凹ませるほどの衝撃が伴う。
それは実験用小動物が文字通り粉微塵になる衝撃だ。
陸上で撃ったら周囲にどんな被害が出るのか想像もつかない。
──なら、俺がヴァーハナを変えるべき乗り物は。
「……巨大ロボット」
イメージしたのは宇宙の怪獣と戦う巨大なロボットだ。
あれならサイズも互角。
むしろ動きを止めること自体もそれで十分なんじゃないだろうか。
そう思ったのだが。
デン♪
聞き覚えのある嫌なエラー音がカーナビから聞こえた。
<必要な経験値の消費量が裁量を越えています。許可しますか?>
え。
なにこれ。
必要な経験値? 消費量? 裁量? 許可?
ちょっと気になる。
いやもの凄く気になる。
だけどもそんな時間はないので、必要ならもちろん許可するしかない!
タッチパネルに浮かぶ「はい」を選択する。
<承認されました。要求を満たすのに必要なスキルを取得します。類似する技術体系を検索中……発見。互換性を確認。エラー。互換可能なものに改変を開始します……>
何か複雑な処理がされているのか、いつもと違ってヴァーハナがなかなか変化しない。
っていうか今まで出来ると思っていろいろやっていたことも、なんらかのスキルを取得して出来るようになっていたのだろうか。
……ちょっとこの件が落ち着いたらヴァーハナを調べてみるべきかも知れない。
なんて思っていると、ようやくいつものようにヴァーハナが変化した。
イメージ通り、とまではいかないが、全長200m以上ある巨大ロボットだ。
コクピットは搭乗者に合わせたのか、俺のイメージとは異なり頑張れば十人くらいは乗れそうなものに変わっている。
「よし! これでギオデムを押さえつけられる!」
と勢い込んだのもつかの間。
<警告。移動以外の行動にはすべてMPを必要とします>
腕を動かそうとすると、警告音と共にそんな文字がディスプレイに浮かんだ。
そうでしたね、今までも移動以外のこと、オプションとかにはMPを消費してましたね。
腕はヘリや戦闘機の兵装と同じ扱いということなのだろう。
って、ここまでオプションの呼び出しと使用で俺のMP結構減ってるんですけど!?
向かってくるギオデムに衝突するように移動することで足止めは可能だ。
が、それでは動きを止めるまでには至らない。
動きを止められないと、俺がギオデムの中に侵入できない。
「っていうかギオデムの中に侵入するなら俺はヴァーハナから降りなきゃいけないじゃないか! 意味ねぇ!」
思わず頭を抱える。
当面の周囲の集落への被害は防げるが、肝心の潜入時の対処がフェスティスとヒミナによる三十秒から改善されていない。
そうこうしている間にもギオデムはヴァーハナを殴りつけ攻撃してくる。
ダメージはないが、これで投げ飛ばされでもすれば周囲への被害が出る。
時間稼ぎは出来るようになったが、動きを止める方法を早く思いつかないといけないのは変わらない。




