二十九日目-5 動き出す遺産
「おやトウヤ殿、もうダンジョンの調査は終わったのですかな?」
ダンジョンから出ると、ちょうど出入り口の前にいたケリュインに声をかけられた。
見ると俺が用意したプラウを装着し、その取っ手をギリーが持っている。
「ああ、うちは優秀な人材が多いからな。ケリュインはどうしてここに?」
「トウヤ殿が与えてくれたこの道具が優秀過ぎましたので」
「優秀過ぎた?」
首を傾げると後ろのギリーが呆れたように声を上げる。
「そうだよ。なんだこの道具は、プラウっつったか? 極端な話、こいつに人が乗っかってケンタウロスが直線に走り回るだけでみるみる土地が耕されていきやがる。地面に石があろうが岩があろうがお構いなしだ、ケンタウロスの脚力だけじゃねえこの道具自体がおかしい」
本来乗っかる道具ではなかったと思うんだが、ケンタウロスの馬力だとそうなるのか。
しかもプラウは馬に直接つながる道具だからか、アギに渡した槍みたいに神の領域の道具となっている。
地面に多少の障害物があってももろともに耕してしまうのだろう。
「後数日もありゃこの辺まで耕せるってな見立てになったんで、俺とケリュインで先に耕しに来たんだよ」
「そうか。でもなんで先に二人で?」
「そりゃあ……」
なぜかギリーが言いよどむ。
入れ替わるように今度はケリュインが口を開いた。
「トウヤ殿が向かったとは言えダンジョンです。村の皆さんは近寄りたくないでしょうし、私はトウヤ殿の影響で在野のモンスター程度ではダメージを負いませんから。であれば我々がダンジョンの周囲から村へ向かって耕せば効率が良いのではないかと思ったわけです」
「なるほど。じゃあギリーは」
「消去法だ消去法。このプラウってやつはケンタウロスだけでも使えるみてぇだが、人が一緒の方が効率良いことは間違いない。んで村人以外の人間っつったら俺しかいねぇだろ」
嫌そうに言うギリー。
ははぁん? なるほど。
「さてはツンデレだな?」
「ちげーよ。少しでも村人に恩着せときゃ俺の身も安泰っつー打算だ。だから理由言いたくなかったんだよ」
「そうかそうか。大丈夫、分かってるから」
「本当に分かってるくせにそうやって俺をからかうのやめろ」
おや察しが良い。
その通り俺はギリーが良い人扱いされるのを嫌がっていると理解している。
しかしこう、実際にツンデレキャラを見せられるといじりたくなるわけで。
でもうん、変に意地になられて謀反フラグになっても嫌だし、ほどほどにしておこう。
「分かったよ。んじゃ俺たちはこれで村に戻るけど、このダンジョンからはこれからもモンスターが出てくるから気をつけ──」
「トウヤ、まずいことになった」
言葉を遮ったのはフェスティスだ。
なんだかんだ空気を読む彼女の強引な割り込みに、嫌な予感が再発する。
「どうした?」
「地面に埋まっている岩というのが気になってな、そのあたりの砕かれ掘り起こされた石を調べたのだが、なんらかの術の痕跡があった」
「つまり?」
「さっき説明した遺跡の封印に関係していた岩である可能性が高い。おそらくはこう、ぐるりと遺跡を囲うように配置され機能していたものだと思われる」
ぐるり、と人差し指で円を描いて、それからケリュインを見る。
「推測ではフィエル村の近くにも埋まっていたはずだが、心当たりは?」
「ああ、聞いた話だと村の近くにもいくつか地面の下に大きな岩があって昔から耕せない場所があったそうだ」
「それはそのまま?」
「いや、それが……トウヤ殿のプラウなら問題ないということが分かり、喜んで耕してしまった」
「……まずいな」
ダンジョンの中とは打って変わって真剣な表情をするフェスティスに、事情が把握出来ていないケリュインとギリーも表情を曇らせる。
「……このまま遺跡に確認に行くべきだろう。ケリュインくんは村に戻り、いざとなれば村人が避難できるように──」
言いかけた時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴという地鳴りと共に、地面が揺れだした。
「これは……! 村に走れるか!?」
明らかに言葉が足りていないフェスティスの言葉に。
「承知! ギリー、失礼するぞ!」
「は? うぉわぁ!?」
事態の緊急性を察したのだろう、ケリュインは応じて行動を開始する。
まず背後のギリーに向き直ると片手でひょいと放り投げ自分の背に乗せ、そのまま揺れる地面をものともせずに猛スピードで走り始める。
「ルルク、《持ち上げ》でトウヤ達をヴァーハナの中に!」
「う、うん!」
ふわりと浮く俺たちの体。
立っているのも難しかった地面から離れスムーズにヴァーハナの中に入る。
続いてフェスティスとルルクが乗り込んできて、すばやくドアを閉じる。
「トウヤ、飛べる乗り物に変えて私の言う場所へ急行してくれ」
「お、おう……え、なに。そんなにヤバイのか?」
「ああ……我輩もおとぎ話だと思っていた話が、事実だった恐れがある」
「おとぎ話?」
なんとも渋い顔で頷くフェスティス。
「天乱戦争時に、エンシェントドワーフが秘密裏に制作していたという最終兵器。ついに日の目を見ることはなかったとされる幻のそれは、ギオデムと呼ばれた──」
ヴァーハナをヘリに変えて離陸する。
UH-60ブラックホーク。
コクピットの他に後部にも乗り込むスペースがある多目的ヘリだ。
時間がないようなので戦闘機にして急行したいところだが、この人数では乗れない。
だから装備を換装することで用途を変えられるこのヘリをチョイスした。
戦闘機には及ばないがヘリも十分に速度は出せるし、最低限の武装もオプションで呼び出しているから問題はない──はずだった。
「──巨大兵器──だったのか……!」
高度を上げて視界が良くなったところで、俺たちはそれを目の当たりにした。
もうもうと凄まじい土煙を上げながら、立ち上がる人型。
遠近感が完全に狂うほどの巨体は、すぐそこにいるように思えるのにナビを見ると遥か彼方に存在していた。




