二十九日目-2 はじめてのスライム
「は!?」
いきなり何を言い出すんですかこの子は!?
「ほう、我輩に嫉妬かね?」
「なんで肯定のような反応してるんだ!? 乗ってない、乗ってないぞ!」
慌てて否定する俺の剣幕にルルクは気圧されたのか小さく身を竦ませて。
「そ、そうなの? ぼ、ボクてっきり……」
「なんでてっきり? どうしてそんな風に思ったんだよ!?」
すると俺の剣幕が意外だったのか、ルルクはぱちくりと目を瞬かせる。
「え、だ、だって、ほら……ケリュインさんたちの説得の時、人騎一体を使っているみたいな、意思疎通してたから……」
「……え?」
今度は俺がキョトンとすると、堪えきれないと言った風な笑い声。
「くっくっく……つまりそういうことだ、トウヤ。ルルクは我輩が、トウヤに『乗り物として』乗られたのかと、そう思ったわけだ」
──あ。
「う、うん……え? 乗るってその他になにか意味が……」
「なんで人騎一体を使っているなんて思ったのかなルルクくんっ!?」
大声を張り上げて強引に話を戻す。
フェスティスは腹を抱えて笑いを堪えているが、ルルクとヒミナはキョトンとしているので気づかれてない問題ない。
「え、えと、あの時フェスティスさんが言った選択肢にご主人様は答えなかったし、ご主人様の質問にもフェスティスさん妙な答えをしていたでしょ? あれがよく分からなかったから……」
「ん? あー、あれか」
ケンタウロス達をルルクに無力化してもらおうと思って、それが出来ないと分かった時のことだ。
確かにフェスティスにどうにかしてもらうか、助言を受けるか、俺自身がどうにかするか、その三択に答えなかった。
とは言っても大したことじゃない。
「あれは簡単な推測だ」
「推測?」
まったく、こんなことであんな焦ることになろうとは。
俺はこっそり深呼吸を混ぜて自分を落ち着かせつつ答える。
「そう。俺はヒミナから聞いた話やこれまでのことで、フェスティスは知識もあり頭の回転も速いと評価している。そんな彼女がその三つの選択肢を挙げるのだから、その三つのどれを選んでも問題は解決できるんだって、信じた」
「信じた?」
「そりゃ人騎一体みたいな意思疎通じゃないからな。でもフェスティスは科学の知識を欲していて、俺はその唯一の提供者だ。俺が危険に陥るようなことは言わないだろうってのもあった。で、それを前提とすると、あの状況は俺自身でも解決できる問題だってことになる。選択肢の最後が俺がどうにかするってものなんだからな。じゃあフェスティスは何を以て俺が解決できると思っているのか? はい、ルルクくん」
「え? ん……と? う、運転LV5?」
「正解」
ま、そりゃそうだ。
ヴァーハナ以外で俺が持つ唯一の強み、それが運転LV5だ。
「まとめると、フェスティスは俺が運転LV5を使えばケンタウロス達の無力化が可能だと判断した……と、推測できるわけだ。じゃあ運転LV5どう使うか? ケンタウロス達の中心人物であるケリュインに乗るんだろう、と」
「はぇー……じ、じゃあご主人様の質問へのフェスティスさんの答えの意味は?」
あれだな、失敗したらどうする?ってな問いに対して、ヒミナがいるだろうって返ってきたところだ。
「あれは俺にヒミナが法術で保護してくれているってことを思い出させただけだな。それがあればたとえ失敗したとしても、フェスティスやルルクが俺を無事に回収するくらいはできる」
「そっかぁ……そういうことだったんだね」
うんうんと頷きルルクは納得した。
「……なぜ、そんなことを気にする?」
そこに新たに投げかけられる疑問。
振り向くとエルが口調も表情も不思議そうではないのに首だけを傾げていた。
「そりゃあ……俺が弱いからだよ。スライムのエルからみたら驚くほど脆いんだ、俺は」
一瞬答えるのを躊躇ったが、俺が強くないことはアギとマリに改めて言った時にエルにも聞かれている。
ここは変に隠すところでもないだろう。
しかしそれでもエルの疑問は解けなかったようだ。
「ケンタウロスは弓矢、持っていた。ルルクの上でも危険、大差ない」
ああそうか、以前の俺のようにスキルの知識がなかったらそうなるか。
「それは俺の運転LV5の効果だよ。正確に言うと、それを受けたヴァーハナやルルクが俺を保護してくれてるんだ。だからルルクに乗っている時は、防御のことを考えなくて良い」
エルはそれを聞いて考え込むように腕を組み、やがてポツリと。
「なら……今は、危険?」
「ん? ああ、まあ……そうだな」
ダンジョンの入り口が狭かったのでヴァーハナは置いてきた。
ルルクも人の姿。
乗るものなく久しぶりの歩きなので、俺の安全度はだいぶ低くなっている。
といっても前を行くフェスティスと後ろに控えるルルク、この二人を突破してさらにヒミナの防護法術を越えて俺にダメージを与えるというのは至難の業だろう。
だからそこまで心配はしていない。
のだけれども。
ドロリ。
「……どうしたんだ、エル?」
急に溶けるようにまんじゅう型の葛餅のような姿に変わり、左右に小さく揺れるエル。
「乗って」
「え?」
唐突な申し出に俺が聞き返すと、不満げに揺れるスライムボディ。
「トウヤ、大事。ミッシェルのためにも。怪我、ダメ。エルに乗れば、安心」
「乗る……?」
プルプルと揺れるエル。
これに乗る……乗れるのか?
あー、でもいたな、スライムに乗ってるモンスターが有名なRPGに。
「え、え、で、でもそういうことなら、ぼ、ボクに」
「いや、ダンジョンの中は道幅も段差も一定ではない。その点で言えばスライムはダンジョン探索にもっとも適した乗り物だろう」
ルルクは難色を示したがフェスティスは賛成のようだ。
「そうですね。私の法術も絶対ではありませんし……その方が良いと思います」
ヒミナも賛成、と。
特に拒否する理由もないし、多数決の結果に従うとするか。
「じゃあ……嫌だったら退くから遠慮なく言ってくれよ?」
「問題ない。マザーほどではないけど、エルもそこそこ強い」
どんな風に乗ったらいいのかちょっと迷って、俺はバランスボールに乗るようなイメージでエルの上に乗った。
その瞬間。
「!」
ぐにゅう、と。
なんとも言えない柔らかさでエルのボディが俺の膝を、体重を受け止める。
こ、これは──
──人をダメにするシリーズ!
あの感触だ!
ちょっと姿勢が辛いかなと思ったのも一瞬、すぐにエルの方で俺が楽な姿勢ができるように形を変える。
これはヤバイ……このまま寝っ転がりたいくらい気持ちいい。
「これ……想像、以上…!」
苦しそうなエルの声が聞こえたのは、全身から力を抜こうとした瞬間のことだった。




