二十八日目-6 疲れた時には味噌味
その日の夜は村をあげての宴会となった。
各自各家庭が持ち寄った料理がずらりと並び。
「これは……良い匂いですな……!」
負けじと立ち並ぶのは30センチオーバーの大鍋が10個ほど。
ぐつぐつと煮込まれているのは塩鮭をメインに、豆腐、キャベツ、長ネギ、玉ねぎ、白菜春菊じゃがいもキャベツその他諸々。
村で採れた野菜類もまとめてぶちこんだなんちゃって石狩鍋だ。
鮭のアラが入っていて、鮭の切り身が入っていて、味噌ベースにバターが入っていればだいたい石狩鍋、という極めて個人的な決めつけによる鍋である。
作り方も昆布だしを取って、みりん味噌酒で味を整えたら火の通りにくいものから投入するだけ。
雑である。
だがこの人数とこの具材で細かいことやっても仕方ないと思うわけで。
『皆様、お集まりいただきありがとうございます。揃いましたようなので、今回の主催者であるトウヤさんから挨拶をもらって、始めたいと思います』
はい、とマリからマイクを渡される。
聞いてないんだが、まあ発案者だし仕方ないか。
ざわついていた場が一瞬で静まり返ることに落ち着かないものを感じつつ、俺は口を開く。
『お聞きの方も多いでしょうが、今回は私どものケンタウロスを皆さんに労働力として貸し出す運びとなりました。お互いが協力することでより良い成果が出ることを祈ってます。んじゃま、堅苦しいお話はこの辺にして、交流会も兼ねていますので料理を肴に楽しんでいってください。乾杯!』
カンパーイ! と揃う声。
紙コップとお酒各種、それにソフトドリンクも用意しているので全員がまずその中身に口をつける。
「甘っ!? なにこれ、飲んだことない味!」
「母ちゃんこれスゲーよ! 口の中パチパチする!」
「くぁー! これが酒なんて水でよっぽど薄めたんだろうと思ったんだが、こりゃあキくねぇ!」
飲み物の評判は上々のようだ。
その後はみんな器を持って鍋に殺到する。
「ほふっ! なんだこりゃあ、しょっぱいのに甘さがあるぞ!? だが、美味い、間違いなく美味い!」
「野菜もだ、この塩気が染みてんのに、それが逆に野菜の甘みを引き立ててるぞ、ウチの野菜がこんなに美味かったとはなぁ!」
「こりゃあ魚か? この辺の川で取れるやつとは全然違うな!」
「ああ、こりゃあ美味い……なんだ、この……うめぇなぁ……!」
鍋の方も好評のようだ。
ありがとう、ヒミナとアギとマリ。
このサイズと量を車内では調理しきれないからな。
ルルク達にうなぎとかを食べさせた時みたいに、車外に出た料理は三人が担当した。
フェスティスはと言うと、一口味見をしては調味料を足していた。
錬金術などで調合なれているからなのかは分からないが、三人が驚くほど的確に味を整えていた。
おかげで鍋がどんどんおかわりされていく。
その列にケンタウロスが並び、村人が並び、待っている間に言葉を交わし、酒を酌み交わす。
交流会としての一面もどうにか成功しそうだ。
……で。
「食べないのか?」
一人、離れた場所に座るギリーに声をかける。
「……俺はこの村を襲わせた主犯だぞ?」
「そりゃあ、気まずいか」
ギリーは肩を竦めて首を振る。
「気まずいどころの話じゃねぇだろ。今は村の連中も笑ってやがるが、あんたが出立すりゃあ目の色変えて俺を放逐するだろうさ」
「それは無理だろ」
「なぜ言い切れる?」
「ケリュインは竜を前にしてあんたを守ろうとしたんだ。村人に屈するわけないだろ」
「……どうだかな」
やっぱり説得の最後がああいう形になったからか、ギリーはまだ割り切れないところがあるようだ。
あとでケリュインに言って気にしてもらうことにしよう。
とりあえず今は。
「それはそれとして、ほい」
持ってきた石狩鍋が入った器をギリーに渡す。
「……毒か」
「ここにきてそんな面倒なことすると思うか? まあほら、食べて食べて。皆には好評だぞ」
「ふん……」
ずず、とまず汁を啜る。
そこからは早かった。
ギリーは丼をかきこむ要領でがつがつと石狩鍋を口に流し込み、平らげる。
その食べっぷりに思わず自分用に持ってきた分も差し出すと、一瞬躊躇ってから受け取り今度は味わうように噛み締めて食べる。
「ほぅ……」
最後に漏れたのは、そんな心身の疲労が抜けていくようなため息だ。
俺がニヤニヤと見ていると、それに気づいたギリーは顔をしかめて視線を逸した。
「なんだよ……笑えるほど育ちの悪い食い方だったか?」
「なんだそりゃ。さすがに卑下するにも程があるだろ。いや、この料理にしたかいがあったなって思ってな」
「この料理?」
空になった器に視線を落としてから俺を見上げる。
「ああ。まあ俺の昔話なんだけどな、夜遅くまで勉強することがあって、それが連日の深夜となると超しんどいんだ。そんな時に差し入れしてくれた味噌汁が、いつもと同じものと思えないくらい美味くてさ。その味と暖かさで体の芯から癒やされるようだった。お前ら、ずっと休む場所も食料も逼迫してたんだろ? なら絶対味噌ベースの美味いものだろって思ったんだよ」
「……」
「だから期待してた通りの反応してくれて、俺は満足して笑いました。他意はない。ってこと」
「……性格悪いな」
「そうか?」
「ああ」
ガーン、だな。
今まで良い人だねとは言われたことはあっても、性格が悪いと言われたことはなかった。
なんだろう、ヴァーハナで色々出来るからって無意識に調子に乗ってたんだろうか。
それが嫌味な感じとして滲み出ていた?
気をつけなければ……!
「……俺の関係者」
「うん?」
「ここに連れてきてくれるって話……あれはその場凌ぎか?」
「え? ああいや、今まで触れられなかったから驚いただけだ。遠慮なく言ってくれ」
急にどうしたんだろう。
俺、試されてる?
ともかく少しでもこっちを信用してくれる気配が出てきたのは良いことだ。
ここは張り切って、明日の朝には連れてきてしまおう。
真正聖王国に侵入する必要があるけど、そこはフェスティスがルルクと行ってきてくれると約束してくれている。
誰に気づかれることもなく遂行してくれるだろう。
「じゃあ、ちょっと面倒な話だが──」
ギリーの話の要点をスマホのメモに書き込んでおく。
よしよし。
まだ安心するには早いがこの調子なら今回の件が完全解決する日も近そうだ。
俺が聞いた話をフェスティスに伝えようと腰を上げると、入れ違いで料理と酒を持ったケリュインがやってきてギリーにそれを渡した。
その二人の表情を見て、俺が気にしすぎなだけで問題など既に解決済みな気がした。




