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二十八日目-5 派遣ケンタウロス

 と、言うわけで。


「村長、こちら明日からここで農作業手伝い兼警備員をしてくれるケンタウロスのみなさんです。彼はその代表のケリュインさん」

「よろしく頼む」


 村に戻ってそう言うと、ケンタウロスの集団をみて驚愕に口を開いていた村長はギギギと錆びついた動きで俺を見た。


「と、トウヤ殿!? か、彼らはこの村を襲っていた──ああいや、そうではなく……いやそっちも問題なのですがっ、そもそも彼らを用心棒に雇えるほどこの村は豊かではないのですよ?」

「もちろんまだ最終決定じゃないですよ。今からの商談を受け入れて貰えれば、です」

「商談?」

「はい。フェスティス」


 呼ぶと前に出てテーブルの上にことりと瓶を置くフェスティス。


「これは我輩が新たに作成した肥料だ。これをこの村で試験的に使用して欲しい」

「は、はぁ……フェスティス様の肥料ともなれば、喜んでお引き受け致しますが……」

「ただし」


 俺が強めに切り出すと、瓶へと伸びかけていた村長の手が止まる。


「今回のその肥料はまだ試験すらしていない。フェスティスの腕を疑うわけじゃないが、失敗品で収穫量が減る可能性はある」

「そう……なのですか?」


 村長の視線を受けてフェスティスは頷く。


「なので来年のこの村の作物を、共通金貨1500枚で買い取らせてもらいたい」

「せっ……1500枚!?」

「ええ。どれだけ不作でも、逆にとんでもなく豊作になったとしても、変わらずに1500枚です」

「我輩の肥料の効果が高ければ高いほど我々の利益になる。対してそちらは決して損害を出すことはない取引、というわけだ。試験品を使うならば、これ以上ない条件だろう」

「もちろん領主に納税する分は残してもらって構いません」


 村長は腕を組んで考え込み、おそるおそると言った様子で尋ねてくる。


「あの……村で食べる分は……」

「それもこちらに売る分から除外してもらって構いません。そして1500枚を先にお支払いするので、その1500枚でケンタウロス達を雇って──いえ、私共のケンタウロスを労働力として借りてほしいのです」

「我輩たちの商会から、な」

「! なんと……よろしいのですか!?」


 ケンタウロス達は受け入れ先が欲しい。

 村も受け入れることには大きな問題はないが、そのための経済基盤がない。

 だったらこちらから用意してやれば良いわけだ。

 世の中タダより怖いものはない。

 俺がケンタウロス達を説得したと言っても、それだけで村に置くのは怖いだろう。

 けれどこうして商談として契約を取り交わしてしまえば、正当な支払いを行っていることで安心感が生まれる。

 そのための資金はこうして先物取引を提案することで生み出した。

 あとの問題は俺の商会(うち)の従業員であるケンタウロス達への給料だが。

 買い取った野菜を売った利益で捻出するのが理想だが、そこまで上手くいくかはさすがに分からない。

 なのでチートなヴァーハナさんによる現物支給で切り抜ける。

 そのあたりは既に道中でケリュインとも相談済みだ。


「ケンタウロスの皆さんが見回りをしてくれるなら、農地を拡大することもできる……こちらにとってこれ以上ないお話ですトウヤ殿!」

「商談は成立、ですね?」


 差し出した俺の手を両手で厚く握る村長。

 これで問題は一つ解決だ。

 ……不満そうなギリーがちょっと気になるが。

 とは言えこうなれば彼一人でケンタウロス達を動かすことも難しいだろうし、どうにかなるだろう、うん。

 一件落着だな、めでたしめでたし。




 ただ暇になるかというとそうでもないわけで。


「えー、皆さんにこれからお伝えすることがあります」


 ずらりと並び微動だにせずに俺を見つめるケンタウロス達。

 総勢54名。

 ケリュインを含めると55名からなる小隊なんだとか。

 本当に真面目な種族なんだろう、私語の一つもしていない。

 そこにかなり不真面目な俺が偉そうなことを言っていいのだろうか。

 少し尻込みしたが、これは俺が言わなきゃいけない。しょうがない。


「まずは4つのグループに分かれてもらいます。分け方は自由ですが、人数にバラ付きはでないように、13人ずつのグループになってください。そしてここからが重要なのですが──」


 コホン、と咳払いをする。

 こういうことを真面目くさった顔で言うのは、どうにも慣れない。


「ケリュインと子作り出来るのは、一年に1グループまでとします」


 ざわり、と動揺する気配。

 その直後にやおら手を上げるケンタウロスが一人。

 確かケリュインの護衛だった一人だ。


「はい、質問どうぞ」

「なぜ1グループに限定するのでしょうか」

「皆さんの雇い主は俺であり、働いて欲しいからです」


 目を瞬かせるので、俺は順序を変えて先に説明する。


「皆さんにはこれからのこの村で、警備と農業の手伝いをしてもらいます。その人数を確保するために1グループまでとします。また子育ては産後のグループが翌年の一年間協力して行うこと、二年後からは労働組に復帰してもらいます。これをまず四年間は行います。なので常に2グループは労働組を確保する形となります」

「二年間は子作りと子育てに専念して良いのですか?」

「子作りの方は、手隙の時間も出るでしょうし任意で働いてください。ただ妊娠が分かった時点で無理はしないこと。子育てに関しては専念して良いです」

「なるほど……分かりました」


 分かって貰えた。

 実際はケリュインが「全員といっぺんには無理、だが全員の気持ちには応えたい」という希望によるものだ。

 ケリュインの小隊は真正聖王国のケンタウロス達の中では変わり者が集まっているらしい。

 どう変わっているのか。

 恐ろしい話「種の存続を危惧する」変わり者だという。

 元々前線に出たがるのは男が多い傾向にあるらしく、真正聖王国のケンタウロス総勢約400名のうち男性は20名まで減っているのだとか。

 このままでは絶滅しかねない。

 そう考えたケリュインはどうにか前線ではなく後方に配置されるよう嘆願書を何度も、何度も書いたそうだ。

 しかし真正聖王国の上層部はこれを無視。

 結果ケリュインは前線での戦闘を仮病などで避けるしかなくなった。

 それに協力し集まったのが彼女たち54名のケンタウロス達だった。

 一人の仮病ではすぐにバレるが、小隊単位ともなれば戦場に出ながら誤魔化すことも可能になる。


 そんな彼らの背任行為に気づいたのが、意外なことにギリーだった。

 彼はケリュインを問いただし話を聞き出すと、聖皇神国への飢饉工作計画を立案。

 お咎めなしで前線から抜けてこの地までやってきたのだという。


 だからケリュインはギリーや周囲のケンタウロス達に大きな恩義を感じているのだとか。

 とはいえ、だ。

 童貞の俺には分からないことだが、毎晩するのは心身が消耗するのだそうだ。

 爆発しろ。

 と思わなくもないのだが、そう語るケリュインの目を見たら、多分誰も何も言えなくなると思う。

 しかしここまで付き合い協力してくれた彼女達に不平等を強いるのも本意ではない。

 なので一年に1グループまで。

 それでも大変だろうが、制限がないよりはマシのはずだ。


「で、グループの分け方は──」


 ちらりとケリュインを見ると、頷いて前に出てくる。


「ルゥラ、ヴィガー、フィスアルマ、シェティール、君たちがそれぞれのリーダーとなって編成してほしい」

「「「「了解しました」」」」


 常にケリュインの近くにいた四名が息ぴったりで返事をする。


「また、皆さんが農作業をするのにあると良さそうかなと思った道具も用意しました」


 俺は二つの道具をケンタウロス達に見せる。


「刃がついた台車?」

「……武器では、ないのか」


 そう言う二人が見ているのは、そのとおり二輪の台車に刃のような金属の突起が付いたものだ。

 もっとも突起は上ではなく地面の方、下向きについている。


「武器ではありません。プラウという道具です。これを皆さんが牽引することで耕すことが出来ます。一人だと上手くいかないと思うので、村人と協力して使ってください」

「ではこの不思議な形の台も?」


 もう一つは二列四本の筒が放射状に伸びた、上がトレイのようになっている台。


「タコ足という種まき用の道具です。地面まで手を伸ばす必要がないため、皆さんでも楽に種まきすることが出来ると思います」


 時間効率で言えば俺がトラクターやらなんやらで耕すのが早いんだろうけど、さすがにそれはやりすぎな気がする。

 なので伝統的な農具である馬用のブラウと、北海道開拓で活躍したというタコ足を用意した。

 プラウは馬のオプションとして出したのだが、乗り物(ヴァーハナ)の一部という扱いらしく現代的な軽くて丈夫な金属製。

 タコ足は博物館へ搬送するトラックのオプションとして用意したので、年季が入った中古のものとなった。

 耐久性が必要なのはプラウの方だし問題ないだろう。


「それと皆さんの仮設住居を森の方に用意しました。割当は各々でお願いします」


 あっち、と指さした向こうにあるのは仮設厩舎だ。

 馬用のものではあるが、人間用のものよりこっちの方が良いだろう。

 もちろん本当はしっかりとしたケンタウロス式の家があった方が良い。

 が、俺に建築技能はない。

 それどころかこの仮設厩舎すら、組み立てるのに村の皆さんの協力が必要だった。

 しかも完成品の写真を見たフェスティスが助言してくれなかったら、それすらも危うかったレベル。

 これで我慢していただきたい。


「組み立てには村の皆さんが協力してくれたので、あとでお礼を言ってください。それをきっかけに色々と交流もして欲しいです」


 唖然としている様子のケンタウロスの皆さん。

 うーん、やっぱり仮設厩舎じゃ嫌だったろうか。

 でもケリュインが「大丈夫です。絶対大丈夫です!」って太鼓判押してくれたんだよな。

 よし、なにか苦情があったらケリュインに回そう。


「俺からの説明は以上です。あとは今夜は夕食に交流会を予定しているので、全員参加してください。明日からは村の人と相談して仕事にあたってください。なにか質問がある人は?」


 戸惑いながらお互いの顔を見合わせるケンタウロス達。

 ケリュインからリーダーを任された四人にも視線を向けるが、どうやら特にないようだ。

 うん、なにかボロが出る前に終わろう。


「じゃあ以上です。解散!」


 そう告げて俺は逃げるようにヴァーハナへと戻った。

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