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二十八日目-4 華麗な演出と圧倒的火力の間

「──な」


 絶句したケリュインが我に返るよりも先に。


「ほ──あぁたたたたたたたたたたたたたたたぅおわったぁ!」


 昔アニメで見た掛け声と共に俺はケリュインの様々なツボを指で押す。

 すると。


「なっ、な──ああああっ!?」


 ケリュインが竿立になり、直後に今度は後ろ足を上げ、その動きに反応出来なかったギリーは。


「ちょ、バカ! 暴れ──くおっ!?」


 ポーンとギリーが振り落とされる。

 走り出していたケリュインの速度と放り出された高さもあってかなり痛そうだ。

 近くにいた護衛らしきケンタウロス三人が危うく踏みそうになってバランスを崩す。

 そうした騒ぎに散っていた他のケンタウロスたちも気づき、戸惑いながら速度を緩めた。


「き、貴様、いったいなにをした!?」


 スキルに聞いてくれ、と言いたいところだが。


「神経や筋を刺激してお前さんの動きを制限しているだけだよ」


 多分だけど。


「そんな、バカなことが……!」

「まあほら、落ち着いて、座って」


 両手の親指で馬部分の背中を押し込む。


「ぬぅっ……!?」


 すると後ろ足から力が抜けてぺたんと座り込むケリュイン。

 どこにどう触ればどう動くかが、スキルの効果で直感的に分かるおかげだ。

 鍼灸のツボみたいなものなのだろうが、その効果はどこぞの秘孔のように劇的だ。

 ……試しにイメージしてみるだけしてみたが、体を爆散させたり傷つけたりするツボはないらしい。

 ちょっとホッとした。


「貴様! ケリュインから離れ──くっ!?」


 取り戻そうとした護衛の一人が突撃の構えを見せたが、俺の頭上に目を向けてたじろぐ。

 ルルクがホバリングしながら、いつでもブレスを吐けるように頭を突き出していたからだ。

 どうしたら良いのか、戸惑い迷ったケンタウロス達の空白の一呼吸。

 俺は大きく息を吸い込んで宣言する。


「俺のスキルは運転LV5だ!」

「!?」


 ババッ!と凄い勢いで振り向くケリュイン。

 他のケンタウロス達も目を見開いて驚き、ルルクと俺を交互に見ている。


「ぐ……う、嘘だ……そんな、スキルなど……」


 倒れたままのギリーが否定しようとするが、その声は弱々しく俺とケリュインくらいにしか届かない。


「ところがどっこいこれが現実、俺が運転LV5だってことは、他ならぬケリュインが分かっているんじゃないか?」


 ケリュインは俺とギリーを何度か見比べると、やがてゆっくりと頷いた。


「気づけば気力体力ともに充実している……これまでの不調が嘘のようだ。いやむしろ、ここまで万能感に満ちたことは今までにないほどだ」

「な……」


 ギリーが絶句する。

 拳を握るケリュインの周囲に、白い霧のようなオーラが発生したからだ。

 もちろん俺も絶句した。

 でも表情には出さないでしれっとしておく。


「今ならばあるいは、空すら走れるかもしれん」


 マジで?

 空を走るケンタウロスとか、もうそれ神話の軍勢の領域じゃないの?

 想像したら超強そうなんですけど。


「俺のスキルによるものだからその強化を停止させることも出来る。けど当然そのままにしておくことも可能だ。どうだろう、俺が嘘を言っていないことが──少なくとも嘘を言う必要がないことは分かってもらえると思うんだが」

「……」

「くっ……!」


 俺の言葉にギリーを見つめるケリュイン。

 ギリーの方は悔しそうに顔を歪め視線を逸した。

 その様子を見てケリュインは力強く一度頷くと。


「トウヤ殿、だったな」

「ああ」


 ケリュインは意を決したように強く言い放つ。


「その話、お断りしよう」

「なに……!?」


 驚愕の声を上げたのは、ギリーだ。


「実に魅力的な話であり、雇いたいという評価はこの身に過分なほどだ。しかし、我らはギリー殿に恩がある。我らをここまで導いてくれたという、多大な恩がな。故に、我らはギリー殿が望まぬことを選ぶことは出来ん」

「ケリュイン……お前……」


 信じられないものを見たようなギリーの表情に、ケリュインは微かに微笑んで。


「さぁ、トウヤ殿。好きなようにするが良い。我らは貴方に勝てないだろう。だがしかし、それでも従えぬ」


 これは意外な結果だ。

 今日はなんなんだろう、俺のプランAがことごとく失敗していく。

 とは言え、だ。


「でもそれ、断る理由になってないよな?」

「「──え?」」


 ケリュインとギリーの二人が同じように目を丸くする。

 甘い、甘すぎるぞ、どこぞのあんまんよりも甘い……あ、あんまん久々に食べたいな。

 もとい。

 プランAは失敗したがこっちはプランBがあるのだ!


「俺は別にケンタウロス族に限定した覚えはないぞ。ギリーも込みだ」

「なに……!?」


 もちろん嘘だ。

 悪党だろうなーって思ってたし、ここでケリュインが見限るようならそこまでのつもりだった。

 しかし俺は賢者でもなんでもないただのしがないニートからジョブチェンジしたてのタクシー運転手。

 本当は良いやつである場合や、義理堅いケンタウロスが見捨てない可能性も考えておいた。


「し、しかし、俺は──」

「真正聖王国の工作員?」

「! 知って……いたのか!?」


 いや、知っていた以前の問題だ。

 現在ケンタウロス族は真正聖王国しかいなくて、ケリュイン達はケンタウロス族。

 それが徒党を組んで山賊行為なんかして、それを牽引していたのがギリー。

 昨夜まででそこまでは察しがついていた。

 だったらどうしてそんなことをするのか。

 現在食料不足に陥っている聖皇神国の農村地域を掌握し、さらに弱らせるため。

 っていうのが素直な推測になるだろう。

 んでもって。


「裏切って俺に雇われてくれるなら、真正聖王国に置いてきたもの全部持ってきてあげよう」

「……は?」

「君が裏切ったとなった時に、粛清されそうな関係者。人質。家屋や土地以外の資産含め、確保したい君の所有物や関係者を運んでくる。生活が不安だっていうなら、共通記念金貨五枚も付けよう」

「きょっ……!?」

「だから残るは君の忠誠心くらいが問題なわけだけど……どう? それとも──」


 俺は右手の人差し指を高々と頭上に掲げる。

 一拍遅れて。


「《炸裂の吐息(ショット・ブレス)》」


 ドンッ! ボンッ! パァンッ!


 ルルクが威嚇として派手なブレスを一つ吐き出す。

 巨大な炎の玉が上空へと放たれ、それが大爆発。

 さらに中位の大きさの炎の玉が複数生まれ放射状に飛んでいき、爆発。

 無数の小さな炎の玉が放射状に飛んでいく三段階花火のようなブレスだ。


 ……ヤベーな。

 一回目の大爆発、あれだけでちょっとしたクレーターが出来るくらいの威力がある。

 あんなの地上に向けて撃ったら、大概の軍勢は壊滅するんじゃないだろうか。


 ちら、と視線を戻すとケリュインとギリー、そして周囲のケンタウロス達全員が青い顔をしていた。

 うん、やりすぎ!

 ちょっと困るよルルクちゅわぁん、誰がそんな強力なの使えって言ったの?

 俺です!

 俺が派手で強そうなやつをお願いしました! 飛び降りる前に! 威嚇の合図決めて!

 違うの! もちょっと軽くで良かったの! なんかこう「戦ったら苦戦した末に負けそうだなー」くらいの! 演出的なやつで!

 こんな「逆らったら一瞬で消し炭ですがなにか?」みたいな威力がほしかったんじゃないの!

 しかしもう吐いてしまったブレスは戻らない。


「──これでも俺と敵対する気持ちは変わらない……いや、君たちをアレの的にするつもりはない。ないよ、ほんとに。ただ、その──なんだ、少しは俺と敵対したくないと思って欲しいと──ってそうじゃなくてだからそのえっと俺を味方にすると頼もしいよっていうか──あぁ──」


 思考回路はショート寸前。

 今すぐ投げ出したいよ。

 俺はどうにかうまい説得の言葉を探して。


「……もう脅しでいいや。死にたくなかったら雇われてください」


 諦めました。


 その結果。

 死にたくなかったのだろう、ギリーはあっさり降伏し、連れ立ってケンタウロス達も投降した。

 その様子を見てルルクがフンスと得意気に鼻息を荒くしていた。

 違うんだ、俺はもっとこうスマートに……うん、はい、そうだよね、力こそパワーだよね。

 とりあえずはこれで良しとしよう。

 だったら最初から脅せば良かったのではないか、ということは考えない。

 うん、挑戦することに意義がある。

 俺はそう思い込むことにした。

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