二十七日目-8 相談と確認の4つ目、エル
「トウヤさんの行いはなに一つ恥じるところはありませんし、そのお力も私は目の前で見てきましたから知っています。救世主というのは正当な評価だと思います」
それにうんうんと頷くアギも同意見らしい。
考えてみればその辺りを説明したことがなかった。
ちょうど良い機会だが、なんと言ったものか。
強大な力を手に入れて調子に乗るのが死亡フラグだから、なんて言っても分からないだろうし。
「まず、俺が弱いからだな」
「弱い?」
「はいそこ、意外そうな顔しない。何度も言うけど、あくまで魔将軍を倒したり竜の攻撃を防いだりしているのはこのヴァーハナで、俺自身は一般人よりは強い程度。だから変に目立って敵を作りたくないの。そうだ、ヒミナは俺が言ってることが謙遜でもなんでもないこと知ってるんじゃないか?」
女神様を降ろして俺のことをいろいろと知られてしまっている彼女なら、俺のステータスについても知っているんじゃないだろうか。
視線が集まったヒミナは一度確認を取るように俺を見て、それから頷いた。
「マジか……」
なぜかマリよりもショックを受けているアギ。
あいつの中で俺はどれほどの強者だったのだろう。
「んで二つ目。縋られるのが嫌だ」
「縋られる?」
「そ。俺は聖人でもなんでもない一般人なの、世界のために!とか人々のために!なんて柄じゃないんだ。そりゃあ困った人が目の前にいて、俺が助けられるなら助けたいっていう一般的な善意くらいはあるけどな? 救世主様ーお助けくだされ救世主様ー!なんてのはまっぴらごめんってわけだ。俺のこと都合の良い道具だと思ってない?とか思っちゃうわけ」
「……なるほど、善意の強要は恥ずべき行為です」
ふむふむと納得するマリ。
飲み込みが早いというか、年齢の割に賢い気がする。
善意の強要とかなにその見事に俺の感情をコンパクト化した一言。
俺も見習わなきゃなーなんて思いつつ。
「他にもいくつかあるけど、主なのはその二つだな。まあ旅客運送業を広めたいっていうのはあるから、落とし所が難しいところなんだが」
タクシーの利便性を知って欲しいというのはある。
けどこの世界ではタクシーなんて俺一人のオンリーワンであって、それを広めようとすると当然俺のことも有名になってしまう。
あちらを立てればこちらが立たず、悩ましいところだ。
「で、では……私は、トウヤさんの望まぬことを……!」
「ああいやいや、説明してなかった俺が悪いし、マリにはいつも助かってるよ。俺は世間知らずだからな、マリがいなければもっとややこしいことになってるだろうし、ありがとう」
「ですが……はい」
なおも言い募ろうとしたものの、頭を撫でてやるとちょっと落ち着いたのか素直に頷く。
「あ、トウヤーオレもオレも!」
「はいはい」
なぜか便乗するアギの頭も撫でてやる。
俺に撫でられても嬉しくなかろうと思うが、本人の希望なら仕方がない。
さて、これで一通りの話は終わったわけだが。
「……」
まだ発言しておらず、じっと俺を見つめる少女が一人。
エルだ。
黙っていたのは俺の話を邪魔しないためだったのかも知れないが、それにしても目が、その、怖い。
言うなればガン見だ。
今までの話の間ずっっっと俺を見つめたままで、一度たりとも視線がそれたことはない。
「それでエル……ちゃん? 君の相談ごとってなにかな?」
「ミッシェルを貰って欲しい」
「……ん?」
ピタ、と空気が停止する。
今なんか即答するようなことではない言葉が聞こえたような。
「それはどういう……」
「引き取って欲しい、とも言いかえられる。トウヤ、あなたの元に置いて欲しい」
「ん、んんん? 待って、ちょっと……マリ?」
ケンタウロスとの騒動のあと、ミッシェルを家まで送ったのはマリだ。
ひょっとしたら事情を聞いているかも知れない。
そう思ったのだが。
「いえ、私はなにも……というか、ミッシェルさんの家にはご両親もいたので、まずはそちらに確認するべきかと──」
「その両親というのは、これ?」
エルが片手を上げると、その背後に二人の人間が現れた。
いかつい顔つきの男性と、タレ目気味で弱々しい印象の女性。
「え……な、なんで!?」
目を丸くして驚くマリ。
どうやら彼女が見たミッシェルの両親と同じ姿をしているようだ。
「回答は、これもエルだから」
「これもエルちゃん……? 幻覚などではなく?」
確認するとエルは頷いてその手を横に振ると同時、男性と女性の姿が溶けて混ざり一つの円柱状の塊に変わった。
「これらはエル。エルは、ミッシェルの妹で」
どろり、とエルの手も溶けて。
「──スライム」
テーブルに置いてあったお茶菓子を包装紙ごとスライム状になった手で包み込み、じゅわじゅわと消化していく。
誰もが呆気にとられその光景を無言で見つめる中。
ハッとしたようにエルは目を見開くと。
「……おいしい……!?」
残っているお茶菓子を見つめながらそう呟いた。




