二十七日目-6 相談と確認の2つ目 魔女
「じゃあ次は今日のメイン……いろいろと聞かせてもらいたいんだけど、良いかな?」
「はい。なにからにしましょう」
こくりと頷いて聞いてくるヒミナ。
うむうむ、こちらも素直で結構である。
……聖皇女様になんで上から目線なんだっていうのはこの際脇に置いといて。
「まず魔女フェスティスなる人物について、かな」
「だいたいは村長が説明された通りです。聖皇神国は長く魔王軍と戦っていたため未調査の遺跡が多く存在するので、その調査をお願いしています。ただ食料の件についてはさほどの問題ではないかと」
「問題ないの?」
「はい」
はっきりと肯定して、ヒミナはなにかを思い出すように顎に手を添える。
「フェスティス様は国賓ですから、本人の希望なので接触は最低限にしていますが放置するなど許されません。こちらから必要最低限の物はお渡ししています。もちろん、食料も」
「なるほど……じゃあなんでこの村にあんな要求をしたんだ?」
「推測ですが、フェスティス様は研究を好む方なので新しく作った肥料の実験したかったのではないかと。ですから『一般の村では竜の鱗を手に入れられない』という結果でも、実験の成果として良しとされると思います」
「じゃあ村長たちが過剰に心配してしまっただけか」
「はい。ただ一つ気がかりが」
「なんだ?」
す、と細い人差し指を向けた先には、ぐったりと倒れている麒麟の姿。
「あの麒麟なんですが、本物ではありません」
「え!?」
二度見、三度見、四度見してから俺はヒミナを見つめる。
「本当です。傷は法術で治りましたけど、厳密には生物と言って良いかも分からない、アーティファクツです」
「アーティファクツ?」
「少し前まではオーパーツと呼ばれていたものです」
オーパーツは俺も聞き覚えがある。
たしかout of place artifactsの頭文字で、場違いな工芸品という意味だ。
本来その時代や場所には存在し得ないはずの技術による品が見つかった時に使われる言葉だったはず。
「最近では神話の時代に高度魔法文明があったとされ、場違いではないとのことからアーティファクツと言われるようになったものの一つかと」
「じゃああの麒麟は──いやアレは」
「麒麟を模したアーティファクツです。皮を剥げば金属の骨格や歯車などがあるかと思います。ただ、おそらくあれは自律式で魔法も行使する高度なアーティファクツです。損傷のリスクがあることはあまりしたくありません」
「マジか……いや少なくとも生き物にしか見えなかったんだが」
「目を良く見ると中の歯車が見えますよ」
「うわ、ホントだスッゲー!」
行動早いねアギくん。
俺なんて「じゃあ見てみようかな」って腰を上げかけたところなのに。
ともあれあの反応だと間違いないみたいだ。
「で、気がかりっていうのは?」
「はい。アーティファクツは基本的にその全てが機能を停止しています。例外は稀にありますが、遺跡の外に自発的に出てきた例はありません。ですからアレは誰かが修理したものではないかと思います」
「高度魔法文明時代のアーティファクツを修理? そんなこと出来るのか?」
「常人なら不可能でしょう。ですが、出来そうな人物に心当たりがあります」
「……あ」
そこまで言われて察した。
フェスティスだ。
この辺りに滞在していて、高度な魔法の知識があり、研究者で、遺跡を調査している、とここまでくればほぼ決まりだろう。
となると、気がかりっていうのは。
「せっかく修理したアーティファクツを、俺がぶっ壊しちゃったってことか」
「はい……比較的温厚な方ですけど、研究やその成果には人一倍……いえ五倍くらい情熱を見せる人ですので」
「五倍?」
「はい」
五倍か。
そりゃあ……怒るだろうなぁ……。
よし。
「黙ってよう」
「トウヤさん!?」
それでいいの!?ってな顔でマリが俺を見上げる。
その視線を俺は真っ向から受け流して。
「いやだって、ほら、事故だし……」
「事故だからこそ、きちんと謝れば許してくれると思います」
フンスと鼻息の荒いマリ。
脳裏によぎるのはジョージ・ワシントンの木の逸話だ。
うっかりやっちゃったのを素直に謝って正直なのは偉いぞって褒められるってアレだ。
確かに正直は美徳だ。
しかし世の中バカ正直という言葉もあってだ。
「でもさ、わざわざ怒らせることもなくね? 言わなきゃバレないって!」
へーきへーきと笑うアギ。
むっとしてマリが鋭い視線を向けるが、悪びれる様子もなく俺と肩を組む。
あー……うん。
「分かった、正直に話そう」
「なんでだよ!?」
裏切られた!って顔で俺を見るアギ。
なんでもなにも!
今の! お前が!
すっとぼけるも実は相手がお見通しで失敗するフラグがビンビンに立っているようにしか見えないからだよぉ!
と、言ったところで通じないと思うので。
「おじさん思いました。少しばかり君たちを甘やかしすぎたかな、と」
「えっ」
「……」
君たち、と言ったのを聞いてアギが俺とマリの顔を交互に見る。
言われるなら自分で、マリが甘やかされているなんてことはないと思っていたのだろう。
「故に! 今後の食事は味よりも栄養面を考慮していきます! それと正直に言うことでどうなるか、そしてそんな時はどうするべきか、保護者として見せておくべきだと判断しました! だからアギ!」
「お、おう?」
「マリ!」
「はい」
「正直に言うことが正解、ということではなく、今回は正直に言う方がリスクが少ないと判断したからそうする。それを踏まえて、明日の俺を教師とするか反面教師とするかは自分で決めること!」
「「はい!」」
うん、良い返事だ。
これは食事中にもちょっと思っていたことだ。
それはカロリー過多なメニューばかりなことを反省すると共に、アギとマリの将来に俺は大きく影響を与えているのだと自覚したことに由来する。
成長期である二人は少し食べ過ぎなくらいでちょうど良いとは思う。
けどそれで肥満になったり過食症やら胃下垂やらになっては申し訳ない。
同時に二人は元の世界でなら義務教育を受けているような年齢だ。
自分の少年時代と比べてしっかりしているように思えるが、それでも教育が不要であるはずもない。
教員免許があるわけでもないが、これでも30年ほど先輩であり、この世界にはない教育を受けた身だ。
ある程度のことはしてあげられるはず。
いつか俺と離れ離れになった時に、なにも出来ず野垂れ死にました、なんてことになったら寝覚めが悪いし。
「さて、フェスティスさんには正直に言って相手の出方次第として、あとはケンタウロスを傷つけたくない理由かな」




