二十七日目-1 旅は道連れ
26日目
本日のお客様はなんと二人!
それも一般人!
どちらもヒミナと同じくらいの女の子!
……はい、まあ、まともな料金は頂きませんでした(良心)
しかし無賃というわけではなく、ちゃんと色々頂いたりはした。
だから客なのである。
なんか厄介事の気配がしたり巻き込まれてるような気がしなくもないけれど、それはそれこれはこれ。
この調子で顧客数を伸ばしていきたい。
うららかな昼下がり。
エルヴェイン山脈を右手に見ながら、俺はクラウンで街道を走っていた。
助手席ではアギとマリが暇つぶし用に出した漫画を読んでいる。
後部座席ではヒミナが景色を見ながら時折なにかメモをしていた。
こういう異世界だと紙は貴重品だったりするケースがあるが、この世界は違うのだろうか。
ちょっと疑問に思ったが、思いっきり紙媒体の漫画をアギとマリに渡しているあたり「お前が言うな」感は認めざるを得ない。
そんなわけで車内は静かだった。
なにせ海までは遠い。
すごく遠い。
だって聖皇神国ってば海無し国なんだもの。
北西方面を魔王領、北東方面を真正聖皇国、西をエルランディア、南をオクトルフに阻まれており海に接していない。
だというのにカーナビを見る限りここはまだ聖皇神国内だ。
オクトルフとの国境すらまだ越えていない。
当初考えていたよりも海はかなり遠かった。
「ん?」
だから俺の疑問の声は目立ち、とりわけ好奇心旺盛なアギは即座に食いついた。
「なになに、ドラゴン!?」
「アギくん、物騒なことを言わない」
竜に拉致されるなんて二度と御免だ。
「ほら、道の先だよ」
「……子供?」
アギがいうとお前も子供だろと言いたくなるが、確かに子供だった。
大きな風呂敷のような包みを背負った子供と、その荷物を後ろから支えている子供がそれぞれ一人。
子供には不釣り合いな荷物の大きさと、周囲に大人がいないことが気になった。
俺は車の速度を緩めて、驚かせないように気をつけつつ子供の横に出て窓を開ける。
「こんにちは、お二人さん」
「!?」
「こんにちは」
声を掛けると荷物を持っていた子がびくっと体を強張らせ、後ろから支えていた子が挨拶を返してくる。
後ろの子はだいぶ肝が座っているのか、動じた様子がまったくない。
多少は驚かれると思っていたから意外だ。
「そんな大きい荷物を持ってどうしたのかな?」
「あ、あの、えっと!」
「領主様への納税品。急いで村に持っていかないと怒られる」
「……です!」
動じない子が淡々と言った後に荷物を持っている子もコクコクと頷いて同意する。
「村……ね」
カーナビを確認すると、最寄りの村まで結構な距離があった。
車ならすぐに着くだろうが、子供が荷物を持った足だとかなり時間が掛かるだろう。
子供二人では危険だ。
「良ければ乗っていくかい?」
「「良いんですか?」」
異口同音の反応。
だがその内の一つは車内からだった。
ヒミナである。
「あれ、駄目だった?」
「いえ……トウヤさんが良いなら、良いですけど」
「?」
なにか言いたげな表情が気になったけど、良いなら良いか。
俺はトランクを開けて荷物を入れてもらうと、二人を後部座席に乗せる。
ヒミナが奥側に寄って、中央に動じない子、ドア側に荷物を持っていた子が座る。
「じゃあシートベルトの説明を──」
と言いかけたところで。
「ごめんなさい、動かないで」
「へ?」
淡々とした子が素早い動きで俺の首にナイフを突きつけていた。
さらに。
「ひゃっはー!」
「獲物じゃー!」
「であえであえー!」
ガサガサと音を立てながら近くの茂みから現れる武装した──おじいちゃんたち。
全員が綺麗に猫背だ。
手に持っているのは鍬やら鋤やら鎌やら、何を思ったのか柄杓を持った人もいる。
どう見ても農民です本当にありがとうございました。
なんだろう、孫の山賊ごっこに付き合ってるのだろうか。
そんなことを本気で考えたりもしたのだが。
「くっくっく、さあ命が惜しければその……なんじゃ? その、馬車っぽい、馬車じゃない、馬車みたいな、それから降りるのじゃ!」
「おとなしく言うことを聞けば命だけは助けてやろう」
「従わぬとちぃとばかり痛い目を見てもらうぞい」
「ひゃっはー!」
一人両手に鎌を持ったじいちゃんがハイテンションだが、それ以外は迫力がない。
むしろ腕がプルプル震えていたりしてこっちが心配になるレベルだ。
「……えーと」
これはどうするべきだろう。
動じない子からナイフを突きつけられているのは穏やかではない。
ないのだが。
乗り物に乗っている時の防御性能はグロウルとの決闘で分かっている。
あの時はルルクに乗っていたわけだが、ヴァーハナが劣っているということもないだろう。
竜の攻撃すら無効化するほどの加護が俺にはあるわけで、多分刺されても平気だ。
心臓がバクバクすることに目を瞑れば、全て無視出来る状況だ。
……えい。
「ほうれ、降りてくれば囮に使った子供も解放してやるぞ?」
「うむ、その子らはわしらが両親を人質にとって命令しているだけの……むぅ!? 動き出したぞ!?」
「ええいさせるものか! 扉を開くのじゃ!」
「あ、開かぬ! なんじゃうちの納屋の鍵より硬いぞ!?」
「お前んちの納屋に鍵なんぞなかろうに見栄を張るな!」
「ばっかあれは硬すぎて開かんから壊っ、いや外したんじゃ! ええいかくなる上は!」
「よさんか! 鍬で叩いては中の子らに──無傷じゃとぅ!?」
「あ、こら、待て、待たんか!」
「ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──……!」
あっという間におじいちゃん山賊団(仮)を後方に置き去りにする。
一方で動じない子が突きつけたナイフは未だにそれ以上動かないままだった。
ちらりとバックミラーで確認してみると、不満そうな顔をしている。
「動かないで、と言ったはず」
「俺は動いてないだろ」
アクセルは踏み込んでいるしハンドルも握っているが、この世界の人間には何をしているか分からないだろうし動いたようにも見えないはずだ。
もちろんそう見えるだけであって、動じない子が本気なら刺されて当然の詭弁でもあるのだが。
「……なるほど」
納得してくれました。
そして隣にいる荷物を持っていた子に振り向いて。
「どうしよう?」
と尋ねる。
しかし聞かれた本人はべったりと一体化しそうな程に窓に顔をくっつけて、おじいちゃん山賊団(仮)の方を見ながら。
「あ……あ……ああああああああ……!?」
と悲痛な声を上げたあと。
「う……あ、あああああああああああああん! あっ、ぅ、ああああああああああああん!」
ぎゃん泣きを始めた。
それはもう、被害者であるはずのこっちが妙な罪悪感を覚えるレベルで泣く。
「ミッシェル、落ち着いて。大丈夫、一応ナイフは突きつけてあるから」
「ええと、そうでなくてもこちらに敵意はないので、落ち着いてください」
「うっ……ぐすっ……うぐ……」
「ひゃっはー!」
「うわあああああああああああああん!」
「アギ!」
「あはははははははははははははは!」
緊張感を失い賑やかになる車内。
いやまあそれは良いのだけど。
アギくん、俺の首にナイフが突きつけられていること忘れてない?
なんで落ち着きそうだった子を驚かせるの?
そして俺はいつまでナイフ突きつけられてれば良いんですかね?
それらの疑問の答えは出ないまま。
結局俺の首からナイフがどかされたのは、最寄りの村に到着した時だった。




