閑話 十日目-二十四日目_営業日誌
9日目
今日はグラッドの街に食料を卸しに行った。
予め近くまではヘリで飛んでいって、途中で降りてダンプカーに変えて大量の米を卸した。
ネットを見ると米10kgで3千円くらいで買えるようだったので、合わせて価格は15共通記念金貨にした。
サンテラのコルネドさんほどではないにしろ、感激された。俺は相場が分かっていないのかもしれない。
余談だが、ラマーナ山に戻ると新種の竜が飛んでいたという話でもちきりになっていた。
話を聞いてみると、どう考えてもヘリのことだった。
飛行系の乗り物はしばらく自重することに決めた。
10日目
なぜだろう、フィッツから捕虜の処遇をどうするべきか相談された。
戦記物だと賠償金と引き換えに解放していたような記憶があったのでそれを言うと、わかりましたという返答。
まって、それだと俺が指示したみたいになるじゃない?
え、なにその笑顔。取らないよ?
どうなっても俺責任取らないからね!?
それとは別に、衛兵のみなさんのご好意で使わなくなった槍を一振り頂戴した。
さっそくヴァーハナをチャリオットに変更し、車体に取り付けられた槍と入れ替えてみる。
しばらくすると錆が浮いていた槍が、チャリオットの車体と同じような虹色の光沢を放つ白銀のものになっていた。
カーナビで確認すると「銘無き神槍」となっていた。つよそう。(小並感)
ただ持ってみると思いの外重かった。
アギが気に入ったようなので、彼の筋トレ用具となる。コレデヨイ。
11日目
シュバルトと言うらしいあの竜騎士が俺に面会希望ということで、怖いけど会いに行った。
すると部屋に入るなり猛烈な勢いで頭を下げられた。
斬首と思っていたところに解放される可能性が高いことを聞き、その理由を聞いたら俺の指示だと分かったから、らしい。
違うからね、俺の指示じゃないからね、ただ提案しただけだからね。
とは思ったものの、都合の良い勘違いだと思ったので黙っておく。
大人は汚い。そして俺は大人だ。イェア。
この借りは必ず返すと言われたので、気にしなくて良いと言っておく。
遠慮を忘れない日本人ですからね俺は。
それからサンテラに来たついでにコルネドさんを通して食料をまた卸した。
だいぶ食料は回るようになったみたいだが、まだまだ全員がお腹いっぱいに食べられるというわけではないらしい。
もっともそもそもからして満腹になるまで食事ができるのは金持ちだけなのだそうだ。
しかしそうは言っても食事は楽しく美味しくいっぱい食べたいものだろう、と俺は思う。
どうにかしてもっと大量の食料を卸せないだろうか。
13日目
朝起きたらなぜかヒミナがいた。今まで忙しかったのが一段落したそうだ。
色々と大変だったことを朝食を作りながら聞いている内に、俺は閃いた。
ヒミナは聖皇女であり、神を降ろせる巫女だ。
奇跡の一つや二つ起こせちゃったりするのではないだろうか。
聞いてみると制限や条件があるものの可能らしい。
なので一つ提案してみる。
ヒミナは快諾してくれた。
これがうまく行けば俺の胸のもやもやが一つ晴れることになる。
ちなみに今日も客はなかった。
けど生徒はいた。
どうもヒミナが俺の料理について尾ひれ背びれをつけて褒めちぎったらしく、教えを請いに来た人たちがいたのだ。
だからまあ知っている料理の中でも簡単で美味しいものをいくつか教えたわけだけども。
はーい、今先生聞いちゃいましたー、今誰か先生のことを「神の舌を持つ者」とかとっても恥ずかしい呼び方をした人がいまーす。
先生怒らないから、言った人は素直に挙手しなさーい。
……全員が手を上げた。
マジかよ。
なんかもう色々と諦めてしまいそうになるが、一応普通の人間だからねとは言っておいた。
絶対分かってない笑顔をみんなが浮かべていた。
16日目
今日は疲れた。MPをギリギリまで使ったからだ。
というのもヒミナから準備が整ったとの連絡を受けて、一大プロジェクトを発動したからだ。
さて、ダンプカー以上の貨物を運ぶ乗り物と言ったら、みなさんはなにを想像するだろうか。
それも可能な限り大量の貨物を乗せられる乗り物。
うん、そうだね。
船だね。
と言うわけで。
ヴァーハナをマースク・トリプルE級に変えた。
──その船は、船というにはあまりに巨大過ぎた。
大きく、でかく、もう出した本人の俺が唖然とするくらいに広大だった。
全長なんと400m、東京タワーよりも大きいのである。
そしてその積載量、20フィートコンテナが1万8千個積載できるのである!
うん! 全然想像つかないよね!?
俺も!
20フィートコンテナってね、高さと幅が大体2m半、長さが6mくらいのサイズだ。
長距離トラックの貨物部分が近いだろうか。
それが、1万8千個!
……やっぱりわけわかんないよね!
コンテナはルルクに《持ち上げ》の魔法で下ろしてもらった。
量が量なので、崩れないように慎重に山積みにする。
これを5回ほど繰り返して、最後にコンテナの開き方を教えて完了だ。
コンテナの中身は米や缶詰を中心とした日持ちする食料。
あとはこれを各街に運送すれば、みんなお腹いっぱい食べられるというわけだ。
陸上に出すから倒れないようにオプションでつけたクレーンが特殊な処理らしくMP10消費したため、積荷含めて消費MPは75。
実験やら自分の生活用やらによる消費MPもあって、今日は初めてMPが枯渇するかもと思うほど消耗した。
ヴァーハナをキャンピングトレーナーに変えたら、風呂に入ってさっさと寝よう。
あ、神官さん、違います、これはヒミナ様の奇跡です、私ではありません。
ヒミナ様を崇めよ。オーケー?
え? あの少女は俺の指示でコンテナを動かしていたように見えた?
ああ、ルルクのことか。
……彼女もまた、ヒミナ様の奇跡の恩恵を受けた少女なのです。
いいね?
17日目
今日は朝から妙に騒がしいと思ったら、国内のワイバーンが全て集合したかららしい。
なんでもこれから各街の運送業者をラマーナ山に呼び寄せるために連絡に奔走してもらうのだそうだ。
うんうん、俺が運んだらサンテラやグラッドの街の人は、俺にあらぬ誤解をしそうだからね。
そこはその土地々々の業者に頑張ってもらう。
そんなことを考えていたら、農業について相談に乗って欲しいとこの前料理を教えた神官さんたちが詰めかけてきた。
なんでもヒミナの(ということにしている)奇跡に頼ってばかりではなく、頼らなくても良いような技術を学びたいのだとか。
素晴らしい精神である。感動的だな。
だが無意味だ。
なぜなら、俺に聞いていーるーかーらー!
知らないよ? なんか俺を万能の人みたいな変な誤解してない?
そういうのは詳しくないと断ろうとしたのだが、なぜか頼み方が足りないのだと誤解され、色々な報酬を提示された。
仕方ないので農業についてスマホでちょろちょろと調べて、それを提案してみる。
びっくりするほど感心された。
無駄かなーと思いつつも俺の知識ではないことを言っておいた。
案の定、彼らはいつもの絶対分かってない笑顔を浮かべていた。
19日目
近くにある街の運送業者たちが集まっていた。
彼らには一番遠くにある街との中間点にまで荷物を運んでもらうらしい。
いわば中継基地だ。
その中継基地となる街へと、例えば最北にあるサンテラの業者が向かい、そこで荷物を受け取って戻る。
そんなリレー形式での運搬をおよそ一ヶ月間継続的に行うことで、国中に食料を行き渡らせる計画だ。
神官たちが慌ただしくコンテナから荷物を運び出し、空になるとルルクが上に積まれた未使用のものと入れ替える。
空になったコンテナは……どうしよう。
とりあえずは脇に置いといてもらって、その内回収するまで好きに使ってもらうことにする。
20日目
今日はなんと! 念願の利用客の予約が入りました! イェーイ!
……うん、依頼主はヒミナなんだ、すまない。
しかし同情とかそういうのではなくて、ある意味では仕事のためだと言う。
なんでもそうするように神託を受けたのだそうだ。
それからグラッドの街への神官運送と竜騎士撃退の報酬を受け取っておくように言われた。
神官の運送料金が共通記念金貨20枚、竜騎士撃退が150枚ですって。
おかしい、本業より副業の方が収入が多い。
これからに期待したい。
21日目
シュバルトたち捕虜が返還されることになった。
ちょっとだけ後ろめたい。
というのも有名人を捕らえたのだからと真正聖王国には賠償金をかなり吹っかけたのだ。
俺の提案で。
そうして賠償金の支払いが確認され、本日解放となるわけだが。
竜とワイバーンは片翼を失いとてもではないが空は飛べない。
つまり俺が感じている後ろめたさは、ジャンク品を新品と称してオークションに出し落札させたようなものだ。
はたして商品が届きジャンク品と分かったら、落札者はどう思うだろうか。
運営にも文句がつけられないとなれば、その怒りは商品にぶつけられるだろう。
せめてもの餞別にシュバルトにはハムと缶詰を詰め合わせセットで渡しておいた。
だから真正聖王国に戻った後にどんな仕打ちをされたとしても、俺を恨まないでください。
口には出さずにお願いしておいた。
23日目
真正聖王国から抗議文が来たとフィッツさんが相談に来た。
えっとね、相談する相手を間違えているよ?
だいたい俺が思いつけることなんて大したことない。
こちらは捕虜の返還の用意があることと、そのための賠償金しか提示していないから、確認しなかったそっちが悪いと言える。
言えるが、ちょっとペテンっぽいのと対外的な体裁というものもあるだろうし。
だから「捕虜を返してくれれば賠償金もお返しする」と返答すれば良いのではないか。
もしこれを飲むなら真正聖王国は金惜しさに自国の兵士を敵国に引き渡すという醜聞が広まる。
賠償金の一部返却も同様だ。
となれば、泣き寝入りするしかない。
一方でこちらはどちらに転んでも、人命に重きを置き相手の意思も尊重して対応していると主張できるし、第三者が見てもそう見えるだろう。
とまあこんなもんである。
これくらいのことはちょっと考えれば誰だって思いつくことで……なんでフィッツさん「それだ!」みたいな顔してるの?
ちょ、ちょっと、俺は責任取らないからね、外交なんてボドゲの交渉くらいしかしたことないんだからね!?




