三日目-5 俺がロリコンじゃなくて良かったな、ロリコンだったら今頃18禁だぞ
高級キャンピングカーは凄い。
何が凄いってシャワールームがあるのだ。
さすがに湯船はなかったけど……いやさすがにないだろって思ってしまったからで、ひょっとしてお風呂も行けるんだろうか?
ともあれ、俺は久々にさっぱりして風呂上がりのコーラを飲んでいた。
着ているのは洋画なんかで見かけるようなガウンだ。クローゼットの中にあったからせっかくなので来ている。
大切なのは雰囲気だ。
なのでコーラもブランデーグラスに入れている。
映画の金持ちがやっているようにゆったりと揺らしてから飲む。
うむ、一割増しくらいで美味しい気がする。
はー、まったり。
一時はどうなることかと思ったけれど、ヴァーハナの性能を理解するとかなり快適だ。
特にこの「最高級キャンピングカー」をイメージして変化した車両は、素晴らしいの一言に尽きる。
車なのに一階と二階があるし、リビング、キッチン、寝室揃って高級ホテルをコンパクトにしたような内装なのだ。
これで衣食住の中で食住はクリア。
衣類に関しても、トラックの応用でいけるかも知れない。
いや、キャンピングカーのクローゼットでいいのか。
食料なんかと違って俺個人のものがあればいいのだから、量は必要ない。
あとは適当に怪しまれない程度に仕事をしていけば平気だろう。
「トウヤさん」
背後からマリの呼ぶ声がして俺は振り向く。
彼女もシャワーを浴びてさっぱりしたことだろう。
「やあマリ、湯加減はどうだっ──ぶふぅっ!?」
コーラを吹き出しそうになってどうにか右手で抑える。
感想でも聞いてみようかな、なんていう思考が一瞬で吹き飛んだ。
マリは全裸だった。
一糸まとわぬ全裸、というやつだ。
まだまだ幼いが、膨らみ始めた胸が仄かに女らしさを漂わせている。
「ど、どうした? 用意しておいた寝巻き、肌に合わなかったか?」
もともと全裸で寝るタイプ、というわけではないだろう。
マリの真っ赤な顔を見ればそれは明白だ。
彼女は俺の言葉にフルフルと首を横に振る。
そしてキッ、と目に力を込め。
スパァン! と両手を床に揃え。
ビシィッ! と頭を下げた。
その姿勢、まさかの土下座である。
1カメ、2カメ、3カメ、ドンドンドーン! みたいなテンポの良さで見事な土下座をしていた。
この時の俺の気持ちを五十文字以内で説明してくれる方、急募。
「……ウェイ?」
混乱した俺の口から謎の言葉が出た。
しかしマリはそれに動じず、頭を下げたまま声を張り上げる。
「いえ、トウヤ様! どうか、どうかこの不束な娘のお願いを聞いてくれませんか!?」
「オーケー分かった。聞くからまず服を着ようか」
「でも私は、差し上げられるものがこの体しかありません」
「えっと、俺は宗教上の理由でね?」
「それは方便かも知れないと神官の方が言っていました」
神官んんん!
なに言っちゃってるのなに見抜いてくれちゃってるの!?
「教会の皆さんの話だと、私は一応子供を産めるとのこと。ですので、問題ありません」
「問題しかありませんが!?」
「わ、私の体では不足でしょうか……?」
「ちがっ……あー、もう」
マリの声が震えているのに気づいて、俺は大きく深呼吸をする。
よし、落ち着いた。
大丈夫、大丈夫だ。
この局面を切り抜けるために、俺の頭は回転を始める。
こんなこともあろうかと、なんてわけでもないのだが、似たようなシチュエーションをラブコメなんかで見る度に「俺ならこうするけどなぁ」と脳内シミュレートしていたのだ。
その成果を見せる時が、ナウ!
「マリ、君の体はとても魅力的だ、自信を持っていい」
「では」
「でもね、宗教上の理由というのは本当だし、それ以上に俺は、君の願いを君の肉体と引き換えに叶えるなんて、そんな輩にはなりたくないんだ」
ドヤッ!
俺の脳内シミュレートではこれで100%納得してくれる説得だ!
声色も完璧! 声優ものまねとか練習していて良かった!
これなら納得して彼女も服を着てくれるはず!
「でも、それでは私の気持ちが済まないんです!」
あるぇ?
納得してくれない雰囲気。
ホワイ?
と、とにかく落ち着け俺。
俺はロリコンでもペドフィリアでもない。
申し訳ないけど、マリの裸で催すことはないのだ。
ゆっくりと彼女の説得していこう。
「じゃあ、まずはその話は一度脇に置いといて。お願いっていうのは?」
「はい……商人組合でご存知でしょうが、今この街は食料不足に陥っています。それもかなり深刻で、餓死者が出始めています」
「餓死者!?」
思ったよりずっと深刻だった。
「私達教会の人間も、真面目に口減らしが検討されています。今だって志願者がいれば、それを止める神官はいないほどです。ですから……お願いです! 可能な限りの食料を、商人組合に売っていただけないでしょうか!」
それは必死の訴えだった。
まだ中学生にもなっていない年頃の女の子が見せるとは想像だにしない、悲壮感すら漂わせた言葉。
うん、この街の状況を俺が理解していなかったことは分かった。
しかし、それにしてもだ。
「それは……食料は元々売るつもりではあったし。でもなんでそれがここまでしてお願いすることになるんだい?」
商人組合でも言ったように、元々俺は食料を販売するつもりだったのだ。
その量を増やすくらい、ちょっとした予定の修正に過ぎない。
なのになぜ、こんな年齢不相応な覚悟でマリがお願いすることになるのか。
そのことに、恐る恐ると言った様子でマリが答える。
「……トウヤ様は、この神器の能力を出来るだけ秘匿したいようでしたので。しかし一般的な量の販売では、この食糧難はとても……」
あー、昼間の口封じ、っていうか口止めの件か!
バーベキューやアイスなんかでマリは俺がある程度の食料を確保している、あるいは生み出せると推測した。
神器と言われるくらいだ、この街の食料不足を解消するくらいの量だってあるかも知れない。
けど俺は神器の能力をなるべく周りに知られたくない、という意思表示をあの口止めで示してしまっていた。
だから、マリは「相当なことがなければ食料不足が解消されるほど食料を売ってくれない」と思ってしまったのだ。
……俺の自業自得じゃねーか!
ああもうどうしてこんなことになるかなぁ、後悔で床をごろごろ転がりたい思いだ。
けど今はまずマリの説得が先だ。
「ごめんな、マリ。どうやら君には勘違いさせてしまったみたいだ」
「……?」
「確かに俺はなるべくこの神器の能力を知られたくないと思っている。でも、今日君たちに見せたことからも分かるように『誰にも知られたくない』わけじゃないんだよ」
「それでは……?」
「元々コルネドさんにはかなりの量の食料を売るつもりだったんだ。マリの話を聞いて売る量をもう少し増やそうとは思ったけどね。だから君が何かを代償に支払う必要はない。むしろ教えてくれたことでこっちがお礼をしなきゃいけないくらいだ」
マリの前に跪いて、できるだけそっと頭を撫でてやる。
「だから、君がそんなことをする必要はないんだよ。いいね?」
一瞬ビクッと震えたものの、すぐに安心したのか。
「う……ぇぁ……うああああああああぁぁぁぁ……!」
頭を床につけたまま、泣き出してしまった。
それでも土下座の姿勢のまま動こうとしない。
仕方がないので、風邪を引かないように俺のガウンを上から掛けてやる。
今度は俺がすっぽんぽんだけど、まあ不可抗力だ。
そうしてマリの背中をさすってやること数分。
よほど気が張り詰めていたのか、いつの間にかマリはそのまま寝てしまっていた。
「……終わった?」
ひょっこりと寝間着に着替えたアギが顔を出す。
「アギ。マリは……」
俺が聞こうとしたことを察して、アギは肩を竦めて首を振る。
「今のあれなら独断だぜ。神官たちに命令されたわけじゃねーよ。でもここまでじゃないにしたって、神官たちも嘆願くらいしてくれると嬉しいと思ってたはずだ。マリはその空気を察しちまったんだろうな。こいつ、割と悲観的だからそれがこじれたんじゃねぇかなって」
「じゃあ口減らしというのは」
どんな表情で答えればいいか分からない、と言った調子でアギは苦笑いして。
「オレが知ってるだけでも何人か神官が減ってる。オレら、教会に引き取られた孤児でさ、ホントなら真っ先に口減らしの対象になってるはずなんだけど、神官なんてものになるくらいだし、お人好しが多いんだろうな。他の街への異動ってことになってるけど、本当に異動でいなくなったのは何人なんだか」
「そうか」
思ったよりもハードな事実。
教会のVIP待遇だったから分からなかったけど、この街はまさに最前線だったわけだ。
ああ、もう、本当にヴァーハナをくれたことに感謝するよ、女神様。
魔王軍との戦闘なんてごめんだが、こういうことなら話は別だ。
ここには俺にしか出来ないことがある。
ならそれをやるのに理由はいらない。
「明日は朝一で商人組合に行こう。アギ、マリを運んでくれるか?」
「おうさ」
よいしょっと、と掛け声をあげつつアギはマリを抱きかかえ、ベッドまで運ぶ。
その途中に一度だけ振り返り。
「ところでさ」
「うん?」
「トウヤって、男が好きなわけじゃないよな?」
「普通に女の子が好きだよ。宗教上の理由だ。って、まさかお前?」
なんでそんなことを聞くのかと疑問に思って、すぐに気づいた。
女が駄目なら、もう一方。
「へへへ、もしそうだったなら、って神官たちに暗に言われた」
神官んんんんん!
本当あいつら余計なことしか言わないな!?
だっていうのに俺の中の脳内神官は爽やかな笑顔でサムズアップしてやがる。
犯人見つけたら説教だ! っていうか神職が肉体で籠絡しようとすんな!
「ちなみに、もし俺が『そう』だったらどうしてたんだ?」
「まー、犬に噛まれたとでも思って」
「お前、たくましいな……」
「にしし、んじゃおやすみなさーい」
アギは再びベッドへ向かいマリを寝かせると、その上にあるベッドへよじ登る。
なんか、最後の最後でどっと疲れた。
俺も歯を磨いたら寝よう。
存在を思い出して飲んだコーラは、すっかりぬるくなっていた。




