三日目-4 実験とケーキと口封じ
さて、一通りやっておくべきことは終わった。
後はコルネドに言ったように食料の販売──をする前に実験だ。
俺はまだヴァーハナの仕様とか色々と確認できていない。
彼を知り己を知れば百戦之危うからず、だ。
まずはキャンピングカーを、オプションありで変わるように念じてみる。
ふわっと相変わらずイリュージョンのように車体が変わった。
どれどれと冷蔵庫を開けてみる。
「ベーコンと、カルビと、ロース、ウインナーに、キャベツ人参とうもろこし玉ねぎピーマン、焼きそば……ふむ」
冷凍庫には氷が大量に、さらにクーラーボックスまであり中には酒類にソフトドリンクが詰め込まれていた。
ははぁん……さてはバーベキューだな?
しかしなぜバーベキュー……キャンピングカーだからか?
キャンピングカーだからキャンプ、野外キャンプならバーベキュー、ってことか?
「んで、俺のステータスは……MPが5減ってるな」
次にガスコンロに火を付けてみる。
MPが5減った。
付けたまましばらく放置してみる。
その間にせっかくなので肉を焼いた。
「うまっ!? え、なにこれめっちゃうまい! おかわり!」
「アギ、遠慮ってものを……」
「いや、余ってるから全然構わない。どれにする?」
「この骨付きのやつ!」
「オーケー。マリちゃんは?」
「いえ、私は……」
「食べてくれると俺が助かるんだけど」
「……この、薄いお肉を」
顔を真っ赤にするマリ。可愛い。
とまあそんな感じで二人を巻き込みつつ遅めの昼食にする。
アギは肉ならなんでも美味いようだ。
マリはバランスを取るようにまんべんなく食べる。が、その中でもカルビが好みのようだ。
二人ともいくらでも食べられると言っていたが、焼きそばを作ってジュースを飲むとさすがにいっぱいのようだった。
俺もビールを……いや、実験中なんだった、いかんいかん。
一時間も経って後片付けをしてみたが、MPは減っていなかった。
火をつけるのにMPが5減るが、維持には消費しないようだ。少なくとも一時間は。
続いてキャンピングカーのまま冷蔵庫の中身を変えられるかやってみる。
失敗。
やり方が悪いというより、オプションだけの更新は出来ないみたいだ。
次に一回り大きいキャンピングカーに変えてみる。
冷蔵庫を開ける。
今度は果物ばかりが入っていた。
俺が次はデザートが入っている冷蔵庫がいいなぁと思いながら変えたからかも知れない。
MPはやはり5減っていた。
冷凍庫にはアイス。それもお高いヤツだ。
アギとマリに食べるか聞いてみる。
一口だけ、という返答だったが、甘いものは別腹らしい、小さめのカップだがそれぞれ三つぺろりといった。
アギはバニラ、マリはストロベリーが気に入ったみたいだ。
ふ、チョコの良さが分からないとは、お子様め。
なんてアホなことも考えつつ、またガスコンロの火を付けてみる。
MPが5減る。
一度火を止めて、再点火。
MPが5減っていた。
「オプションの起動で一律MPが5減るのか?」
法則性を考えると、それで間違っていないように思える。
俺はふと思いたちスマホを取り出し、給水車について調べてみる。
2t車や4t車とサイズがあるみたいだ。
まず2t車にしてみる。
次に4t車にしてみる。
どちらも減ったMPは一律5だった。
蛇口を捻って水を出すのには、MPは減らなかった。
車の施設や機能でも燃料を必要とするようなものにはオプションとしてMPが必要なようだ。
最後に一番最初のキャンピングカーに戻るように念じてみる。
するとキャンピングカーは同じものになったが、冷蔵庫の中身は新しいバーベキュー用の材料が詰め込まれていた。
焼き肉のタレからなにから全て新品になっている。
当然というべきかMPは5減っていた。
「ふむ……オプションが呼び出せるのはヴァーハナを変化させた時のみ。どのようなオプションであろうとも一回の起動に一律でMPが5減る。ただし発生するオプションはその乗り物にあっておかしくないもののみ。質量差によるMP減少の増減はなし。過去に使用したオプションを呼び出すことは出来ず、常に最新のオプションが呼び出されMPも減る」
確認したことをスマホのメモに記録しておく。
効率を考えるなら、オプションは使い切ってしまうことが望ましいようだ。
最初のキャンピングカーのように余らせたとしても、その後にMPが節約できるようなことはない。
「しかし……質量差によるMP消費の増減がないって……やばくね?」
2tの水を呼び出すのも、4tの水を呼び出すのも同じMP消費。
これがどれだけチートな効果なのかは、改めて説明するまでもないだろう。
だから、例えば、例えばだ。
スーパーマーケットに商品を搬入するトラック、なんてイメージしながら変化させたなら。
「……おおう」
貨物室を開くと、ひんやりとした空気が流れてくる。
そして所狭しと詰め込まれたダンボールには、色々なイラストやテキストが描かれている。
多種多様な生鮮食品がそこにはあった。
俺は確信する。
こんなんチートやん!
うわ、やばい、鳥肌立った。
これはまずい。間違いなくバランスブレイカーだ。
だってこれはつまり、俺のMPが許す限り食料を生み出せると言うことだ。
一回につき消費するMPは5。
俺のMPの最大値が112だから、連続使用しても22台分いける。
「……女神様ありがとう」
感謝。
いや、下手なチート能力もらうよりもずっとチートだ。
これで俺の生活は安泰だ。
しかし浮かれてはいけない。
チートな能力があるからと言って、幸せが舞い込むとは限らないのだ。
そのことを俺は数々の物語から知っている。ありがとうラノベ。
つまりなにが言いたいかと言うと、この能力はおおっぴらにしない方が良い、ということだ。
世の中頭のおかしいやつは山ほどいる。
俺にしか扱えない、俺だけの能力なのに、「殺してでも奪い取る!」と考えるやつがいてもおかしくない。
いや、いなきゃおかしいとすら言える。
サンテラではヴァーハナをクラウンの姿で見せすぎた。
しかし幸いなのは、ほぼほぼクラウンの姿でしか見せていない。
食料を事実上ほぼ無尽蔵に生み出せること。
このことだけは、なにがあってもバレてはいけない。
「トウヤさん?」
「んま”っ!?」
驚きすぎて変な声が出た。
出来る限り自然に振り向くと、マリが俺を見上げていた。
「どうかされたのですか? しばらく立ち尽くしていましたが」
「い、いや、なんでもない。ちょっと考え事をしていただけで」
言いながら顔から血の気が失せる。
いた。
見せた。
見せてしまっていた。
アギとマリ。
二人には、俺が食料を無尽蔵に出せるかも知れないと、想像できるだけの光景を見せてしまった。
特にアギは楽しそうに今日の様子を周囲に話すだろう。
教会の人間はシャールから俺のことを聞いている。
ヴァーハナにどれほどの力があるか、過大評価している可能性がある。
そんな中で話を聞いたら。
…………。
「あ、あの、トウヤさん?」
黙り込んだ俺を気遣わしげに見るマリ。
彼女を、彼女とアギに、今日のことを秘密にさせるにはどうしたらいいか。
口封じ。
そう、口封じだ。
「え、あの、トウヤさん? いったいなにがっ」
俺は無言でマリの手を握り、運転席の方へと戻る。
それからヴァーハナをキャンピングカーに変える。
今日寝るための超高級なやつだ。内装なんかちょっとしたホテルレベルのもので、ベッドなんかもある。
外に出ていたアギを手招きする。
またなにかあると思ったのだろう、アギは目をキラキラさせながら車内に入る。
「はい、二人に重大なお話があります」
すると二人は顔を見合わせると、背筋をピンと伸ばして姿勢を正す。
ふふふ、良い子だ。実に良い子たちだ。
俺は邪悪な笑みを浮かべつつ、皿を二つ取り出す。
「ですが、その前にこれ、食べていいよ」
ちらり、とお互いの視線を交わす二人。
やや躊躇う間があって、先にソレを口にしたのはアギだった。
思い切りよく口を開き、食べる。
そして、動きが、止まる。
まるで時間が停止したように。
「アギ……?」
どこか怯えた表情で名を呼ぶマリ。
しかしアギはそれに答えない。
答えられない。
ただ、ただプルプルと震え始め、体をくの字に曲げると。
「う……っまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!?」
叫んだ。
叫んで残るケーキを貪るようにくらい尽くす。
まるで獣のような勢いにマリが俺を見つめる。
「な、なにを……?」
「うん。俺が想像できる限り最高のお菓子。たぶんそれを作れるのはこの世界に俺一人だけ。ほら、マリも」
「……」
こくん、とマリが唾を飲み込むのが分かった。
恐る恐るケーキにフォークを突き刺し、口に入れる。
「──ッ!? !? !?!?!?!?!?」
目が白黒するとはこのことだろう。
驚き過ぎて混乱した様子だったマリは、直後に下品にならないギリギリの速度でケーキを食べ続ける。
「さて、じゃあ本題。今日、君たち二人の前でヴァーハナの能力を色々使ったわけだけど」
「誰にも言わねぇです!」
言いかけたところで割り込むように勢い込んでアギが答える。
見ると食べてる途中のマリもコクコクコクコクコクと何度も頷いていた。
え、あれ?
「理由とか聞かなくて大丈夫?」
「もともと教会の人からは『疑われたくないから情報収集するな』って言われてたし、っつーかこんなにうまいもん食わせてもらってトウヤのお願いならオレなんだって聞くぜ!」
「(コクコクコクコクコク)」
……あっれー?
このケーキをもう一度食べたければ言うことを聞くのだーとか。
そのケーキには実は魔法の毒がーとか。
色々と考えてたんだけど、いらない感じ?
あ、そう。
追撃のチョコレートとジュースもあるんだけど、あ、食べる? うん、はい。
「それじゃ、今日はここで寝ることにしようと思うけど、宿に戻らなくていいかな」
「全然ヘーキ!」
「(コクコクコクコクコク)」
なんか拍子抜けしたけど、まあ円満解決みたいで良かった。
ホッと一息つきつつ、俺もケーキを食べてみる。
うん。
スポンジはふわっと軽く溶けるようで、クリームはコクがあるのにべったりしていない。挟み込まれたフルーツは小さいサイコロ状にカットされているけど、食感と味がしっかり分かる。
あー、これうまいわ。フルーツが単体でもいいレベルで美味いのに、クリームと相性が良い。
かつて一度だけネットで画像を見たことがあるパティシエコンテストの優勝作品と一緒に紅茶を飲みつつ、俺たちはまったりとした午後を過ごした。




