第62話「ユニクとアールのお宝(珍獣)捜索記⑤」
「ヴィィィィギル!」
「かはっ……!」
……あーとっ!!
巨大隕石を両手に装備したアホタヌキが、天高く跳躍ぅ!!
どうやらここでトドメを指すようだぁー!
「《ヴィギルア!ヴィメット!ヴィルヴィー!》」
まずは、巨大隕石を満身創痍でくたびれているトロイアへ投擲ッ!!
一個目の隕石は絶妙な動きで回避され……、時間差で投げられていた二個目が着弾ッッ!!
そのまま地面に叩きつけられ、隕石と一緒に僅かに撥ねる!!
「ヴィ!ギルギルギルギルッ!」
そこへ、アホタヌキが流星の如くぅ、突・進ッ!
マシンガンのように繰り出される殴打の嵐が、隕石とトロイアを諸共に粉砕だぁぁ!!
「《ヴィッギル!!》」
っと、ここで粉砕された隕石が風に乗り、なぜか渦を巻き始めたぞ!?
轟音を巻き知らしながら形成されていくのは……、茶釜?
隕石鉄で出来た茶釜に閉じ込められたトロイアは万事急須……、じゃなかった万事休す!
なにせ、アホタヌキの青白く光っている腕は超超高温に熱された融解鉄のようだ!
あんなもんで殴られた日にゃ、一瞬で燻されて『炒り茶じゃない?タヌキ』になっちゃうぞ!!
「勝負あったし止めに入るか。そろそろ実況も飽きたし」
「それはどうかな?」
「……なに?」
これは高速で展開されている戦闘だ。
たった1秒の差で乱入するタイミングを見失う。
アホタヌキは既に攻撃モーションに入り、疾走も加速している。
無理やり乱入する事も出来なくもないが……?
いや、何で俺はタヌキを助けようとしてるんだ?
「……あれ?」
「あぁ、この森には白銀比の娘の結界が有ってな、異種族同士の争いが非常にしにくくなってんだ」
「ん?そういえば、そんな事を聞いた気がする」
「だが、それは神の理……、つまり魔法を用いた精神汚染であり、超越者には効きづらい。意識さえできれば撥ね退ける事は簡単だ」
「あぁ、だからレラさんとボスタヌキは戦ったのか」
なるほど、確かに意識してみると違和感がある。
超越者には効きづらい……っていうんなら、リリンと大魔王陛下は影響を受けているのか。
一方、英雄見習いであり認識阻害のエキスパートなワルトや同じ白銀比の娘であるサーティーズさんは影響が軽微?
ホロビノとレラさんは間違いなく影響無効化、冥王竜やキングフェニクスは……あ。もう間に合いそうにないなー。
「《ヴィーギル・ルーン!!》」
アールが振り被った両腕が、直視困難の程の光りを放った。
その動きに追従するは……次元の壁に穿たれた二条の亀裂。
有ろう事か、アールは次元の壁を破壊しながら漆黒の茶釜に突撃し――。
「あ、これは流石にしん……ッ!?」
「ようやくか。アイツ、本格的に生命の危機にならないと実力を出せないんだよなー」
ゴゴゥン、っという鉄を打つ音が、茶釜から響いた。
それは……、いや、それらは内側と外側、その両方から響いている。
「ヴィギルア!?」
「ふっざけんなよ、ソドムぅ……」
殴られた衝撃で崩壊していく隕石鉄の茶釜、その中から現れたのは……、俺の記憶の中にある、旧型のエゼキエルだ。
「俺の帝王光輝を勝手に改造しやがって……、赦さん、絶対に赦さんぞ……」
ギュゴォっと両腕のアームを打ちならし、漆黒の魔導巨人が屹立する。
それは……、ある意味で特殊仕様。
太く逞しいアームの先端は尖り、小型ペンチ状に変化。
腰には幾つもの拡張パーツ、ドリルやレンチ、溶接バーナーに電動ノコギリがぶら下がっている。
そして、胸で輝くは、年季の入った看板『メンテナンス作業用・8号機』。
「……。一応残ってたんだな、トロイアの帝王枢機」
「直ぐに召喚できなかったのは、模型にパスが繋がっていたのと、機体の構成が変わってたからだろうな」
「ちなみに効くが、クソタヌキが帝王枢機をどうこうする権利を持ってるのか?」
「帝王枢機の管理者はムーだ。なお、ソドムは尻に敷かれてるから、意見は言えても無理強いは出来ん」
尻に敷かれてる、だとっ!?
ざまぁねぇな、クソタヌキィ!
……。
…………。
……………それはそうと、クソタヌキ=ソドムってのはタヌキの間でも共通認識なんだな。
「アールのガントレットは万全に育っている。エネルギー吸収を見て対策したっぽいな」
「一方、トロイアのエゼキエルはメンテナンス用、燃費を上げる為に紙装甲にされてるし、武器の一つもないと来た」
「電動ノコギリがあるだ……、ガントレットと互角に打ちあって……、あ、割れた」
「工具ってのは、用途以外の使い方をするとすぐに壊れるからなー、どっこいしょ」
どっしりと構えていたバビロンが、おもむろに地面に手を突っ込んだ。
ビキビキと軋む地面、ぐらりと揺れる大地。
そうして取り出されたのは……、黄金に輝く全身鎧。
「ん、なっ……!」
「俺の悪喰=イーターは戦闘特化でなぁ。ソドムの真理究明や、ゴモラの創造ほど物づくりには向いてねぇ、どうしても時間が掛っちまう」
「てっ、めぇ、密かに準備してやがったのか」
「当然だろ。神殺しとステゴロで戦うなんざ、馬鹿のやる事だ」
よし、とりあえず蹴り飛ばそう。
そう思ったのは、一瞬前。
今は、『全力で迎撃しなけりゃ俺がやられる』。だ。
「そろそろやろうぜ、ユニクルフィン」
叩きつけられた拳をグラムで撃墜し、距離を取る。
真正面に構えた刃、その切っ先で黄金タヌキが拳を構えている。
「一応聞くが、拒否権は?」
「ねぇよ」
今更になって日和ってしまうのは、サチナの結界の影響か?
肝心な所で邪魔になりそうだし、壊しておこう。
「《魔力破壊》」
俺の身体に入ってきた影響へ魔力と通し、破壊。
これで精神への干渉を押さえられるはず。
……あ、タヌキへの殺意が漲ってきた。
「《破壊への恩寵》」
周囲一帯の破壊値数を理解し、目の前のタヌキと比較する。
当然だというように、黄金色の鎧はあっちのエゼキエルとは比べ物にならない程に厚く硬い。
だが、俺が最も気になったのは、バビロンの素肌。
コイツ……、皇種であるラグナガルムよりも屈強な肉体してやがる。
「慣らしながら行くぞ。《タヌキ舞踏・獅子舞》」
バビロンが踏み込んだ地面が爆ぜ、十個の岩が形成される。
そして、それら全てを俺に向かって蹴飛ばし、それを足場にしてバビロンが駆け抜けた。
高速で飛来する岩石の表面には魔法陣。
ぱっと見た感じ七重の防御魔法が掛っている。
「《重圧崩壊切》」
まずするべきは、壊せるかどうかの確認だ。
防御魔法ですら一方的に破壊できるグラムだが、破壊するのに時間が掛る。
だからここで言う『壊す』とは、俺が求めた時間以下での破壊。
そして……、この力に任せた切り方では不的確だった。
「硬ぇ、唯の防御魔法じゃねぇな」
「物理、魔法、その両方の耐性を交互に織り込んでる。気付いてんだろ?」
「まぁな、それでこそタヌキ帝王って思ってた所だよ」
****************
「……はぁん?工具が置き引きされた、だってぇ?」
泣きべそを掻きながら報告に来たハカセチーフ・タヌキへ、不快感を露わにした怒気が飛ぶ。
眉を潜めながら持っていたフォークをハカセチーフ・タヌキへ向けているのは、タヌキ帝王第三席次・ムー。
この『ラボラトリー・ムー』の管理責任者であり、那由他から英雄クラスの武器・武装の全権を任されている、タヌキ軍事の責任者でもある。
「僕が工具の扱いにうるさいのは知ってるよねぇ?チーフなんだからさぁ」
「……。ヴぃ……」
「パクる方にも問題があるけどさ、パクられる方も問題なわけ。工具ったって神製金属使ってるんだよ、分かるよねぇ、チーフなんだからさぁ」
ムーは決して、このタヌキが嫌いなのではない。
どちらかと言えば好意的であり、その実力を知っているからこそ、主任にも任命している。
だが、不運な事にムーの感情は昂ぶっており、業務も忙しい局面だった。
「道具の管理がちゃんと出来ていないのは感心しないわね。これが医療現場だったら懲戒解雇もあり得る話よ」
「ヴぃッ!?」
ムーと食事を摂りながら構想を話し合っていたカミナが、話に参戦した。
もっとも、どちらかと言えば涙目になっているタヌキの味方。
だからこそ、懲戒解雇などという重い罰を先に提示する事で、その選択肢を削ぎに掛っている。
「ねー、イリオスさー。キミにゴモラっちの新型機の管理責任者になって貰おうと思ってた矢先に、失態とかさぁ」
「ヴぃ!?ヴィィ……」
ムーが言った内容は事実であり、それゆえに失態を見過ごすなどできない。
現在、ラボラトリー・ムーでは盆と正月とクリスマスと花見、夏祭りにひな祭り、ハロウィーンに十五夜月見が一度に来たようなお祭り騒ぎになっている。
・新型エゼキエル、大破
・ラボラトリー・ムー、第三原材料庫、大破
・カミナによる、新機軸構想
・原材料、枯渇
・アップルルーン、大破
・チェルブクリーヴ、及び、天穹空母の考察
・造物主による新機軸・原材料加工構想
これらが一度に発生するという未曾有の大混乱、そんな最中に起こった内輪揉めに寛大になれる程、ムーの性格は穏やかでは無い。
「んー、でも変じゃないかしら?」
「なにが?」
「だって、スタッフには工具一式を配ってるんでしょ?」
「当然じゃん」
「盗むには動機が足りなくないかしら?」
「自分のが壊れた……からってのは考えにくいか。それこそ、ぶっ壊れた工具を直せないような無能はここに居ないし」
ラボラトリー・ムーに在籍できるタヌキは、ムーのお眼鏡に叶ったタヌキだけだ。
ここに辿りつく入口こそ、在籍しているハカセ・タヌキの推薦という簡易なものだが、働く為には必ずムーの承認が必要。
それは、生半可な気持ちの奴がいても迷惑なだけだという、ムーの情熱から来るポリシーだ。
「いつ、どこで、何が盗まれたのか、詳細を話してくれないかしら?」
「ヴィ……」
「お前が几帳面な性格で、紛失はありえないってのは分かってんだよ、イリオス。おら、何処でパクられたのか、さっさと吐け」
どうせ、忙しく動きまわっていた部下が工具を取り違えたとかいう、しょーもない話だろ。
そんなん、いちいち謝りに来る前に部下を締め上げて吐かせろよ。
そんな視線でイリオスの出方を窺っていたムーは、話を聞いて唖然とした。
「……こ、こう、工具一式を、全部、盗まれました……。エゼキエルごと」
「はぁん?」
「魔法陣が出て来て、ぱぁぁ……、って、も、もうしわ、もうしわけ……、ありま、ひっひっく、ぐす」
イリオスはムーに憧れている。
遥か昔、親戚のお兄ちゃんがエゼキエルに乗って故郷の村を救った。
その時の衝撃が忘れられず、自分もそうなりたいと思ってタヌキ帝王への道に進もうと決意。
だが、イリオスには全くと言って良い程、戦いのセンスが無かった。
「昼食を食べようと思って食堂に行って、窓から見たら光ってて……、部下が、「なんか召喚されてったけど、なんのテストなん?」って」
「ムー、私は工具の取り違いを疑っていたんだけど、可能性は薄いわよね。……ムー?」
沈黙に疑問を感じたカミナが横を向くと、そこで真剣な顔のムーが端末を操作していた。
そして、眉をハの字に曲げて小さく「模型が……」っと声を漏らし、イリオスへ視線を向ける。
「あー。イリオスっちのエゼキエルってさー、エゼキエルブースト=トロイアの改修機だっけ」
「ヴぃあん……」
「はぁ。この忙しい時に、まだ仕事が増えんのか。イリオスっち、やっぱアップルルーンの責任者から外すわ」
「ヴぃ!?ヴィア……」
「20匹のチームで、カミナっちが考案した新機軸機体を試作して貰うから。あと、白兵戦用の装備一式も宜しく」
「ヴぃ!?え、はい!?」
帝王枢機の新型機設計は、数十年から数百年に一度のビックイベントだ。
基本的に、帝王枢機はタヌキ帝王の個性に合わせたオンリーワン機体であり、長き年月を掛けて育てる物である。
故に、新しいタヌキ帝王が誕生した時にしか新型機設計は発生せず、その時も大抵の場合はムーが創ってしまう事が殆どだ。
なお、アヴァロンがタヌキ帝王になった時は数百年ぶりの新型機構想であり、ムーもそれなりに熱を入れて準備をしていた。
だが、「そんなもんに頼るとは底が知れてるなぁ、ソドム!ぐわははは!!」という、空気が読めなかった照れ隠しのせいでお蔵入りしている。
そんな訳で、新型機の製造設計を担えるというのは、かなりの恩賞だったりする。
「カミナっち、ちょっと出掛けよー」
「いいけど、何処に行くの?」
「山へ、ならず者を、シバきに」
「まったく意味が分からないけど、犯人がそこにいるというのは分かったわ」
「詳細は悪喰=イーターで見れるよ、あ、パスは11425142106で」
悪喰=イーターには、タヌキが習得した情報が保存されている。
その情報源は全てのタヌキが対象ではあるが、映像として保存されるのはタヌキ帝王と、その影響を受けているタヌキが見た光景だ。
それらを素早く検索し、導きだした答えこそ、映像管理ナンバー『11425142106』。
最近のトレンドNO1タヌキ、アルカディアが見た映像だ。
「……。あ、私のエゼキエル!!!!!!」
「……。何でいつもタヌキと戯れてるの!?ユニクルフィンくん!?!?」




