第61話「ユニクとアールのお宝(珍獣)捜索記④」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ!!ごぶぅツッッ!!」
「ヴィ!ギルギルギルギルギルッ!!」
……あ。
うっきうきで召喚した帝王枢機の模型をバッキバキに踏み潰されたトロイアが、ボッコボコに殴られた。
無慈悲。そう、あまりにも無慈悲な光景だ。
鋼鉄の拳を容赦なく叩きつけるタヌキの名前はアール。
ついに妖怪を卒業し、悪鬼羅刹と化している。
「……。」
「……。」
バビロンと対峙している俺だが、タヌキVSタヌキが気になってしょうがない。
もう既に決め台詞を吐き、抜き身のグラムだって構えちゃいるが、最期の一歩が踏み出せないでいる。
そんな訳で、どうにか冒頭シーンだけでも見学できないかと画策していた所……、バビロンと目が合った。
「……。」
「……。」
だってさ?
タヌキVSタヌキだぞ。
それも、『カツテナイぽんこつタヌキ』VS『ウマミもなければ容赦もないアホタヌキ』だぞ!?
そんなん見るしかないだろッ!!
「……まぁ、戦うのは後でもできるしな?」
「……そうだな。後輩の実力を見るのもタヌキ帝王の務めでもあるし」
互いに言い訳をしつつ、どちらともなく自然に頷く。
そのまま適度な距離を取って地面に座り、なんとなく俺がおにぎりを投げてやると、バビロンは丸くてデカイ果実を投げ返してきた。
こうして暗黙の停戦協定を交わし合った結果、万全の状態でタヌキ観戦と洒落こむぜ!!
「ほー、どうやらアールが先手を取ったようだな」
「うむ、まだ若いだけあって粗削りだが戦い方に華がある。アイツは強くなるぞ」
えー、本日の対戦カートは『自称、最新鋭帝王枢機の使い手・トロイア』と『平然と最新鋭帝王枢機を踏み潰したアホタヌキ、アール』。
実況はわたくし『ユニクルフィン』と、クソタヌキの友『バビロン』がお送りいたします!
「おーと、アール選手の殴打が止まらないっ!!マウントを取っての殴打、殴打、殴打ァ!!」
「トロイアは防ぐので精一杯って感じだな。アイツ、近接戦に弱いんだよなー」
「レーザー兵器とか、見るからに遠距離武器だしな」
「俺はゴモラさんを守る為に前に出る!とか言って無理やり剣の形にしてるが、アレのベースって魔王の脊椎尾なんだよ」
「そうなのか。じゃあ……」
場合によっては、リリンの尻尾の先端に馬鹿デカイ光の剣が装填される訳だ?
魔王化が留まる所を知らな過ぎる。
「ところでさ、この果物?野菜?見たこと無いんだけど」
「カンタロープを知らないだと?」
「カンタロープっていうのか、この緑色」
現実逃避と友好を兼ねて、投げ渡された果実?について聞いてみた。
ぱっと見た感じメロンっぽいが、スイカみたいな模様がある。
俺の予想が正しければ、これはコイツの好物のはずだ。
唐突にベアトリクスが出て来て錯乱したが、落ち着いて考えてみると、バビロンと戦うメリットが全く無い。
というか、万全の状態でベアトリクスと命のやりとりをする為に、体力を残しておきたいのが本音だ。
「んー、メロンっぽい匂いがするな」
「メロンといえばメロンだしな。まぁ、カンタロープの果肉は赤いんだが」
「おぉ?あー、一回だけ食った事あるかも。高級食材だった気がするんだが、貰っちまっていいのか?」
「構わん。が、この握り飯をもっと分けてくれないか?久しぶりに食う米が一個じゃ味気なくてなぁ」
流石はクソタヌキと同格、威風堂々と飯の要求をしてきやがった。
だが、物々交換を申し出てくるあたり、常識と礼節を弁えているようだ。
「10個で足りるか?」
「足りんが、これ以上の我儘は言うまいよ」
「じゃ、これも食うか?」
トロイアやアールですら、おにぎりを20個以上も食っている。
当然、アイツらよりも体がでかいバビロンはもっと食う筈だが……、残念な事に、おにぎりの残量が尽きかけている。
ここで全部出しちまうと、魔王様が「むぅぅ、ユニク。おにぎりが欲しい~~」と近づいて来た場合に噛みつかれるので却下。
その代わり、小腹が空いた時用の菓子パンを取り出す。
「カンタロープを何個か分けてくれるなら、パンも付けるぞ?」
「よかろう。ほれ」
おにぎり10個+菓子パン20個で、高級メロン5玉と交換か。
金銭価値的には余裕で俺の勝ちだぜ!!
「3つはリリン達と食う用、1つは政治(傀儡)をロイに教えているテトラフィーアに、最期の一つはベアトリクスにだな」
「あぁ、あのちっこいクマの皇か」
「そうそう。アイツは甘い物に目が無いからなー」
「美味いぞ、カンタロープは。どれ、布教の為にもう一個くれてやる」
「さんきゅー。ちなみに、ベアトリクスを見たのって?」
「今日の朝だな」
朝に居たんなら、まだ遠くに移動していないはず。
アイツは、完全に幼女な見た目なのに夜行性だ。
「あっ、そのおにぎりは袋で包んであって……、って教えるまでもなかったか」
「悪喰=イーターには、古今東西、あらゆる食に関する知識が詰まっている。調べればすぐに分かるぞ」
おにぎりを喰い始めたバビロンと駄弁りつつ、俺もおにぎりをパクリ。
具材は、ベーコンマヨネーズコーンハンバーグ?
この特盛り感、考案者はリリンだな。
「にしてもエゲツナイなアール。馬乗りでマウントを取ってやがる」
「あんなに可愛くて若い雌なんだし、アイツも本望だろ」
「うん?なんとなく察してはいたんだけさ、アールって美形なのか?」
「オスタヌキ将軍なら一目見た瞬間に心を撃ち抜かれ、全力で番いを申し込んでくるだろう」
「なんでタヌキ将軍限定?」
「一般のタヌキから見たら高根の花すぎる。アイドル的な?」
「ちなみに、お前は?」
「まぁ、機会があるなら……って所だな。正直、寿命が無いタヌキ帝王は、愛とか恋とかどうでも良いって奴ばっかりだ」
どっしり構えているバビロン、その百戦錬磨感が半端じゃない。
既に超越者になっている俺にも、たぶん、寿命とか無い。
大抵の超越者は種族の平均寿命よりも長く生きているし、人間だけ例外って事もないはず。
まぁ、寿命を全うする英雄は滅多にいないって親父が言っていたけど……、何が言いたいのかっていうと、童貞英雄な俺は、まだ枯れていない。
「おっ!トロイアの奴、脱出しやがった!!」
「アイツの逃げ足の速さは故事成語になるレベルだ」
「仮にもタヌキ帝王の特技が逃げ足って、それでいいのか?」
「下っ端だからな。なお、雑に扱っても生き残るせいでソドムやゴモラ、エデンやインティマヤに扱き使われてる」
凄まじい殴打の嵐を必死こいて裁いていたトロイアが、僅かな隙を突いて巴投げを繰り出した。
そしてそのままマウントを取り返そうとして……、アールの右ストレートがトロイアの顔面にめり込んだァァァ!!
「……アホタヌキ、強い」
「なるほど?あの動きはソドムのスパルタ訓練+トウゲンキョウか」
「トウゲンキョウ?それって……?」
「エデンやインティマヤと同世代のタヌキだ。どっかで隠居してる」
トウゲンキョウって確か、アルカディアさんの故郷にいるタヌキなんだっけ?
ソドムに魔法を教えた師匠的ポジション、当然、バビロンとも顔見知りか。
「そのタヌキってさ、ソドムの師匠なんだろ?どんな奴なんだ?」
「トウゲンキョウはタヌキ帝王第二席次、那由他様の懐刀だった男だ」
「想像の10倍、すげぇ奴だった……」
「俺も含めて、第二世代タヌキはみんな世話になった人格者でなぁ。ちなみにくっそ強い」
うん、知ってた。
つーか、タヌキ帝王を何匹も育ててるんなら、もはやレジェンドタヌキだろ。
……で、お前はそんなタヌキの元で育ったのか、アール。
現時点でアヴァロンよりも強そうだし、タヌキ帝王教育が施されているっぽい?
今の内から仲良くなっておいた方が良さそうだし、アールの好きそうなおにぎりを仕入れておこう。




