第63話「ユニクとアールのお宝(珍獣)捜索記⑥」
「うおぉぉぉ!!《電荷崩壊刃!》」
雷光を纏わせたグラムが空気を切り裂き、直進する。
その切っ先が狙うのは、黄金に包まれたカツテナイタヌキ・バビロン。
「させるか!!《タヌキ大節分ッ!!》」
蹴り離した大地が音を発するよりも速く、次の一歩を踏みしめる。
そんな俺の突撃を迎え撃つは、数千発の豆粒のような隙間の無い殴打だ。
グラムを突き出し、殴打の渦を切り開く。
剣諸共に飲みこまんとするそれを、ただひたすらに切って、斬って、霧になるまで壊し尽くす。
その攻防は一進一退。
だが、数千発の殴打の嵐が過ぎ去っても、俺の身体は一発も貰っちゃいない。
「どうした?タヌキの癖に攻めあぐねてんのか?」
「そのレベルにしちゃ、随分と戦い慣れてやがるな」
一方、バビロンの全身は亀裂だらけだ。
回避せずに攻撃を受けた鎧、その傷の深さは火を見るよりも明らか。
浸透した破壊力によって、肉体にも相当量のダメージが入っている。
「まぁな。伊達に帝王枢機と戦っちゃいねぇよ」
「そうか。だが、俺はまだまだ、これっぽっちも本気を出しちゃいねぇ」
バビロンは、明らかな強がりを荘厳不遜な態度で隠している。
そのふてぶてしさは流石だと思うが……、タヌキが図太い性格をしてるのは、今に始まった事じゃない。
「来いよ」
「そうだな」
重なった剣と両拳、その両者から激しく火花が散った。
すれ違いざまに見たバビロンの黄金手甲は、既にボロボロの状態だ。
一回打ち合う毎に外装の破片が宙を舞い、熱い火花となって世界へと還ってゆく。
「攻撃力も、スピードも俺の方が上。クソタヌキと同格の帝王と聞いて警戒していたが……、こんなもんか」
「ちっ、流石はグラム。硬い」
パキャンという簡素な音を立てて、バビロンの手甲が砕けて落ちた。
何度もグラムの破壊を重ね掛けした事により、ついに耐久値が尽きたようだ。
絶対破壊を持つグラムにとって、原初守護聖界のような単純に防御力が高い魔法よりも、ランクが低い防御魔法の重ね掛けの方が破壊するのに時間が掛る。
前者の場合は一度破壊すれば終わりだが、後者の場合は掛っている魔法の回数分の破壊が必要になるからだ。
「鎧は大したことが無く、頼みの帝王枢機も召喚できない。で、次はどうするんだ?」
「……。」
確かにバビロンの鎧は、そんじょそこらの防具の比ではない強度だ。
だが、神性金属の塊であるエゼキエルや、数百数千の魔道具の効果がインストールされたチェルブクリーブに比べれば圧倒的に劣っている。
それに、帯電状態のような持続性のある破壊ならば、一度の攻撃で複数の防御魔法の破壊が可能だ。
それを調べる為に色々と探りながら戦ってみた結果……、三撃もあれば壊せるようになっている。
「大人しく捕獲されるなら、痛い思いをしなくて済むぞ」
「そうだなぁ。やりづれぇし、それもありだな」
「やりづらい?」
「那由他様のお気に入りって符が張られてちゃ、本気なんか出せねー」
カミジャナイタヌキの符?
何のホラー話……、あっ、加護!
「それって、『儂の獲物に手を出すとは良い度胸じゃの』って加護の事か?」
「時々いるんだよ、那由他様のお気に入り人間」
「全く嬉しくねぇが……、タヌキにも効果があるなんて有能すぎる。って、トロイアには襲われたんだが?」
「アイツは馬鹿だから気付いてないんだろ」
気付いていない、ね?
あのポンコツ具合を見る限りそんな感じがするし、別にいいか。
だが、コイツの行動まで納得するつもりはない。
さっきから、バビロンの発言や行動に一貫性が無さ過ぎる。
好戦的だったり、停戦を受け入れてみたり。
まだ実力を見せてないと怒ったかと思えば、戦いを止めたそうな素振りを見せたり。
いくらサチナの結界があると言っても腑に落ちない……、いや、これはもしかして……?
「なぁ、ちょっと聞きたいんだが」
「俺の口は堅い。それこそ、飯を食う時にしか開かんくらいにだ」
「さっきまで饒舌に話してたよな!?ちっ、栗ようかんは好きか?」
「そんなもん出されちゃ、口がプルップルになるぜ」
「……喰らえ!お得用・栗ようかんアタックッ!!」
グラムの先端にようかんを突き刺し、全・力・投・擲!
軽々と音速の壁を突き破ったよつかんは乱回転しながら進み、着弾。
パンパンに膨れた頬袋を蹴り飛ばしてぇ思いつつ、疑問点を精査する。
そうして導き出された答えは……、バビロンが既に魔王の手に落ちている可能性だ。
「あの奥の方に見える箱、あれって俺達が探してるお宝だよな?」
「箱には『お宝⑧』とか書いてあるな」
「率直に聞くが……、お前、宝を取りに来た人を妨害しろとか言われてない?」
「くっくっく、言われてるな」
「そうか。そうだよn……言われてんのかよ!?誰にッ!!」
容疑者その一!腹ペコ魔王・リリンッ!!
平均的なド天然で、カツテナイタヌキを即落ちペット化ッ!!
容疑者その二!悪辣聖母・ワルトッ!!
アホの子妹の影響で、タヌキ調教・習得済みッ!!
容疑者その三!暗黒国王・レジェリクエシスターズッ!!
唐突に起こった怒濤の超展開、発生したタヌキ因縁からは逃れられない!!
容疑者EX!!アホの子・セフィナッ!!
最早、何を仕出かすか予測不能ッ!!
つーか、あんなに目立つアップルルーンに乗ってるのに見かけないんだけど、どこいったッ!?!?
「で、誰の入れ知恵だ?」
「サチナなのですー」
……。
…………。
………………え?
唐突に後ろから掛けられたそれは、紛れもない狐娘の幼声。
鬱蒼と茂る深緑の葉の隙間から延びる太い木の幹、そこにサチナが腰かけている。
「……いや、なんで?」
「サチナは真っ当に勝負をしようと思ったです」
「うん。そうだよな。魔王共の中で唯一の癒し成分だし」
「でも、姉様がズルをしようとしたです。で、返り討ちにする際にサチナもズルをしたです」
「なるほど?記憶を読めるって話だってもんな?」
「これは不可抗力だったので仕方が無いのです……。一回やるのも、十回やるのも同じなのです」
……。
要するに、サーティーズさん同様に他のプレイヤーの記憶を読んで、お宝の場所を把握しようとしていると?
で、なんか居たバビロンを餌にして俺を足止めし、まんまと記憶を手に入れたと?
「帝主様がカードを4枚も持ってるとは思わなかったです。ご馳走様なのです」
「おう、俺も本気でやってるからな」
「じゃ、サチナは早速、カードの回収に行くです。あ、バビロン、もうちょっと足止めしてくれると助かるです」
「任せておけ」
そうして、満面の笑みを浮かべたサチナは鬱蒼と茂る森へ消えた。
なお、追従する影が何故か二つもあった。
……お前はサーティーズさんの相棒だっただろ!?
キングフェニクース!?!?
「元々、分かっちゃいた事だが……、なんだこの宝探し。すっげぇ混沌」




