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20 純白の城


 サラフィナ先生の講義によると、首都はウル・ハゾンといい、ピュオルからは馬車なら1日ほどの距離らしい。途中1泊して、翌日の昼前には首都へ到着だ。


 総勢8名の団体ご一行は、早朝にピュオルを発った。今回はお姫様ご同行の旅であるから、オリエルが立派な馬車を用意してくれた。簡単に言うと護衛組は外、体力ない組は中で、申し訳ないが私は中に乗らせていただいた。歩かなくてすむって素晴らしい!

 出発前、私の隣にどちらが座るか、でサラフィナとクローバーが言い争っていた。最終的にじゃんけんになり、勝負の結果私の隣にはクローバーが陣取ることになったが、サラフィナは「向かい合わせならマナミ様の御顔を見放題ですから!」と減らず口を叩いていた。途中で宿泊するのだし、その時に交換すればいいのでは、と思ったが、今度はどちらが先に隣に座るか、で揉めそうな気がしたので突っ込まないでおいた。触らぬ神に何とやらだ。


 道中の雑談で、今年は雨が少なく作物の育ちが悪い、という話になった。シルダークの主食はキリ麦という穀物から出来るパンだが、今のところ4割は帝国からの輸入に頼っているという。自国の生産量が少なければ、ますます帝国に頼るところとなり、それが宮中の臣を悩ませている一つだとサラフィナが教えてくれた。食料自給率の低い日本出身者としては他人事とは思えない。

 ふと、以前ガルヴェインと話した品種改良の話を思い出した。アーク以外の耳があるが、別に問題はないだろう。

 と、軽い気持ちで品種改良の件を持ち出してみたら、3人の聴衆は皆面白いほどに目を丸くした。

「そ、そんな、自然に手を加えるなんて、許されるのでしょうか……?」

 と不安げなのはサラフィナ。

「面白そう! 枯れにくい作物ならピュオルにあるよ! あ、でも美味しくないから、甘いやつと掛け合わせればいいの?」

 と理解を示し乗り気なのはクローバー。

「むしろ殿下のご意見として議会で発言される方が良いかもしれないな」

 と冷静なのはアークだ。

「うまくいくかどうかも分かりませんよ? 一朝一夕で出来るものでもないし」

「何、物事を最初に行う者は総じて受け入れられないものだ。出来なければ鼻で笑われ、出来ればもっと早く言えと怒られる。褒められる為にやるのではなく、民の生活の為にやるんだ。ご機嫌取りだろうと何だろうと民のウケは良くなるさ」

 民の為、と言われサラフィナの目が輝いた。

「では、今度の議会で提案してみます。通るかどうかは分かりませんが……」

「殿下、口うるさい重臣どもにはこうおっしゃってみてください、『成功した暁には、帝国の輸入に頼る必要もなくなりますよ』と。奴らを黙らせる魔法の言葉です」

 アークは、それはそれは意地の悪い笑みを浮かべた。


 品種改良の案が了承を得たことよりも、サラフィナが議会とやらに参加していることの方に驚いた。私が思っている以上にサラフィナは王位継承者として認められているのだろうか?

 私の質問に、サラフィナは苦笑まじりでまさか、と答えた。

「逆です。わたしが知らないような難しい議題を出して、わざと追い詰めるんです。それに懲りて、余計な口出しをさせないように」

「なんだそれ。仮にも王宮のお偉いさんがすることかよ。ガキが仲間外れにするやり方と同じじゃねえか」

「ええそうよ。王宮の人なんて、みんな子供みたいなものよ。自分が一番可愛い、自分さえ良ければいいの」

「なっさけねえの!」

 10年そこらしか生きていない子供の方が、余程しっかりしているではないか。王宮に巣食うご立派な家臣サマに聞かせてやりたい。

「重臣殿も、虎と狼をたちまち意気投合させるくらいには役立つようだな」

 アークの嫌味に、小さな虎と狼は「意気投合なんかしてない!」と見事にハモらせた。




 宿泊する宿屋は、大きく高級な造りだった。さすが殿下が寝泊まりする宿だ。生半可な所では失礼に当たるのだろう。食事も豪勢で美味しかったのだろうが、正直味を覚えていない。というのも、宿泊客だか従業員だかが、脇からこちらの様子をうかがっていたのだ。噂の国王の隠し子だけではなく、黒の竜の従者もいるとなれば、注目の的になるのは当然だった。いっそ勇気ある誰かが話しかけに来てくれれば場も和みそうだが、そんな勇者がいるはずもなく沈黙のまま夕食は進んでいく。気まずいことこの上ないが、貴族にとっては注目を浴びることなど慣れっこのようで、アークもクローバーも、平民出身であるはずのサラフィナですら平然とフォークを進めていた。カドナ夫人のご指導の賜物だろうか。どこから見ても完璧なテーブルマナーを披露さえしている。本当に気まずい。馬車の隣で干し肉を頬張るノルマンと変われるなら変わっていただきたいくらいだった。


 寝た気がしない一夜を過ごし、私たちは早々に宿を出発した。宿の主人には申し訳ないが朝食は馬車の中だ。硬い干し肉だが、昨夜の張りつめた空気に包まれて食べるフルコースより余程美味しく感じる。

 お腹も膨れたし、睡眠不足も相まって考え事をしているふりをして軽ーーく寝ていたら、サラフィナに呼ばれて慌てて目を開ける。

「マナミ様、お城です」

 森の隙間から白亜の巨城が見えた。魔物の住まう、伏魔殿が。


 ウル・ハゾンは大きな城下町だ。首都なので当然なのだが、活気に溢れていたピュオル領のティル・アマネルが閑静に感じられるほどに大きく賑わっていた。

 窓から町の情景を覗こうとしたら、アークに止められた。混乱を避ける為などではなく、時の人である『王の私生児』と『黒の竜の従者』の姿を敢えて見せずに民の好奇心を煽るらしい。

 聴覚だけで城下町の盛況ぶりを味わっているうちに、私たちを乗せた馬車は城内へと入っていった。




 アークのお城はどちらかといえば要塞で、オリエルの城は美しかったが華美ではなかった。が、さすが王様のお城だけあってこちらはまばゆいばかりに絢爛豪華だった。壁は一面白。大理石のような陶器のような滑らかなその石は雪華石(せっかせき)と呼ばれ、強度もあり細工もしやすく見た目も美しいという理想的な鉱石で、シルダークの財源を支えている代表的な特産物なのだそうだ。

 真っ白に磨き抜かれた城の至る所に装飾品や花が飾られている。しかも広い。某球場で言えば何個分くらいだろうか、見当もつかない。ただ、掃除が恐ろしく大変だな、と庶民らしい感想を持った。

 城を進む順はサラフィナが先頭、次いで私、アークとクローバーが並び、最後がガルヴェインだ。ノルマンとユーニスふたりの騎士は余程のことがなければ入城は許されていないらしい。ジュスは「陰に隠れている」とのことで、どこにいるのか、ついてきているのかも分からなくなってしまった。

 「とりあえず陛下にお会いしましょう」

 サラフィナはまっすぐに進んでいる。道中遠巻きに好奇の視線に晒されるが、誰かが案内人として従うことはなかった。侍女ですら近寄る気配もない。王の子とはいえ、平民の小娘に払う敬意などないというわけだ。なるほど、これは逃げ出したくなる。サラフィナが予定より早く城を出てアークの元へ移動したくなった理由が伺える。

 あちらから騎士らしき男性ふたりがすれ違おうとした。談笑していたがサラフィナを見て取ると脇に寄って敬礼した。お、ちょっと気分いいぞ、と思ったのも束の間、彼らにしてみればほんの小さな囁きだったのかもしれないが、いや、敢えて聞こえるように言ったのか、私の耳に「反逆者」との単語が届いてしまった。振り返って表情を確認すると、アークはどこ吹く風、ガルヴェインは不快に眉をひそめ、言葉を発したであろう騎士ふたりはニヤニヤと嘲笑していた。

 言うなれば、感情の中の『寛大さ』を包む金属の箱が、小型ハンマーで叩かれた感触だ。カチン、と確かに聞こえた。


 大の男の頬を引っ叩こうと振り上げた手は、ガルヴェインに阻止されてしまった。


 「ああ、清浄なる黒の竜の従者様。その清らかなお耳に相応しからぬ罵詈雑言、さぞお心苦しいことでしょう。しかしいけません、穢れた者に触れるは御身に毒にございます」

 大袈裟な一礼と流暢な台詞回し。演劇でも見ているかのような気分だった。バレエダンサーの如く優雅な足取りで、アークは嘲笑が引きつったままの騎士ふたりに近寄った。

「畏れ多くも黒の竜の従者様の御前だ。貴殿らが意図せずとも、黒の竜の従者様への不敬の言葉と取られても文句は言えんぞ? 相手を罵るときは、時と、場所と、相手を選んだ方がいい」

 どんな表情で言い放っているのか、私に背を向けたままのアークからは読み取れない。が、ふたりの顔が面白いほどに青ざめていく。そのうちのひとりが反射的に腰の剣の柄に手をかけようとした。

「おっと、やめた方がいい。仮にも殿下の御前で近衛騎士ともあろうお方が抜刀したら一大事だ。挑発に乗った? 高潔なる近衛騎士様がまさかそんな不名誉なことをなさるはずないよなあ。命が惜しくないなら抜いても構わないが、瞬きが終わる前に美しき白亜の壁が自身の血で染まるぞ? まさか我が国最強の近衛騎士様が、一介の反逆者風情に斬られるわけは、ないかな? 試してみるか?」

 神経を逆撫でするアークもアークだが、それよりも背後から伝わってくるドス黒いオーラが恐ろしくて、私の手を押さえたままのガルヴェインの方へ視線を送れない。後ろに今いるのは何だ、鬼か悪魔か。

 賢明(?)なもう一人の騎士が同僚の袖を引く。彼らは屈辱に歯を軋ませながら去っていった。

「あまり騒ぎを起こしてくれるなよ」

 注意しながらも、振り返ったアークの顔はにこやかだった。クローバーなど「殴っちゃえば良かったのに」と残念そうだ。

「……ごめんなさい。我慢できなくて……」

 にっこり微笑むサラフィナの方へ戻ろうとした私に、ガルヴェインは小さく囁いた。

「腹を抱えて笑い出したい気分だ」

 それはちょっと見たくないなあ、イメージ的に。





まだ王に会わないのかよ!とセルフツッコミ。



すみません、品種改良の話題を振るのを忘れていたので慌てて回収しました。


じゃんけんがあるのかよ!とも思いましたがある、ということでひとつお願いします。

グー、チョキ、パーでないにしろ諸外国にもあるし、きっとあるよ! あることにしよう。

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