表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地味な女の子の勇者騒動  作者: 国見炯
龍神之子
27/27

龍神之子・9







 使える物は何でも使おうの精神を元に、内心、心の奥底から沸き上がってくる溜息と、吐き出したくなる感情を抑えつけて、何とか袖を通していく。


 ものすっごく可愛い衣装。


 それに袖を通すのが、私だという現実が居た堪れない。


 ふわふわの純白。猫耳と尻尾は健在なんだ。どうして、デザインがこれなんだろう。すごく。すごーく勘弁してほしいのは、きっと私だけ。


 周りの皆は可愛いと囃し立てる。


 うん。可愛いって言ってはくれるんだけど。


 ……本当に居た堪れないんだ。


 でも、これは使える。から、使う。


 似合う似合わないは置いといて、チート品は惜しむ事なく使いまくるんだ。


 そうして、ちゃんと日本に帰る!!


 朝ごはんを食べて学校に行って、おやつを食べて勉強をして。またおやつを食べて教科書を開いて、昼食とおやつを食べる。そうすれば、残りは僅か。


 お腹いっぱいで眠たくなる目を擦りながら、授業を受けて、帰る前におやつを食べながら副委員長と話して。家に帰って夕食を食べてね。


 一週間に一回は、副委員長と放課後に寄り道をして、色々なものを見て食べて帰るんだ。


 毎日、うきうきわくわくですごく楽しい。


 そんな日常に帰るんだ!!


 気合は十分。


 やる気は満タン。


 握り拳を作り、それを上に向かって突き上げる。


〈おぉ、やる気だな〉


 メイちゃんの言葉に、「勿論」と笑顔で返す。


 怖かったけど、怖くない。


 心細かったけど、大丈夫。


 恥ずかしくてどうしようもなかった勇者の装備。それが、今の私の勇気を後押ししてくれる。


 何て無敵感。現金なもので、今の私は最強な気がしてきた。


 細いの武器は、手で抜かなくても、私が思うだけで柄が手に握られてくれるという優れもの。


 空気勇者と言う事なかれ。


 空気だろうとなんだろうと、勇者である事には変わらない。


 今だけは、“勇者”という言葉に甘えてしまおう。


 だって、何と言っても勇者だから。






 メイちゃんと一緒に、シールタイプのハウスから、外へと向かってゆっくりと足を踏み出す。


 今身に着けているのは、アンクルで作られている移動式の結界。


 装備している人間の半径1mに、結界を展開してくれる。


 ただ、移動式にした代償として、時間制限があるのだ。


 時間にして、2時間。


 スーパータイプの結界を維持する変わりに、結界の持続時間が短い。一応、持続時間が長いBランク位の結界も存在するけど、お勧めはやっぱりSランク。


 2時間以内に決着をつけるって思って、これを身に着けてきた。


 2時間以内に、決着をつけるんだ。


 改めてその言葉を口にすると、背に電撃のような感覚が走り抜けた。


 微かに足も震える。


 うん。武者震い。


 そう結論づけながら、足を動かし続ける。


 あの、緑色の何かと対面するのだ。


 すごくすごく恐ろしくて、怖くてどうしようもない。


〈我もおる。大丈夫だ〉


 肩に乗っていたメイちゃんが、尻尾をペシペシと動かして、私の背を撫でるように優しく叩く。


 自分もいるから大丈夫だ。


 そう言ってくれる。


 1人じゃないって素晴らしい。


「うんうん。ありがとう、メイちゃん。急ごう」


〈うむ〉


 ザカザカと足を動かす。


 2時間以内に、あの屋敷まで行かないといけないし。


 ……今度は、乗り物を作ってもらおうかな。歩くのって大変。本当に大変だと思う。


 乗り物があれば便利だし。


 帰ってからのリクエストを思い浮かべながら、沢山の小さい何かが浮いている中を縫うように歩いていく。


 あの屋敷。本当になんなんだろう。清浄な空気にしたかと思ったら、次の瞬間には元通りになってた。どうやったら何とか出来るのかなぁ。


「メイちゃん。あれって、どうやったら退治出来るんだろう」


〈うーむ……〉


「何か、どんどん力が供給されてるって感じだよね」


〈そうだな〉


 足を動かしながら、どうしたものかと頭を悩ませる。


〈供給か……何処からか、エネルギーを貰っている、という事だな〉


「うん」


〈その何処か。大本を叩かれば、まだなんとかなるんだろうがなぁ〉


「そうなんだよね」


 エネルギーの供給源が何処なのか。


「何か前みたいに扉だったら楽なのにねー」


 だって、私は扉を閉めれる勇者だし。


 そう思って軽く言えば、メイちゃんがぴたりと動きを止めた。


〈……うむ?〉


「ん?」


〈扉……〉


「うん?」


〈ひょっとして、それかもしれぬぞ〉


 メイちゃんのそれだ、と言わんばかりの輝いた表情に気おされるように、思わず頷いていた。


 え? 思いつきでいったんだけど、扉かぁ。


 そんなに単純なのかなぁ……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ