龍神之子・9
使える物は何でも使おうの精神を元に、内心、心の奥底から沸き上がってくる溜息と、吐き出したくなる感情を抑えつけて、何とか袖を通していく。
ものすっごく可愛い衣装。
それに袖を通すのが、私だという現実が居た堪れない。
ふわふわの純白。猫耳と尻尾は健在なんだ。どうして、デザインがこれなんだろう。すごく。すごーく勘弁してほしいのは、きっと私だけ。
周りの皆は可愛いと囃し立てる。
うん。可愛いって言ってはくれるんだけど。
……本当に居た堪れないんだ。
でも、これは使える。から、使う。
似合う似合わないは置いといて、チート品は惜しむ事なく使いまくるんだ。
そうして、ちゃんと日本に帰る!!
朝ごはんを食べて学校に行って、おやつを食べて勉強をして。またおやつを食べて教科書を開いて、昼食とおやつを食べる。そうすれば、残りは僅か。
お腹いっぱいで眠たくなる目を擦りながら、授業を受けて、帰る前におやつを食べながら副委員長と話して。家に帰って夕食を食べてね。
一週間に一回は、副委員長と放課後に寄り道をして、色々なものを見て食べて帰るんだ。
毎日、うきうきわくわくですごく楽しい。
そんな日常に帰るんだ!!
気合は十分。
やる気は満タン。
握り拳を作り、それを上に向かって突き上げる。
〈おぉ、やる気だな〉
メイちゃんの言葉に、「勿論」と笑顔で返す。
怖かったけど、怖くない。
心細かったけど、大丈夫。
恥ずかしくてどうしようもなかった勇者の装備。それが、今の私の勇気を後押ししてくれる。
何て無敵感。現金なもので、今の私は最強な気がしてきた。
細いの武器は、手で抜かなくても、私が思うだけで柄が手に握られてくれるという優れもの。
空気勇者と言う事なかれ。
空気だろうとなんだろうと、勇者である事には変わらない。
今だけは、“勇者”という言葉に甘えてしまおう。
だって、何と言っても勇者だから。
メイちゃんと一緒に、シールタイプのハウスから、外へと向かってゆっくりと足を踏み出す。
今身に着けているのは、アンクルで作られている移動式の結界。
装備している人間の半径1mに、結界を展開してくれる。
ただ、移動式にした代償として、時間制限があるのだ。
時間にして、2時間。
スーパータイプの結界を維持する変わりに、結界の持続時間が短い。一応、持続時間が長いBランク位の結界も存在するけど、お勧めはやっぱりSランク。
2時間以内に決着をつけるって思って、これを身に着けてきた。
2時間以内に、決着をつけるんだ。
改めてその言葉を口にすると、背に電撃のような感覚が走り抜けた。
微かに足も震える。
うん。武者震い。
そう結論づけながら、足を動かし続ける。
あの、緑色の何かと対面するのだ。
すごくすごく恐ろしくて、怖くてどうしようもない。
〈我もおる。大丈夫だ〉
肩に乗っていたメイちゃんが、尻尾をペシペシと動かして、私の背を撫でるように優しく叩く。
自分もいるから大丈夫だ。
そう言ってくれる。
1人じゃないって素晴らしい。
「うんうん。ありがとう、メイちゃん。急ごう」
〈うむ〉
ザカザカと足を動かす。
2時間以内に、あの屋敷まで行かないといけないし。
……今度は、乗り物を作ってもらおうかな。歩くのって大変。本当に大変だと思う。
乗り物があれば便利だし。
帰ってからのリクエストを思い浮かべながら、沢山の小さい何かが浮いている中を縫うように歩いていく。
あの屋敷。本当になんなんだろう。清浄な空気にしたかと思ったら、次の瞬間には元通りになってた。どうやったら何とか出来るのかなぁ。
「メイちゃん。あれって、どうやったら退治出来るんだろう」
〈うーむ……〉
「何か、どんどん力が供給されてるって感じだよね」
〈そうだな〉
足を動かしながら、どうしたものかと頭を悩ませる。
〈供給か……何処からか、エネルギーを貰っている、という事だな〉
「うん」
〈その何処か。大本を叩かれば、まだなんとかなるんだろうがなぁ〉
「そうなんだよね」
エネルギーの供給源が何処なのか。
「何か前みたいに扉だったら楽なのにねー」
だって、私は扉を閉めれる勇者だし。
そう思って軽く言えば、メイちゃんがぴたりと動きを止めた。
〈……うむ?〉
「ん?」
〈扉……〉
「うん?」
〈ひょっとして、それかもしれぬぞ〉
メイちゃんのそれだ、と言わんばかりの輝いた表情に気おされるように、思わず頷いていた。
え? 思いつきでいったんだけど、扉かぁ。
そんなに単純なのかなぁ……。