第2話『メイドの訪問』
自分の家を通り過ぎ、もう少し奥へ進む。すると、そこにらひらけた原っぱがあり、ポツンと一つのログハウスがあった。
「ん?おぉ、フォルドか。随分遅かったな、何かあったか?」
「大したことじゃないよ…とと、はいこれ」
俺は買ってきた物をおっちゃん、オリノス・チャディントに渡す。すると、おっちゃんは何かを取り出し、俺へと放り投げてきた。
「リンゴ、食べるだろ?お駄賃だと思っときな」
渡されたリンゴを、丸齧りする。これはおっちゃんに教わった食べ方だ。おっちゃんの方を見ると俺と同じ食べ方をしていた。
ブライド家でのマナーしか知らなかった俺に、色んな事を教えてくれた。この話し方もおっちゃん譲りだ。
「元々、気色の悪い話し方しか出来なかったからなぁ」
色んな方面に喧嘩を売ったように思ったので、今の発言は無かったことにしようとすぐに口を閉じた。
「……お、フォルド。雨が降るぞ、洗濯物は入れたのか?」
「え、雨?」
「おう、雨だ。匂いで分からんか?」
分からんわとツッコミを入れたくなったが、おっちゃんの勘はよく当たるので、俺はすぐに自分の家へ戻り、洗濯物を家の中へ入れた。
「うおぉ、ほんとに降ってきやがった。流石、おっちゃん」
おっちゃんの五感はどうなっているんだと疑問に感じつつ、俺は疲れを感じソファに座る。
この家はというと、おっちゃんが以前住んでいた家を貰ったのだ。俺が十四になるまでは一緒に住んでいたのだが、おっちゃんが気を遣ってか別々に住もうと提案してきたため、この家を使わせてもらう事になった。
おっちゃんは何か作るのが趣味で、この家もあっちの家もおっちゃんの手作りだ。作る物は日により様々で、武器、料理、なんと裁縫までできてしまう。おっちゃんが裁縫をしている絵面は少し面白いが。
さて、少し早いが夕飯の支度をすることにした。ずっとおっちゃんに頼ってきたが、最近になってようやく自分で料理を作れるようになってきたのだ。ただ、まぁ面倒ではある。
しかし、おっちゃんの負担になる事は極力自分でやると決めているため、今日も今日とて自炊を頑張ろう。
そう意気込み、ソファから立つ。窓からは日が差し込み、雨は止んだようだ。そして、俺はキッチンへと向かい─。
ピーンポーン♪
インターホンが鳴る。ここからならインターホンで出るより玄関の方が近いため、そちらへ向かう。
誰だ?おっちゃんなら、別にインターホンなんて鳴らさないはずだ。
先程の広場での会話を思い出す。あのフードの人物が訪ねてきたのかもしれない。そう思った俺はすぐに玄関のドアを開ける。
しかし、そこにいたのは。
「……あっ、あの」
フードの人物ではなかった。良かった、もしかしたら優しい人が見つかったのかもしれない。
そう自分の中で完結させ、目の前の人に意識を向ける。
では、誰だ?
まず目につくのは服装だ。メイド服、メイド服だ。可愛らしいフリルが付いた服で、頭にはホワイトプリムがちょこんと乗っている。
次に、髪を見る。綺麗な白髪に見える。だが、ところどころに汚れがついている。どうしたんだろうか。
そして、顔。垂れ気味の水色に近い色の目をしていて、整った顔立ち。少し顔が赤いようにも見える、さっきの雨で風邪を引いたのだろうか。
これで全部か。
一部大きいところがあるが、それは紳士の振る舞い的に見ないことにする。
「えっと、どちら様でしょうか?」
「えっ?覚えていらっしゃら、ない?」
俺が彼女に確認を取ると、とてもショックを受けた様子でガックリと下を向いてしまった。しかし、すぐに顔を上げ、俺の方を向き口を開ける。
「…あっ、あの!私、なんでもしますから、だから…」
心地よい風が肌を通り、先程まで降っていた雨が地面に浸み込み、独特の香りが鼻に残る。絹のようなその声は、必死に訴えかけてくる。そして、彼女はもう一度息を吸い、こう口にした。
「だから、私をこの家に住まわせて下さいっ!」
「………はぇ?」
突拍子もない事を言われ、驚きを隠せずに変な声を出してしまった。
「い、いきなりそんな事言われても…。それに女性を泊めるなんて」
俺がそう言うと、彼女は何やら握りしめていた紙を広げて見せてきた。その紙には、見覚えがあった。
「あれ、さっきあの人に渡した紙…なんで、あなたが」
頭をフル稼働フル回転させて、考える。まず、あのフードの人がこの女の子に紙を渡した可能性。何故、そんな事をする理由があるのか。
それか、あの人が落とした紙を拾ったか。
───いや、分かってる。なんとなく分かる。
「まさかあなた、フードの人?」
「うぅ、そこまで影薄かったですか?」
「いやいやいや!?だって、服装が全然違うじゃん!!あと、フードで顔見えてなかったし」
恐る恐る聞いた俺の顔を手で自分の顔を覆い、上目遣いで見てくる涙目の彼女。服装も違う、顔も知らない、流石に分からないと、こちらも異議を申し立てる。
「第一、その服はどうしたんです?」
「あぁ、これは…」
「俺が作った」
メイド服の彼女と話していると、横からおっちゃんが話に割り込んできた。
おっちゃんが作ったのか、なるほど、通りで。
「って、なる訳ないだろ?」
「いやな、急にその子が家に来てこの紙見せられて、俺もなんのこっちゃ分からんかったぞ。でもその子がフォルド、お前に助けてもらった、だからせめて自分も役に立ちたいと言うもんだから。せっせこせっせこ作った訳よ」
とりあえず、彼女がフードの人物で、おっちゃんにメイド服を作ってもらったのは理解した。でもなぁ。
「…失礼なこと言いますね?あの時は顔も見えなかったし、声もガラガラだったから女性だとは思ってなくてですねー。そのー」
「あうっ、やっぱりダメですか?なんでも、します。貴方のメイドとして、身の回りのお世話とか、ご奉仕とかも」
「──ご奉仕…?」
って、駄目だろ。この子はそういう意味で言ってないからな、絶対。
どうするべきか迷っている俺に、おっちゃんは肩を叩き、笑い飛ばす。俺は何を笑ってるんだと内心呆れたが、そのおかげで踏ん切りもついた。
「…分かった、分かりました。そうだよな、ここで俺が断ったら住むとこないですもんね?」
「うぅ、はい…お恥ずかしながらぁ」
「了解です。じゃあこれからよろしくお願いしますね。えーと…」
「ごめんなさいっ!私、名前言ってなかったですね!?」
俺が挨拶をすると同時に名前を知らずに話を進めていた事に気がつき、言葉に詰まる。それに気づいたのか、彼女も慌てて声を出す。
「ルル。──ルル・エクレール。それが私の名前です」
ルルはそう言って、慣れない手つきでスカートの裾を摘み、メイドらしいポーズをとって微笑んだ。




