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お悩み外交官バーンズ

 外交官のバーンズ氏には、なんとも歯がゆい事実がある。外交に出掛けてもお話をゆっくり聞いてもらえない。

 内政は王家が「いいからはなしきいてよーーー!!」すりゃ一時的にだろうと押さえられはするのだが、外交は下手すると近隣諸国がまるっと敵対するかもしれない。なのでより慎重になるし、任せられる人材は色々な審査が必要。「気軽に必殺武器を構えない」「気軽に暗黒死霊呪術や魔法を使わない」「『悠長に構えずにヤッたらいいよね?』と言わない」など厳しい選考が行われ六割は脱落する。


 こういう国なので敵対国に『魔王の国』と呼ばれている。これがとっても悩ましい。外交はね、びびらせるのも確かに大事なんだけどうちの国はいささかワイルドなんで困ってしまう。もっと穏便にして欲しい。まぁ、自給自足できる国なので唐突に締め出されてもすぐに困りはしない。


 そもそも、農耕している国民は穏やかである。国民が使える術の中でメジャーな暗黒死霊呪術を駆使し、スレイプニルの骨を動かして畑を耕させる。野良グリフォンがキャベツをつまみ食いにきてもピッチフォークをぶん投げて仕留めて羽布団にしている。しかしワイバーンが飛んできたら駐在の騎士を呼ぶしかない。悲しいことにひ弱な一般人はワイバーンには勝てないのだ。野良グリフォンか野良スレイプニルを締め上げるのがせいぜいである。

 バーンズの地元は田舎だったが、便所サンダル履いた三児の母の騎士が孫を背負いつつワイバーンの背中にぴょんと飛び上がって、サクッと翼を切り落としていた。騎士は「昔はよく姫騎士ってよばれたもんさ」と黒いくるくるしたパーマをかきあげており、黒いくるくるパーマは地元の子供のカッコいい髪型としてもてはやされている。建国の三師の一人『賢者ヤマダ』の地元でも強き女の髪型といえばコレだそうだ。なお、強き女はワイルドパンサー柄の服を好むという。時々女性騎士の制服改正案でワイルドパンサー柄にする要望が上がるのだが、些か威圧的であるため長年反対され続けてきた。しかし昨年、王女が大物の魔物を討伐した報奨としてゴリ押した結果、制服の裏地か鞄に限り、かつ、自分で討伐したワイルドパンサーのみ許可している。

 バーンズの娘が言うにはビビッドピンクや紫色に染色するのが流行りとのこと。バーンズの様な中高年からしてみると『賢者ヤマダ』からの伝統である騎士服、正式名称『トッコォフク』に手を加えるのは気が進まないがこうして歴史は紡がれていくのだろう。

 このように流行や技術や魔法や武術は日々進歩していくものなので遅れをとらないように国外視察はしたいし、国外には面白い発想が溢れている。

 国外では大人がオークやゴブリンの集落を探して討伐するという珍妙な風習がある。ああいうものは暗黒死霊呪術や魔法や武術を習得した子供に『はじめての殲滅』を学習させるために大事にとっておくものだと思っていたので衝撃だった。我が国では大人だけでオークやゴブリンを討伐するのはいい年して母の乳を吸うようなものだと思われている。国の酒場で大人が「よっ マダムキラー」と呼ばれてもへらへら笑っていられるが「よっ ゴブリンキラー」と呼ばれたら駐在騎士を立ち会いさせて命懸けの決闘も辞さない騒ぎになる。

 だから文化の違いを知るために外交と貿易をしているのだ。それに、きちんと交流しておかないと、ちょっと危ない魔物が近隣諸国の山越えした時に「危ないから気を付けてね」の連絡ができなくなる。以前、連絡がつかず小国が一つ亡くなる悲しい事故が起きてしまった。

 うちの国は建国以来自分の国を守るのにいっぱいいっぱいなので自分から喧嘩売ったことはほぼない。国の外からきた海賊や、国境の山越えした山賊は見せしめになるように派手にぶっ殺してるだけ。二十年ほど前にやって来た海賊は暗黒死霊呪術で隷属化して見せしめしつつ海賊狩りをしてもらっている。とてもエコロジー。百年くらい昔だったら拷問して派遣元を吐かせて呪術の材料にして殺す以外に何もできなかったのだが永久的に警備として利用できるようになったのは我が国の呪術進歩のおかげである。だから他国でいっぱい勉強してうちの国を発展させたい。

 できるならうちの国に正規ルートで訪問して観光してお金を落としてもらいたい。うちの国の周りは魔物がワサワサいるので国で整備して警備してないルートを通ろうとするとだいたい死ぬ。なのに、なぜか変なところから入国しようとする。外の国のものは方向音痴が多すぎる。時々、近隣諸国から「うちの国の冒険者が度胸試しに向かってしまってごめん」の謝罪がくる。そういう時は「不法ルートしてたらメッするね。盗賊してたら見せしめにするね」といつもの外交方針を貴族言葉にくるんで返している。

 できるだけ丁寧に対応しても、国の評判のせいで「ヒェッ 魔王の国!!」と及び腰になりスムーズな意志疎通ができなくて困る。




 バーンズ氏の今日の仕事は山賊の注意喚起諸々を隣国にすることだ。できるなら正規ルートからの観光誘致もしたい。


「亡国の王女を名乗る賊が現れましてね、貴国の秘宝の一つである聖杖を奪っていたようでしたので、お返ししようと思いまして」

「ヒッ……知りません!!レプリカです!!レプリカ!!」


 相手の外交官はだいたいいつも震えている。病をおして働いているのかもしれない。まあ人手不足なら震えくらいは仕方ないな。これは観光の話どころではない。


「そうですか、ではこちらで処分しておきますね」

「……山賊は…どうしたのですか?」

「はは、いつも通りですよ。合成獣に魔改造して亡国跡地と接する国境に配置しましたから役に立つでしょう」

 山賊は虫の息の段階でオメット家に頼んで薬物投与しつつどの辺の魔物と合成できるか調べてグリフォンの遺体に移植を行った。飛べるし魔法も使える。でも田舎の駐在騎士より弱いし知能も低く聖魔法を唱えて自分で苦しんでいる。君はゾンビなんだから無茶しなさんな……。山賊素体の聖魔法耐性あるから死んでも死にきれないし、魔力の無駄。偵察がこなせる知能はない。やはり『鳩使いオズモンド』の勧誘を続けたい所だ。彼は鳩を使って飛べるし最近姿を隠す魔法を習得したと聞く。ぜひ騎士団に所属して欲しいものだ。

 オズモンドとは比較にならないが元山賊ゾンビは命令には服従するし餌は不要なのでゴミ運びなど雑用くらいはこなしてくれるのでまあ、便利。


 さて、国宝の杖なら外交官らしく条件付きで返却しようと思っていたのだけれど、レプリカなら持ち帰ろう。山賊を討ち取った騎士に娘が生まれたそうなので祝いとして渡すのもよさそうだ。杖の魔石は本物なので喜ぶだろう。そこらに飛んでるエルダーグリフォンの魔石よりはちっこいけど子供のおもちゃにはちょうどいいな。



***



「あれが魔王四天王の『冗談屋のバーンズ』ですか」

「そうだ……自称外交員という笑えん魔族ジョークをずっと擦っているが、奴の配下に破れた勇者は数えきれない」


 血塗れの聖杖を持ったバーンズの去った会議室で大臣と部下は震えていた。彼らはバーンズが外交官だと判っていなかった。

 かれこれ十数年前、バーンズは外交官就任挨拶状を出したのだが魔王軍襲来予告扱いされて精鋭騎士団が守りを固めてた。しかし、就任挨拶にきたバーンズに皆殺しにされて「山賊がいたので退治しておきました。これからもよろしく」と清々しい笑顔で宣言された。


 こんな外交官いるはずがねぇ。


 そう思っても無理はないのだが、例の国は騎士団を名乗る山賊が頻繁に出る。ついでにバーンズは外交の場でちょっといらつくこと言われても堪えられる精神はあるが、武器もって囲まれたらちゃんと抵抗して皆殺しにする。

 外交官たるものいかなる困難が訪れようとすべてなぎ払い目的地にたどり着くべし。ちゃんとあの国の貴族。とても蛮族。


 魔王の国特有の文化として、血塗れの武器を洗浄せず返却するという行為がある。これは「この持ち主はここまで必死に戦いました」「もう武器の手入れはいりません。戦わなくて構いません。安らかにおやすみください」という健闘を讃え安寧を願うことを意味している。しかし、亡国の聖女を山賊扱いし、あの国お得意のキメラゾンビに魔改造し、使役してふるさと近辺を周回させるという尊厳破壊コンボが決まっているので理解しろというのは無理な話であった。


 どうにか魔王の国を討伐しようとする諸国は騎士団やら勇者やらを派遣しているがだいたい死ぬ。ドラゴン襲撃から生き残った亡国の王女の血筋の聖女に魔法がつよつよになる聖杖を託した時は「これはいけるやろ!!」と沸いていたのにコソドロでザコ山賊扱い。勝てねぇ。

 もし聖女(山賊)を焚き付けたとバレたら魔王の国と開戦の鐘がなる。そして国は滅びる。そんなことになるくらいなら聖杖を失おうとも、震えながらしらをきるしかなかった。

バーンズ氏…自国では外交官なのに他国だと魔王四天王扱いされていることを知らない。他国の山賊()相手なら装備紳士服、拾った棒、拾った石で無双できる。身体能力は国民の平均ちょい上くらい。


オバ騎士…クワガタ的な人気がある騎士。地元の少年の初恋は奪わないが、初「かっ…カッケェ……!!」は奪う。若い頃はマジで姫の護衛の女騎士をしていた。


オズモンド…鳩使いとして名を馳せている。結婚式とか舞台演出とかハッピーで穏やかな仕事をしたい。騎士団に所属したら「この病原菌をもったゾンビを敵軍におとしてきてよ!あ!ちゃんと君と鳩の分のお薬はあるから健康はもんだいないよ!安全だよ!」と精神的配慮以外は至れり尽くせりの依頼されるのでフリーでいた方がいい


新型グリフォン(聖魔法つき)…主な仕事は改造に使えなかった山賊の遺体を出身国に運んで捨てること。鳴き声は「コロシテ コロシテ」

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― 新着の感想 ―
面白かったです! 魔王の国が思ってた以上に魔王の国過ぎて! あとがきのバーンズ氏の身体能力から推測するとひょっとして「奴は四天王の中で最弱」とか魔王の国で言われちゃう感じですか? 周辺国の皆さんから…
>ワイバーンが飛んできたら駐在の騎士を呼ぶしかない このワイバーン火等を噴きませんか?そして翼以外にも手があったり?
スレイプニルって神話の馬よね。 そいつやグリフォンをシメれるのにワイバーンが無理……? それ本当にワイバーン……? おばちゃん女騎士、便所スリッパにパンチパーマで某暗殺の母が真っ先に頭に浮かんでしま…
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