平凡伯爵令嬢マリー
好評でしたのでジャンルを変えてシリーズ化させていただきました。ありがとうございます。
容姿も財力も平均的な伯爵令嬢マリー。その婚約者の同じく容姿も財力も平均的なオズモンドが病弱幼馴染みの男爵令嬢の見舞いと言ってお茶会、観劇に来なくなること数知れず。きちんと同席していることの方が少ない。 お互いに領地にいるならば交通事情などやむを得ないこともあろうが社交シーズンで王都のタウンハウスにいるときですっぽかしなのだ。二人の関係は良好ではなかった。幼い頃は近所の貴族としてそつなく交流していたはずなのに、時の流れは二人の関係を変えてしまっていた。
マリーとオズモンドが婚約した理由は領地も近くて里帰りしやすく、マリーの地元の特産の一つである羊毛と布製品の加工が得意なオズモンドの領地で協同事業しようかと話が出ていたからだ。今は双方資金集めや領地視察を中心に動いていた。マリーの父伯爵とオズモンドの父伯爵の仲はよくも悪くもなかったが、マリーが父とともに会った時には父に対して怯えているのかさりげなく距離をとっていた。
父は母と婚姻する前に他所の蛮族が襲来した際に【赤塗りの魔神】と剣呑な二つ名をつけられるほどに活躍し、蛮族が乗ってきた船を血で赤く染め、赤くなりきっていなかった所を蛮族の死体を筆代わりにして赤塗りするという蛮族も仲間も腰を抜かすことをしていたそうだ。実際は王室付きの呪術師が「蛮族がこの地に乗り込めぬ術を施す。まず、隈無く蛮族の血で染めた船を用意するのだ」と言い出したからである。たいていの騎士はそこまでの汚れ仕事にびびって拒否したのだが父は「金と地位くれるなら俺はやるぜ」という貧乏男爵の五男であった。父こそが蛮族。そして、母は呪術師の姪っ子で真面目に仕事する父を気に入って口説き落としている。伯爵家の一人っ子だった母に婚約者がいなかったのは、親戚がやベーやつしかいなくて機嫌を損ねたら生け贄にされると真実が流れまくっていたからだ。母の血筋も蛮族。なお兄は「真実の愛ってうちの両親のことを言うらしい」とおかしなことを言ってた。確かに我が家は愛がねぇと結婚できないのは真実だけどたぶん世間ではそういう使い方しない。 きっと、なんか、こう、天から赤いバラの花びらが降るようなロマンチックなときに使うのだ。マリーは家庭の事情でロマンチックエアプである。
マリーはちょっぴりロマンチックを期待していた。しかし、まぁ、貴族なのでロマンチック欠如な政略婚も仕方ない。ただ、最低限、お互いを尊重するような気遣いが欲しかったのだ。
だからこそ浮気などのお互いの尊重ゼロどころかマイナスの舐めた真似は許さない。婚姻前から舐めてくるということは事業の約束諸々も舐めていると同義。赦せねぇ。舐めてくるなら命をかけろ。それが貴族。マリーの兄も両親もバッキバキに青筋立てていた。
「我が家を、ずいぶん舐めてくれとるのう?おん?羊の毛狩りでなくて首狩が必要かのう?」
「お父様、あの領地に流れる水をとめて殺しましょう」
「短絡的過ぎますわ。税に障りがあると陛下が御許しになりません。毒生地の礼服を勧めましょう。とても美しい緑色なのです」
蛮族殺して名を上げた父、父と非常に馬が合う母、その両親から生まれた兄。マリーの家族は殺意の塊だった。
「お待ちください」
両親と兄が待ったをかけたマリーの顔を心配そうに見つめる。普段のマリーは領地を荒らす賊が出た時、賊が隣国の領地の食いつめた集落ぐるみでやっていたとわかると、わざと集落まで逃亡させたのを見計らって魔物をけしかけて女子供含め皆殺しを提案する娘である。
しかし、急に消極的なことを言い出す娘はひよってしまったのか。なんとかなしい。と言わんばかりの家族だがそうではない。マリーにはやるべきことがある。
「私、例の幼馴染みのいる家にお見舞いに行きたくおもいます」
「よく言った!武具を持て!!馬にはたくさん食わしておけ!!」
父はこれから浮気相手の屋敷を攻めて全員晒し首にしますくらいのノリで出掛けようとする。兄は人の肉の味を覚えている愛馬の所へ向かい、母は呪術の道具をとりに行こうとしている。
マリーは、そういうつもりじゃなんだけどなぁ、とりあえず面拝みに行くだけなんだよなぁと、殺意たぎる家族の迷走を放置して敵情視察に赴いた。
マリーはオズモンドの幼馴染みがいるのはオメット家だと知って「おや?」と首をかしげた。とりあえずオメット家に「少しうかがいたいことが」ときりだすと玄関側の応接室に案内され、オメット男爵の息子が現れた。
「オズモンド様ですか、花を渡してすぐお帰りになりました。その花瓶に活けている花です」
「こちらのお嬢さんへは会っていないのですか?」
「病棟への訪問は許可していません」
「いつもなのですか」
「オズモンド様も、たまたま近場に用があるのでついでに花だけ届けておこうという様子でしたね。我が家は他所の婚約にひびをいれるようなことはしたくありませんし、事業の秘密もありますから、オズモンド様を病棟に入れません。彼は玄関側の応接室で私か父か母が軽く挨拶してすぐに帰りますよ」
オメット家は困惑していた。仕事づきあいのある貴族の坊っちゃんは婚約者もちなので長居もしないし、義妹の心配というよりは薬品事業しているオメット家で新薬開発できたかを気にして高頻度で現れるのだと解釈していたのだ。マリーが婚約者の浮気を疑っているのは察したが、オメット家は本当になにもしていない。家族としては大事な義妹だが病気で細く肌艶もよくなく髪も短い。跡継ぎでもない。おおよそ貴族男性が言い寄らないだろう娘である。
マリーはオメット家だと聞いた時点でなんとなく白だとは思っていた。直接対面して、やはり、オメット家の浮気関与無しと判断した。
そうして、オメット家のタウンハウス付近での聞き込みの結果、オズモンドの行き先も判明した。
オズモンドは公園の鳩にパンくず与えながら婚約者が怖すぎると悩みを愚痴っていた。昼前から日暮れまで公園におり時々秀逸な鳩の鳴き真似もするので有名人だそうな。だめな人間の見本である。
オズモンドは他所の女と浮気ではなく、やばい家のマリーと付き合うのが怖くてただただ逃げていただけ。信じがたい弱腰ぶりにマリーの両親も兄も「私たちは間違えて幼女をマリーと婚約させてしまったのか」と頭を抱えた。オズモンドの性別は間違えてはいなかったのだがあまりにも度胸がなかった。彼はマリーとの外出の際に破落戸に囲まれ、マリーが破落戸を拷問し「黒幕を吐かなければお前を剥製にして領地で弓の的にしてやる」と脅したのをきっかけにマリーが苦手になったそうだ。
オズモンドとの婚約は解消された。人間との浮気はしていなかったが、誘いをすっぽかしまくったので多少の慰謝料は払われた。舐められて蔑ろにはされていないが怯えられて逃げられたというのであれば怒れない。マリーも家族も「まぁ、…舐められた訳じゃないなら慰謝料まけてもいいかぁ」と各々の必殺武器をしまった。こういう武勇伝こそが誉れのお国柄。
逆に「貴族やるには根性がねぇ」とオズモンドは跡継ぎから外されたそうだ。
マリーの兄には財産簒奪しようとした親戚や入婿の浮気相手をワイバーンを乗り回しながら魔法で討ち取った侯爵令嬢の婚約者がいる。だから探せば他所の貴族でマリーの婚約者が見つかるかと思っていた。
だが、次の見合いは失敗した。見合い相手の義理の妹が茶会に乱入してマリーを罵ってきたので不審者と思い殴り倒して熱湯をかけその場で凶器を隠していないか身ぐるみ剥いだら破談になってしまった。見合いに乱入して罵倒する義妹なんて貴族としてあり得ないので不審者対応しただけのマリーに慰謝料請求はされなかったが、見合い相手はマリーを見ると怯えて話にならない。なので、破談。まだオズモンドの方が話が通じた。なお義妹は他所に養子に出されたそうだ。
マリーは最終的に領内の騎士ロベルトと結婚することになった。ロベルトは修羅の領主夫妻を尊敬する騎士団の強者なのでやべー武勇伝のある父と、呪術に詳しい母の娘だろうと気にしなかったし、この国伝統のプロポーズ『新鮮な魔物肉とそれに合うオリジナルソース持参』を繰り返しながらマリーを口説き、趣味の剥製作りが奇跡の一致をし結婚をきめた。
マリーの結婚式では天から赤いバラの花びらがふりそそいだ。鳩の群れを完全に手なずけたオズモンドは演出業で活躍中。嫁は見つからないが鳩たちをすべて判別でき楽しく暮らしているそうだ。
マリーの実家はオズモンドにいつぞやの慰謝料分増額した代金と鳩の餌を送った。鳩と仲良くな。
マリー…自称平均の蛮族してる伯爵令嬢。オズモンドには「言ってくれたらなぁ……いや、まぁ、ビビって無理なんだろうなぁ」と理解をみせている。気の合う旦那が見つかったので気にしていない。
マリーの実家…やべーやつを跡継ぎにしている。国境側で辺境伯と一緒に国防してるので、敵対国には『魔王配下名門』とびびられている。でも四天王ではない。もっとやべーのがいる。なお特産の羊毛は人を食うタイプの魔物で騎士団が討伐している。この土地では畜産業は魔物討伐業とほぼ同じ。
オズモンド…鳩と暮らす方が幸せ。実家は弟がついだ。鳩使いの腕を見込まれ騎士団が諜報としてスカウトにきたので逃げ回っている。動物使いの才能がある。
オメットさんちの義きょうだい…またの名を実験台。よく増減する。




