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【完結】学園もので吐血する俺、だれか助けて。  作者: 山田 ソラ


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第28話 神童先生、黒竜を拾った覚えはない

 教師最強決定戦が終わって数日。


 ルーファス・グレイは地下ダンジョンを巡回していた。


 学園教師である前に、このダンジョンの管理者でもある。


 誰も褒めてくれないが、意外と大事な仕事だった。


「第一階層異常なし」


 通路を歩きながら確認する。魔物の配置よし。罠の作動よし。壁の損傷なし。


「第二階層も問題なし」


 順調だった。


 最近は生徒たちも慣れてきて、大きな事故も起きていない。


 実に平和だ。


 第三階層で異変を見つけた瞬間、ルーは思わず足を止めた。


「……なんでいるんだ?」


 通路の先。


 ボス部屋の入口付近に、巨大な黒い影が寝そべっていた。


 見間違えるはずがない。


 以前、大暴れした挙げ句にルーに叩きのめされた黒竜だった。


 漆黒の鱗。巨大な翼。鋭い牙。


 普通なら見ただけで逃げ出したくなる存在。

 

「グル?」黒竜はルーに気付くと、どこか嬉しそうに首を持ち上げた。尻尾までゆっくり揺れている。


「いや、嬉しそうにするな」


「グルル」


「なんでここにいる」


 黒竜は答えない。いや、答えているつもりなのかもしれない。


 ただルーには分からなかった。「お前、ボスだろ?」


「グル」


「ボス部屋は?」ルーが後ろを指差す。


 黒竜も振り返る。数秒見つめる。そして、またルーを見る。


「グル」首を横に振った。


「帰れ」


「グル」


「嫌がるな帰れよ」


「グルル」


「ボスの居なくなるから帰れって」


 黒竜は尻尾をぱたぱた振った。まるで話を聞いていない。


 嫌な予感しかしなかった。ルーは額を押さえながら尋ねる。


「……まさか住み着いたのか?」


 その瞬間、黒竜は勢いよく頷いた。


「グル!」


 とても良い笑顔だった。


「なんでだよ!」ルーの叫びがダンジョンに響いた。


 黒竜は満足そうだった。


 どうやら以前の一件以来、完全に懐いてしまったらしい。


「普通は懐かないだろ……」


 竜の常識が分からなくなってきた。

 そんな時だった。


「先生ー!」


 聞き慣れた声が近付いてくる。ダンジョン実習中の生徒たちだった。先頭にいたミラが足を止める。


「あ」


 その後ろの生徒たちも固まった。


「竜だ……」


「黒竜じゃない?」


「本物?」


 ざわつく一同。


 黒竜も興味深そうに生徒たちを見ていた。


「グル?」可愛らしい声だった。


 沈黙。


 そして、「……可愛い」女子生徒の一人が呟いた。


 ルーは聞き間違いかと思った。


「今なんて?」


「可愛いです」


「竜だぞ?」


「でも可愛いです」


 周囲も頷く。


「目が丸いし」


「意外と愛嬌ありますよね」


「撫でてみたい」


「待て待て待て」


 ルーだけがついていけなかった。相手は危険度Sランクの黒竜である。普通は逃げる。だが生徒たちは平然と近付いていく。


「おい!」


 止める間もなかった。一人の女子生徒が恐る恐る頭を撫でる。黒竜は目をぱちぱちさせた。


 「グルルル……」気持ち良さそうに目を細めた。さらに喉まで鳴らしている。


「猫か!」思わずルーは叫んでしまった。


 周囲の生徒たちは大盛り上がりだった。


「可愛い!」

「触れた!」

「ふわふわじゃないけど気持ちいい!」


 完全に人気者だった。


 翌日。


 学園の掲示板に新しい張り紙が貼られた。


【お知らせ】 黒ちゃんに餌を与えないでください。          学園長


 それを見たルーは嫌な予感しかしなかった。


「黒ちゃん?」


 慌ててダンジョンへ向かう、すると案の定だった。


「黒ちゃんおはよう!」

「今日は肉持ってきたよ!」

「いい子いい子!」


 生徒たちが群がっている。

 黒竜もご機嫌だった。


「グルル♪」


 完全に懐いていた。


「おい」


 ルーが呼ぶ。

 黒竜が振り返る。


「帰れこの野郎」


「グル」首を横に振る。


「ボス部屋に戻れ!」


「グルル」


「ワガママは許しません!」


「グルルル」


 絶対に帰らないという強い意志だけは伝わった。


 数日後。


 黒竜は学園の名物になった。冒険者が見学に来る。観光客が写真を撮る。商人が関連商品を売り出す。


「黒ちゃんクッキー」

「黒ちゃんまんじゅう」

「黒ちゃんぬいぐるみ」


「なんで商品化されてるんだ……」ルーは頭を抱えた。


 さらに追い打ちが来る、国王レオポルト三世が視察にやって来たのだ。


「ほう」


 黒竜を見上げる。


「なかなか愛嬌があるな」


「陛下まで……」ルーは遠い目をした。


 黒竜は国王の前まで歩いていく。その場にちょこんと座った。


「グル」


 レオポルト三世は笑う。


「賢いな」

 

 頭を撫でる。黒竜は嬉しそうに目を細めた。


 周囲から歓声が上がる。


 ルーだけが現実を受け入れられなかった。


「もう駄目だ……」


 そして、一週間後。


 学園入口に新しい看板が設置された。


【王立魔法学園】 ダンジョンあります 見学歓迎 黒ちゃんいます


 ルーはしばらく無言で看板を見つめた。


「最後の一行おかしいだろぉぉぉ!!」悲痛な叫びが学園中に響き渡る。



 その頃、黒ちゃんが子供たちに囲まれて気持ち良さそうに昼寝をしていたからである。


 こうして危険度Sランクの黒竜は、誰も予想しなかった形で王立魔法学園の名物となった。


 本人?いや、本竜もまんざらではなさそうだった。




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