第23話 神童先生、ダンジョン教官になる
学園地下ダンジョンの管理者になってから一週間。
ルーファス・グレイ。通称ルーは、管理者権限の研究を続けていた。
「へぇ……こんなことまでできるのか」
管理者用の魔法陣を操作する。
すると地面から壁が生え、通路が変化した。
魔物の配置も変更できる。
宝箱も設置可能。
罠も自由自在。
まさにダンジョンそのものを作り変える権限だった。
「面白いなこれ」
ルーはニヤリと笑った。
そして、あることを思いつく。
「死なないダンジョンを作ればいいんじゃないか?」
学園の生徒たちは実戦経験が少ない。
だが普通のダンジョンは危険だ。
だからといって訓練だけでは成長しない。
ならば。
「死なないけど痛いダンジョンを作ろう」
教師としては正しい発想だった。
たぶん。
少なくともルーはそう思った。
その日から大改造が始まった。魔物は訓練用に弱体化。致命傷は与えられない。体力がゼロになると自動転移。骨折もしない。後遺症もない。回復魔法付き。完全安全設計。
ただし痛い。とても痛い。そして、疲れる。
ルーは満足そうに頷いた。「完璧だ」
全然完璧ではなかった。
翌週。
学園中に張り紙が出された。
【全校生徒へ】
【明日よりダンジョン実習を開始する】
【全員参加】
【欠席不可】
【ルーファス・グレイ】
学園中が騒然となった。
「全員!?」
「毎週!?」
「強制!?」
「聞いてないぞ!!」
もちろんルーは聞いていない。
勝手に決めたからだ。
そして実習当日。
「行け」
ルーは笑顔だった。
「嫌です!!」
生徒たちは泣いていた。
「実戦経験は大事だ」
「先生は楽だから言えるんです!」
「お前らも強くなれる」
「絶対嘘です!」
だが強制だった。
こうして学園始まって以来の地獄の授業が始まった。
生徒たちは毎週ダンジョンに潜らされた。
「ぎゃあああ!」
「オークだ!」
「逃げろぉ!」
もちろん死なない。
だが痛い。
「助けて先生!」
「頑張れ」
もちろん助けない。
死なないから。
やがて一か月後。
結果は驚異的だった。
生徒たちの実力が爆発的に向上したのである。
「魔物を倒した!」
「俺も!」
「レベル上がった!」
最初は文句だらけだった生徒たちも徐々に成長を実感し始めた。
しかし、問題があった。
保護者から苦情が殺到したのである。
「うちの息子が毎日筋肉痛です!」
「娘がオークの夢を見るそうです!」
「貴族の子供を何だと思っている!」
当然だった。
さらに。
もっと大きな問題が発覚する。
国王レオポルト三世が知らなかった。
ダンジョンの存在を。
「……待て」
王城。
報告書を見たレオポルト三世が固まった。
「学園地下にダンジョン?」
「はい」
宰相バルトロメウスが頷く。
「管理者はルーファス・グレイです」
「いつからだ」
「一か月ほど前です」
「なぜ余に報告が来ていない?」
沈黙。
宰相も沈黙。
騎士団長も沈黙。
全員が目を逸らした。
「ルーファスを呼べ」
王が静かに言った。
その静かさが怖かった。
翌日。
ルーは王城へ呼び出された。
「失礼します」
玉座の間。
レオポルト三世が笑顔だった。
嫌な予感しかしない。
「ルーファス」
「はい」
「学園地下にダンジョンがあるそうだな」
「あります」
「管理者だそうだな」
「そうです」
「なぜ報告しなかった」
「忘れてました」
一瞬。
玉座の間の空気が凍った。
「忘れていた?」
「はい」
「国家級案件を?」
「はい」
「余への報告を?」
「はい」
レオポルト三世の額に青筋が浮かぶ。
「ルーファス・グレイ!!」
「はい!」
「貴様ぁぁぁぁぁ!!」
王の怒声が城中に響いた。
「勝手にダンジョンを発見するな!」
「理不尽です!」
「勝手に管理者になるな!」
「なりました!」
「生徒を強制参加させるな!」
「強くなります!」
「まず報告しろ!!」
「それは本当に申し訳ありませんでした!」
ルーは光の速さで土下座した。
こうしてルーファス・グレイは二時間にわたって説教されることになる。
ちなみに。
ダンジョン実習そのものは成果が高すぎたため継続が決定した。
ルーは怒られた。
だが授業は続く。
そして生徒たちは思った。
「王様に怒られる先生ってやっぱり先生だな」
「そこなのか?」
ルーのツッコミが虚しく響くのだった。




