第19話 神童先生、ランキングの犠牲者になる
秋。
王立魔法学園は学園祭の準備で慌ただしくなり始めていた。
はずだった。
だが、生徒たちが熱中していたのは出し物の準備ではない。
「なあ、学園最強ランキング作らないか?」
誰が言い出したのかは分からない。
ただ、その一言が妙に受けた。
「面白そう!」
「じゃあ剣術科のガイアスは上位確定だな」
「エルナも強いぞ」
「騎士科のロイドも入るだろ」
そんな話が昼休みや放課後のあちこちで飛び交い始める。
そして、数日後。
学園の掲示板に大きな紙が貼り出された。
【王立魔法学園・非公式最強ランキング】
一位 剣術科三年 ガイアス
二位 魔法科三年 エルナ
三位 騎士科三年 ロイド
――以下略。
ここまでは普通だった。
問題は一番下である。
【特殊部門】
学園内最弱 ルー先生
学園外最強 ルー先生
「なんだこれ」
掲示板の前でルーは頭を抱えた。
意味が分からない。
いや、分かる。
嫌というほど分かる。
学園内では弱体化する。
学園の外なら普通に強い。
事実だ。
事実なのだが、堂々とランキングにされると納得できない。
「誰だ作ったの」
「満場一致でした」
横にいたミラが即答した。
「満場一致って何!?」
「皆さん納得されていました」
「納得するなよ!」ルーは叫んだ。
しかし、周囲の生徒たちは頷いている。どうやら本当に満場一致だったらしい。心当たりなら山ほどある。
授業中に倒れたこともある。保健室送りになったこともある。決闘で貴族を吹き飛ばしたこともある。
全部見られていた。
「……帰りたい」
心の底からそう思った。
だが、生徒たちは楽しそうだった。
そして数日後。
さらに面倒なことになる。
「先生」
「なんだ」
「本当に門一本で強さ変わるんですか?」
「変わる」
「見てみたいです」
「やめろ」
「見てみたいです」
「やめろ」
生徒たちの目がきらきらしている。
嫌な予感しかしない。というか、絶対にろくなことにならない。
しかし、放課後。
気付けば学園の正門前には人だかりができていた。
「始まるぞ!」
「ルー先生の実演だ!」
「学園の七不思議検証会だ!」
「勝手に七不思議にするな!」ルーの抗議は誰も聞いていなかった。
最初の挑戦者は剣術科二年の男子生徒だった。
「先生!勝負です!」
「嫌だ」
「お願いします!」
「嫌だ」
「そこを何とか!」
「はぁ……」押し切られた。いつものことだった。
まずは学園の敷地内。門から数歩内側。
生徒が剣を構える。
「いきます!」
踏み込んできた。
ルーは受け止めようとして「うっ」
体が重い。
魔力の流れも鈍い。
なんとか受け流したが、かなり危なかった。
「おお!」
「本当に弱い!」
「先生ギリギリじゃん!」
「だから言っただろ!」ルーが怒鳴る。
だが生徒たちは大盛り上がりだった。
そして次。
ルーは門を一歩跨いだ。
学園の外。
たったそれだけ。
それだけなのに。
「あ」
体が軽い。
魔力が自然に巡る。
いつもの感覚だった。
挑戦者が再び突っ込んでくる。
「はあああああ!」
「ほい」ルーは適当に風魔法を放った。
パァンッ!
乾いた音。
次の瞬間。
「ぎゃああああああ!?」
挑戦者が綺麗に吹き飛んだ。
三十メートルほど先で転がっている。
周囲が静まり返る。
誰も喋らない。
さっきまで騒いでいた生徒たちが、ぽかんと口を開けていた。
やがて。
「いや違いすぎるだろ!!」
誰かが叫んだ。
それをきっかけに爆笑が起きる。
「別人じゃねーか!」
「本当に同じ人か!?」
「なんだ今の!?」
「反則だろ!」
「俺たち今まで何を見せられてたんだ!?」
ルーは頭を抱えた。
だからやりたくなかったのだ。
その後も挑戦者は続いた。
学園内。「先生弱っ!」
学園外。「ぎゃああああ!」吹き飛ぶ。
学園内。「いける!」
学園外。「無理ぃぃぃぃ!」吹き飛ぶ。
検証は大成功だった。
誰も望んでいない方向で。
そして、翌日。
掲示板のランキングが更新された。
【王立魔法学園・非公式最強ランキング 改訂版】
学園内最弱 ルー先生
学園外最強 ルー先生
門付近最強 ルー先生
境界線支配者 ルー先生
「増えてるじゃねぇか!!」
職員室にルーの叫び声が響いた。
生徒たちは大爆笑。
ミラは更新されたランキングを見ながら静かに頷く。
「妥当な評価ですね」
「どこがだ!」
「検証結果に基づいています」
「研究発表みたいに言うな!」
「事実です」
「事実でも載せるな!」ルーの悲痛な訴えは誰にも届かなかった。
こうして彼は学園史上初となる、『場所によって最弱と最強を同時に獲得した男』
として伝説になる。
もっとも本人は全く嬉しくなかった。
そして学園祭まで残り一週間。
ルーはまだ知らない。
学園祭本番が、この程度では済まないほどの騒動を連れてくることを。




