第20話 神童先生、学園祭で死にかける
王立魔法学園最大のイベント。学園祭。
朝から校内は異様な熱気に包まれていた。飾り付けられた校舎、屋台、出し物、楽しそうな生徒たち。そして、ルーにとっての地獄。
「帰りたい……」
教師用の腕章を付けたルーは、開始五分で後悔していた。隣ではミラが護衛のように立っている。
「先生、頑張ってください」
「お前は俺を殺したいのか?」
「生きてください」切実だった。
最初に襲ってきたのはメイド喫茶だった。
「ルー先生ー!」生徒たちに捕まった。嫌な予感しかしない。
「うちのクラスに来てください!」
「断る!」
「教師として視察です!」
「くっ……」
正論だった。教師なので断れない。
教室の扉が開く。「お帰りなさいませ、ご主人様♡」
「ぶふっ!」軽く吐血。開始十分、早くも一回目。しかも、教室中の女子生徒がメイド服だった。
「ご注文は?」
「帰宅」
「ありません♡」
「そうだろうな!」
さらに追撃。「先生限定サービスです♡」
「ごふっ!」二回目。
ミラが即座に引きずり出した。「撤退します」
「頼む!」
しかし、学園祭は甘くなかった。次の会場。
【ミス学園コンテスト】
「今年の司会はルー先生です!」
「誰が決めた!?」
「生徒会です!」
「余計なことを!」逃亡失敗。
「エントリーNo.1!」歓声。
「エントリーNo.2!」歓声。
「エントリーNo.3!」歓声。
テンプレの嵐。「ごほっ!」吐血。「ごふっ!」吐血。「ぶふっ!」吐血。司会台の下に血の付いたハンカチが積み上がる。
途中で保健室送りになった。
しかし、まだ昼だった。「帰ります」
「駄目です」ミラに止められた。
「教師ですから」
「ちくしょう!」
午後、最悪の場所に辿り着いた。
【恋愛成就の木】
学園祭限定、通称告白スポット。ルーは看板を見ただけで顔色が青くなった。
「ミラ」
「はい」
「逃げるぞ」
「遅いです」
「ルー先生!」呼び止められる。「先生、相談が!」
「やめろ!」
「好きな人が!」
「やめろぉぉぉ!!」吐血。
「告白したいんです!」
「ぐはぁっ!」吐血。
「どうすれば!」
「知らん!」吐血。
周囲の生徒たちが爆笑している。
夕方、ルーの体力は限界だった。しかし、最後のイベントが残っていた。
【後夜祭】
学園祭の締め、伝統行事。巨大な魔法灯の下で踊るイベント。
「終わった……」ルーは絶望した。テンプレの王様だった。
生徒たちは踊る、笑う、青春する。そしてルーは「ごふっ」「ぶふっ」「ぐはっ」ひたすら吐血する。
保健室、神殿、保健室、神殿、保健室、神殿。学園祭の間に三往復した。
終了後、学園長室。学園長が真顔で紙を見ていた。
「ルー先生」
「なんでしょう……」
「学園祭期間中の吐血量が過去最高を記録しました」
「嬉しくない」
「歴代一位です」
「もっと嬉しくない」
翌日、学園新聞が発行された。
【学園祭特集】
大成功!来場者数過去最多!売上過去最高!ルー先生吐血量過去最高!
「最後おかしいだろ!」
学園中にルーの叫びが響く。生徒たちは大爆笑。ミラは静かに新聞を折り畳んだ。
「おめでとうございます」
「何もめでたくない!」
こうしてルーは『学園祭で最も血を流した教師』という、まったく欲しくない記録まで手に入れてしまうのだった。




