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㉓レオルドルート 後日談Ⅲ


 後日、私はリカから、ゲーム上のレオの話をより詳しく聞き出すことにした。


 この前の一件を踏まえると、私が直接命令する形で、レオを意図通りに誘導するのは難しいと判断したためだ。

 ならば、未来を正面からねじ曲げるのではなく、レオ自身の思考や選択が“自然と”望ましい方向へ向かうように、地ならしをしておく必要がある。


 そのため、リカが知っているゲーム内の「レオ」という人物像を明確にしておく必要があるためだ。


『うーん、前にも説明した“マティルダに対して強いコンプレックスを持っている”って話を、もっと詳しく、って言われてもな~』


 リカは、少し考え込むような声音になる。


『そうだな~……まず、学園内でのレオ様は、ほぼトップの成績なんだよ』


「ほぼ?」


『うん。魔術、剣術、座学、礼法――どれをとっても優秀で、先生たちからの評価もかなり高い。

 でも、ゲーム内の評価でも、周囲のモブの噂話でも、“姉と比べると”って感じで比較されちゃってて、それがストレスになってるみたいでね』


 リカは、どこか苦笑混じりに続ける。


『だからレオ様の前では”マティルダの話は絶対にNG”で好感度がゴリゴリ減ってく。そして、レオ様もその感情を自分でもよく分かってるから、ひたすらに努力をやめないタイプなんだよね。

 だから、主人公が遊びに誘っても、好感度が“親愛”以上にならないと、「訓練で忙しい」って問答無用で断られちゃう感じ』


「……レオは将来、そこまでストイックになるのね」


 片鱗はたしかにある。

 今も少し時間が出来ると訓練や勉強へと時間を充ててしまっている。

 けれど、そんなに私に対して劣等感も感じているのだろうか、

 確かに、前は確かに避けられていたが、この前の模擬戦以降は、私に対して尊敬もあるのだろうが、結構な軽口や物言いをするようになってきている。

 好かれてるかどうかはわからないが、嫌われていないだろうというのが今のわたしがレオに関して思い抱く印象だ。


 まあなんにせよ、レオにそんな陰口をいう連中に対しての早期発見と処分の方法を事前に考えておく必要がある。


『あとね、印象的だったのが一つあってさ』


 リカの声色が、少し真面目になる。


『主人公とレオ様のデート中に、マティルダと“ばったり会うイベント”があるんだよ』


「デート中に……?」


『うん。街で一緒に買い物したり、訓練を見学したりとか、色々あるんだけど、その中の一つでね。

 学園のある都市の高級店で、たまたまマティルダと遭遇するの』


「そのとき私は……どう振る舞うの?」


『すごく自然。というか、完璧に“出来た姉”って感じ』


 リカは、少しだけ柔らかい調子で説明する。


『レオ様に対しては、「ちゃんと休みなさいよ」って感じで軽く声をかけて。

 主人公の方には、「弟が世話になっているわね」って、結構優しく挨拶してくれる』


 それは――少なくとも、私が周囲の貴族に普段している振る舞いと、大きくは違わない。


(が、リカのいう主人公は平民の可能性が高いはず。それに敬意をはらっているのは)


正直不明だ


『それ以外にも細かいイベントもあるけど、レオ様関係のイベントでマティルダが出てくるものは、何事もなく平穏に終わるものが殆どなの。

 マティルダ側のスタンスとしては、弟の将来を案じている“良き姉”として描かれてて、正直、ユーザーの過半数は「この上品な女性は誰!?」って衝撃を受けるイベントなんだよ』


『でも、謎なのが――なぜか、マティルダが出てくるイベントは“主人公に対するレオ様の好感度が下がる”んだよね。

 だから結局のところ、マティルダはユーザーからは「出てきて欲しくない存在」には変わりはないんだけどね』


「――――レオのことより、学園での私の活躍がすごく気になるわね」


『マティルダは“ゲームオーバーが擬人化した姿”とか言われてたね』


 リカは、どこか同情するような、でも笑いを堪えているような声で続ける。


『マティルダは基本、バッドイベントとかゲームオーバーの時にしか出てこないしさ。

 直接的な関係が無くても複数の攻略対象の男と仲良くしていると、「学園の風紀を乱している」とか因縁つけてくるし、

 成績がへぼいと「あなたはこの学園に相応しくないわね」で、容赦なく退学させてくるし』


「……まあ、程度は分からないけど、真っ当な言い分にも聞こえるわね」


『まだあるよ』


 リカは、指折り数えるように続ける。


『レオ様を含めたハーレムを形成している状態で、学園主催の魔術大会に参加するとね。

 主人公の初戦の対戦相手としてマティルダが出てくるんだけど――』


『文字通り“半殺し”にされて、

 ゲーム内時間で最低でも半年間の入院が必要になるくらいの大怪我イベントが発生するの』


「…………」


『他にも、特定ルートを進めてると“留学”という名の転校をさせられたり、

 強制的にルート分岐を潰されたり、とにかく、発生したら致命的な妨害が多いんだよね』


「なんか話を聞いていると、ゲームという“システム側の裁定者”として私は活躍しているのね」


『流石マティルダ! 理解が早いね。

 正にそんな感じの存在で、ゲーム的にはプレイヤーが“背伸びやズルをしすぎた時”に出てくる、

 “調整役”みたいな登場の仕方だね』


「なんとも言えない役割を与えられているのね、ゲーム内の私は」


 ため息をひとつ吐く。


「それで――レオは、そういう私を見てどう感じていたのかしら?」


『そこなんだよねえ』


 リカは、少し声を落とした。


『さっき言った“デート中にばったり会うイベント”もそうなんだけど、

 レオ様、マティルダと会った後は、だいたい微妙に機嫌が悪くなるんだよ』


「機嫌が悪くなる?」


『うん。イベント後のセリフで、

 「姉上には、昔から頭が上がらなくて」みたいな、自嘲気味のセリフが出たり、

 「もっと強くならなければ」とか、自己評価がやけに厳しくなったり』


「……なるほど」


『ゲームでは、最後まで“謎の多いまま”なんだ。レオ様とマティルダの二人の間で、何があって、何をこじらせて、今の距離感になったのか――その謎が解明されると思ったのに、』

『だから、私も最初は“マティルダがレオ様に対してなんか悪いことしてるんじゃないかな”って思ってたんだけど、

 言い方にはだいぶ問題はあるけど、レオ様のことはしっかりと気遣ってフォローもしているし最近はなんか仲良さげだし』


『やり込みプレイヤーとして、その謎がすごい気になるぅぅー。マティルダ教えてよ』


「私にも分からないんだから、しょうがないじゃない。

 そして、あなたの存在を秘匿した状態でレオには聞けないから、もうどうしようもないわね」

「他に何か、レオのことで気になる事は無いの?」


『第二王子を”滅茶苦茶”嫌ってるくらいかな?』


「はあ?」


 思わず変な声が出る。


 第二王子は私と同い年であり、王位継承権第二位の存在である。

 が、継承権第一位の第一王子とは腹違いの兄弟で、若くして跡目争いに巻き込まれた結果からか、

 常に周りの目を気にして、優しく平穏に生きており――良くも悪くも毒にも薬にもならないような、

 そんな“空気みたいな存在”だ。


 嫌われる要素が、今ひとつ思い浮かばない。


「レオは第一王子派になったのかしら?」


『いや、第二王子派……だと思うよ』


「……どういうことかしら、嫌っているのよね? でも“第二王子派”なの?」


『まあ、そこは…………色々と政治的な都合がありまして』


 リカは、ばつの悪そうな声音になる。


『あと、この“第二王子を嫌っている原因”もゲームでは語られなかったからね。

 なんか考察してる人もいたけど正直、私にも分からないところなの』


「私の知るところだと、レオと第二王子は……別に仲は悪くはないんじゃないかしら」


 社交の場で顔を合わせれば、礼儀正しく言葉を交わす程度の仲。

 距離はあるが、露骨な敵意があるようにも見えない。

 それ以上でも、以下でもない――そんな印象だ。


『いや、ゲームでは第二王子と仲良くしていると、レオ様の好感度は途轍もなく下がるし、

 パーティー編成する時にも、第二王子がパーティーにいると、レオ様は絶対に参加してくれないのよ』


「レオが一方的に嫌っているのね。しかし、思い当たるものはないわね」


 いくら王家の権威が衰えているとはいえ、

 仮にも“自国の王子”に対して、その態度はどうなのだろうか。


 ……まあ、確かにヴァルデン家が王家へ革命戦争をしかけた場合、

 現状の戦力差だけを比べれば、ヴァルデン家があっさり勝ってしまいそうではある。


(“王家の犬にはなりたくない”という意思表示にしては、なんだか子供っぽいわね)


 しかし、それ以上に――もっと根本的な違和感があった。


「そんな第二王子にしろ、レオにしろ。

 そんな国の要人が、“魔王討伐戦”の主戦力として送られるっていうのは――どうも納得がいかないわね」


「いくらこの国の起源的に、魔王を討伐して国を興した勇者と聖女が国を作り、その子孫が今の王家や貴族、という伝承があるとはいえ――まだ十代の若者が受け持つ戦線ではないわね」


 その責を負うのはどう考えても、親世代の役割であろう。


『いや、やっぱ“肝”になるのが聖女さまだからなんじゃないかな?』


 リカが、少しだけ真面目な声で返す。


『それに、戦いといっても軍同士の衝突じゃなくて、“魔王だけを打ち取る”――

 いわば大将戦? ボス戦? みたいな感じだからなんじゃないかな。

 だから少数精鋭で、聖女+護衛兼勇者数名、みたいなパーティ編成になるんだと思う』


「少数精鋭ね……」


 確かに、正面から軍をぶつけ合う総力戦ではなく、

 “魔王を討てば戦線が一気に崩壊する”という構造であれば、

 優秀な個人戦力を送り込む、という選択肢は理解できなくもない。


 だが、理解と納得は別だ。


 その後も、私はリカに色々と質問を投げかけたが――


『乙女ゲームに、そんな細かい政治要素を求められても困るんだけど!?』


 終盤、リカが若干キレ気味になってきたので、ひとまず話を切り上げることにした。


 そんな、レオの話から発展して、この世界の事情について延々と議論を交わしていた時だった。


 コンコン、と。


 私の執務室の扉をノックする音が響いた。


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