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第9話【学徒動員】

 そして、信じられないことが起きた。


 川崎商工との先鋒せんぽう戦。


 昨年から先鋒を務める3年の槙野まきのはさすがの動きで、早々に相手から1本を奪う。


 目に目えて相手との地力の差が大きく、このまま何事もなく試合は終わると思ったそのときだ。


 メンの二段打ちに跳んだ槙野まきのが急に踏ん張ればないまま倒れた。


「おい!救急バッグ!」


 呆然とする俺を倉富くらとみが揺すって指示を出す。


 試合が中断し、槙野が左脚を引きずりながら選手席に戻ってくる。


 我に返ってコールドスプレーを引っ掴み、槙野の脚に吹きかける。


「おい、ったのか」


 徳田に聞かれた槙野は


「はい…。いや、ひょっとしたら…」


「あるいは肉離れか」


「…」


「この試合の残り時間は立てるのか」


 槙野は自信を持って答える。


「それは何とかなります」


「わかった。おい!倉富くらとみ、お前が雑用をやれ」


「はい!」


外田そとだ、お前は隣の試合を見ながら素振りしとけ」


「えっ!?今、試合中で席から離れるのは…」


「いいから!」


「は、はい!」


 大変なことになった。これは現実なのか?


 あれ、跳躍素振りってどうやるんだっけ?手と足がちぐはぐで訳が分からない。タコ踊りでもやっているのか、俺は。


 そうだ、他校の試合を見なければ。


 新羽にっぱ西の先鋒戦はもうとっくに終わっている。しまった。


 星辰大せいしんだい平塚もだ。


 山内章領やまうちしょうりょうもちょうど2本目を取って終わったらしい。


 あれ?章領しょうりょうの先鋒、ボードに一場って書いてないか?兄弟なのか。いや、副将には喜田きたって書いてある。


 嘘だろ。上がってきたら準決勝で俺は一場いちばと試合することになるってことか。


 これは、本当に、どういうことなんだ。


 そのまま素振りを続けても、汗は流れるのに体は少しもほぐれない。


 前3つで試合が終わり、大将戦が始まるのを確認して選手席に戻る。


「槙野、厳しいか」


 団体礼が済んでから、徳田は一応の確認をする。


「すみません…。これ以上は…」


「分かった。外田そとだ、先鋒で出ろ」


「はい!」


 とうとう、とうとう赤手紙を突き付けられた。

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