第8話【さて、本番前の本番】
インハイ予選団体戦の部の会場は川崎市のとどろきアリーナ。
「へいへい!外田のくせに社長出勤しやがって。ホテルから車で出てくるたぁ、偉くなったもんだな」
柴田に盛大に絡んできた。
正直こうやって強めにイジってくれているのはありがたい。特にレギュラー外の先輩からは、最近いいように思われていないのを感じる。剣道しかできない人間の集団なのだ。試合の実績で進学や就職を決めなければならない、まさに死活問題だからこそ、ポッと出の1年生に対してヒリヒリするのは仕方ない。
「うむ、苦しゅうない」
こちらも努めておどけながら返す。
「けっ。検量に行ってやるから竹刀よこせ」
例のごとく下働きを終えた同級生たちが客席についている。今回は8列ある光誠陣地のなかでも、1年生は少し席が後ろの側だ。
保護者に卒業生に、関東のときよりも応援に駆け付けた後援者の数が多い。柴田たちは下っ端なので、駆け付けた人たちに試合が見やすい良い席を譲る。
関東予選や関東大会はある程度のところで負けても取り返しがつく、または先に繋がる大会でもなかった。しかし今回は優勝以外を許されていないのだ。
インターハイ優勝を目標に、全国から親元を離れて光誠学園に集まったのだ。
その予選ともなれば応援にも一層熱が入るのも当然のこと。
「恵一、あんた本当に光誠の選手なんやね」
母も福岡からすっ飛んできていた。
「補欠2だけどな。先輩たちは関東でぶっちぎっていたし、出番は期待しないでくれ」
「そんなこと言って。一番近くで先輩たちを応援できるのはあんたなんだから、気を張ってなきゃ」
「やっぱり出ると思ってねえのか。分かってるよ。俺、雑用があるから下降りるわ」
久しぶりのお節介をくらって、なんだかこれ以上話していると泣きそうになってくる。そそくさと母のところから離れる。
序盤の山場は所詮となる2回戦の東山田高校。ここは公立の中でお体育科のある高校で、県内で実力があっても南和大橘に呼ばれなかった中学生を集めて鍛えている。
ベスト8の常連だが、去年は湯河原総合高校に金星を献上し、ノーシードとなってしまった。
先に一回戦で体が温まった東山田と、初戦の光誠学園。
あまり嬉しくない相手だったが、3-1で勝利した。
ただし先鋒の2年生 倉富の調子が、傍から見ていても分かるくらい悪い。実際、1敗は彼によるものだ。
続く3回戦、またしても倉富の動きは精彩を欠いて敗れる。
倉富を4回戦まで使い。準々決勝まで本来の先鋒である槙野を温存する予定だったが、見かねた徳田は「次の試合は先鋒に槙野。準備しておけ」と言い放った。
なんだか慌ただしくなってきた。
入れ替え自由ではないので、槙野を使うと下げた倉富は起用できなくなる。
ここで槙野を温存したまま準々決勝までのつなぎ役に俺を使うという選択を取らなかったのは、要するにそこまでは期待されていないということだ。
「外田、合間合間に体を温めとけよ」
と矢野が言う。
「お前は1年生とかじゃなくて、光誠の選手なんだ。近くでパチパチ気楽に拍手させるために呼んだわけじゃねえんだから、気持ち作っとけ」
「はい!」
これは正直助かる。初めての高校の大会でこのトラブル。なにもしないと落ち着かないなか、やることを与えてくれた方が気持ちとして落ち着く。
そういえば他所の勝ち上がりはどうなっているのか。
トーナメントの逆山では南和大橘と金沢学院が順当に勝ち上がり、波乱がなければどちらかと決勝で戦うことになるだろう。
一方こちらの山ではうちは4回戦で川崎商工、準々決勝で新羽西。
準決勝は恐らく四隅のシードの星辰大平塚になると思われるが、山内章領がいる。




