第52話【誰がために】
「櫛枝で10分以上かからなかったのは予想外だ。よくやった」
さすが最終学年のインハイ。徳田にこうも称賛されるのは、最初のインハイ予選以来ではないだろうか。
「そして決勝戦では、まるであつらえたかのように内海。対策については昨日で考え尽くした。お前の方でも昨日今日ではない思い入れがあるだろうから、戦い方について今更他人がどうこう言うところではない」
非常に物分かりが良くて助かる。
「俺から強いて言えるのは、お前は今多くの人に応援されているということだ。さらに言えば、今のお前があるのは応援してくれいる人だけによるものではないということ」
なんかさっきと被ってねえか。
「本当は何も言うべきじゃないんだろうがな。高校剣士として完成さているお前には、少し頭に入れておいて欲しい。ない、お前ほど剣道に打ち込んできた人間だ。いずれは本当の礼儀が分かるはずだ」
知らねえよ。なんだ、急に礼儀がどうたらって。
深く考えても頭が混乱するだけ。素振りとシャドーに専念しよう。
と思ったら柴田が声を掛けてきた。
「あのさ、外田は誰のために頑張ってるの?」
「あ?なんだおい」
不安げな目で柴田が言ってくる。試合するのは俺だぞ。お前が何を心配するというのか。
「なんだよ。最後のインハイで感慨にふけろってか」
「一場に見てもらいたいのか」
グサッときた。思わず観客の一場と、目の前の柴田とを見比べる。片方は近くて遠い。もう片方は遠くて近い。
「いや、それはさ…」
言葉が続かない。俺も大したことないな。こういうときに黙ってどうするんだ。
「俺、お前の頑張りを一番知ってるのが俺だって自信がある。だって、ずっと一緒に稽古してきたから。矢野先輩とか同期のみなよりも、お前と真っ向から磨き合ってきたから。だから、あえて頑張れなんて言わない。俺はお前と頑張ってきたから。ただ、見てる。今日もお前のことを見てるからな」
「見てよかったと思わせてやる」
鼻声にならないよう、短く返してから面を着けた。




