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第48話【いた?】

「おい、一場のあれ知ってるか」


 無遠慮に声を掛けてきたのは尾道だった。


 俺は最近、尾道とは距離があったので、急に声を掛けられたのと、意外な切り口とで戸惑った。と言うのも、学年が上がるとレギュラー組とそうでないものとで取り組み方に熱量の違いが如実に表れる。


 それはそうだろう。入学当初と今とでは、自分の将来性や周囲からの期待値なんかが決まってきて、もはや努力し始めたところでどうしようもない段階にきている。尾道の場合は悪い方向、下のレベルで固定化されてしまっていたからだ。


 それによって寮や部内でもある種の住み分けができていたのだが、一場の話題とあっては素通しとは出来まい。


「あれってなんだよ」


「俺さ、この前のオフに合コンに行ったんだよ」


 まったくこのバカはAチームが遠征、残りが神奈川に残って稽古の期間で、自主練もせずに不順異性交遊に勤しんでいたらしい。 こんな肉じゃがの擬人化みたいなやつを相手にする女子が存在するのか?おまけに根が腐ってやがるときた。


 しかし、尾道のことはどうでもいい。


「そこに一場はいたのか」


「いや、あいつ本人がいたわけじゃないんだけどさ」


「あ?」


「章領のコがいてさ。俺が剣道部だって言ったら、一場の話になったわけ。学校で表彰されてたから、知ってたってんでさ」


 なるほど。お勉強学校の中で数少ないまともな運動部なら、県大会上位程度でも表彰されるってことか。


「それで一場はどうしてんだって聞いたら、あいつ部活辞めて塾に通ってるんだってさ」


「はぁ?辞め、え!?」


 何一つ整理がつかない。辞めったって、なにをだよ。思わず尾道に食って出る。


「なにって、そりゃ、剣道部に決まってるだろ」


「…」


 絶句してしまった。何やら聞いたところ、一場が剣道部を辞めて某大手進学塾に通っているのを、尾道が知り合った章領の女子から聞いたらしい。


 そんなもの信じられるか。あれだけ俺を苦しめたんだ。俺の攻めが、その程度の根性のやつに避けられていたとでも?いくら勉強で学校に入った連中だからといって、剣道に対してその程度の思い入れのやつに凌がれるほどの剣道をしてやったつもりはない。


 そんな俺の考えを嘲笑うように、やつは依然と姿を消したままだ。お前は、本当に辞めてしまったのか?

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