第4話【頼れる先輩】
来たるべき関東大会神奈川県予選団体戦の部。
選手のほとんどは遠方から応援に来た保護者の泊まるホテルに前泊して、そこから会場に向かう。
一方の俺たちは眠い目を擦りながら寮から電車で会場の小田原アリーナに向かっていた。
「ほんとここって神奈川じゃねえよな。先週から慣れんわ」
「んー?俺は中体連の関東で行ったことあるから気にならないよ」
小田急小田原線の車内で同級生の夛田と柴田が話している。
秋田出身の夛田は関東にほとんど行ったことがなかった。対して小田原アリーナで試合をした経験がある柴田は気にも留めていない。
それを横で聞いていた俺は
「わかるわ~。神奈川って都会だと思って、光誠の見学に来たときはすげえテンション上がったのにさ」
「小田急線に乗ってたら背の高い建物がどんどんなくなってって、山しかみえなくなってくんだよな」
「ほんとそれ!」
実家が福岡といえど都市部からは離れた場所に位置するので、秋田出身の夛田とはカッペトークが弾む弾む。
「最初横浜で電車に自転車持ち込めなくてびっくりしたわ」
「ごめん夛田。それはわからん」
「えっ!?」
「俺はわかるよ。その現象」
「なんだお前!話聞いてたのかよ」
奈良出身の尾道はスマホゲーに熱中していると思いきや、それなりに聞いていたようだ。
地方出身者が都会のアラを探してはしゃぐという軽妙洒脱なトークを繰り広げているうちに螢田に到着。
改札から吐き出されて15分程度歩くとアリーナ入り口あたりが見える。去年インターハイ予選で準優勝だった川崎商業高校の生徒らが真っ青なジャージで群れを成している。
「いったい何時から開場待ちしてやがんだよ…」
比較的に部の縛りや規則が緩い中学の出身だった柴田がげんなりするのも頷ける。開場が8時半で今が7時10分くらい。何時出発というか、もはや連中はここに住んでいたのか?
まぁ、小中学生の大会の開場待ちで保護者が列の場所取りをするわ地元の東京の道場が仕切りだすわで、もっと酷いものもあったが。
なんにせよご苦労様なことで。
川商の連中がまだ少し冷える空の下で立ち呆けているのを尻目に俺たちは先に入場して、会場設営をやらされる。
他校の生徒と協力してコート設営やトイレのスリッパを置くなどの軽作業で、さして難しいことも体力がいることもない。
駆り出される学校の特権で応援席を早く確保できるし、さっさと武旗を張り出して竹刀の検量をやるだけだ。
結果から言うと光誠学園は優勝した。今年の1月の全国選抜予選で決勝を戦った南和大附属橘高校にも3-0と完封で下した。
「やっぱ良い剣道するな、先輩たちは」
「横綱相撲って感じだよな」
思わず漏れてしまった感想に柴田が返してくれた。いや、剣道の例えに相撲を出すのはどうかとは思うが。
しかし全くその通りで、光誠の剣道はまさに横綱相撲。ある程度個々の違いがあるものの、しっかり正面から構えてまっすぐ出頭を狙う正剣。
堂々たる勝ち方は見ていて清々しい。
「それと橘も大したことじゃないんじゃねえの?準決勝とかほぼ負けてただろアレ。正直、かなり審判に助けられてて怪しかったよな」
「相手のとこもそんなに地力あるように見えねえしな。代表戦もポカポカ当てられまくってたし、そんな怖く見えない。逆に相手の山内章領ってどこよ?聞いたことないんだが」
そうだ。ベスト4で橘に敗れた山内章領はベスト16のシードから勝ち上がって準決勝でも南和大を食いかけていた。
ノーマークだっただけに、大金星の期待からか一躍会場の注意を引いていた。
「副将の一場。あいつ、個人もベスト8までいってたろ。1年生だってさ」
「タメかよ!?関東じゃ有名だったの?」
「いや、とりあえず中体連の関東大会じゃ見たことないし聞いたこともないな。1年なのもさっきそこら辺のやつが話してたの聞いただけだし」
柴田も知らないようだ。
「ふーん。インハイ予選でこっち側のトーナメントに来なきゃいいけどな」
「一場は東山内中の出身だよ」
コート前に張り付いてビデオ係をやっていた片倉が帰ってきた。片倉は付属上がりで神奈川県出身。一場のことは知っているらしい。
「おー、おかえり。東山内って強いのか?」
「いや全然。団体は市大会に出れるかどうかくらいだ」
「じゃあ、一場ずば抜けてたんだ」
「一場も個人で県大会に出れなかったくらいだよ」
「嘘だろ?無名中の無名じゃねえか」
「でも山内章領自体は一昨年から強化を始めたんだよ。7年前にどっかの体育大学卒の若手の先生が来てからガチでやりだしたって。これからいい選手が入ってくるようになるかも」
県民の片倉でさえもぼやっとした知識。
しかし、これから俺たちが神奈川で戦っていくには無視できない存在になるのかもしれない。




